第9話 八方塞がり
俺は高熱が出てフラフラになりながらも立ち上がった。
『ご、ご主人様、無理はしないでください。うう……』
人化したラルゥは涙を流す。
こいつは泣き虫だな。
「し、心配すんな。俺は絶対にこのダンジョンから出てやるんだからよ」
そうだ。俺には目的があるんだ。
デオック達をぶっ飛ばして、預金通帳を取り戻し、妹の病気を治すっていう目的がな!!
なんとかこのダンジョンを出ることを考えよう。
使えるスキルは
もしかして、こんな使い方もできるかな?
「このダンジョンの地図を表示してくれ
鑑定不可。
絵や図形は出せません。
クソ。流石に無理か。
「じゃあ、ダンジョンの出口を教えてくれ
鑑定不可。
あくまでも数値や分析が基本です。
うーーん。万能ではないのか……。
数値や分析……。そうか!
「この場所で風の強さを方向別に数値化してくれ
鑑定結果。
東 4
西 1
南 3
北 2
東の方角がもっとも強い風が吹いています。
「よし!! いいぞ!!」
「ご主人様。風の強さなんか見て何がわかるんですか?」
「この数値で明白だ。風は東から西に向かって吹いているんだよ。風は地上から吹いて来るから、出口は東だ」
「なるほど!! 流石はご主人様です!! あ、でもでも、方向ってどうやってわかるんですか?
「ふふふ。松明の火さ」
俺は松明の火の向きで風の強い東を見つけた。
「うわぁ! 凄い知恵です!!」
「ダンジョンに潜って3年だからな。多少の知恵はあるさ。ダンジョンは入り組んでいるから松明の火の向きだけでは出口の方角は判断できない。でも
「アハ! 流石はご主人様です!!」
やれやれ。なんとか泣き止んでくれたな。
「ラルゥ。剣に戻ってくれ』
「かしこまりました! 魔剣モード!!」
ボン!
煙に包まれた少女は魔剣へと姿を変えた。
さぁ、出口に向かうぞ。
◇◇◇◇
俺の眼前には大きな門が建っていた。
『ご主人様。これが出口ですか?』
「いや……。これは中間ゲートだ……」
『なんですそれ?』
「深いダンジョンは中間にゲートがあって、専用の鍵やゲートボスを倒さないと開かない仕組みなんだ」
『あ、開かないんですか?』
押してみる。
「だな。とても無理だ」
『びぇ……。こ、これじゃあご主人様が、閉じ込められちゃったってことですか?』
「な、泣くな。なんとかするから」
『うう……ご主人様ぁあ……』
さぁて困ったぞ。
発熱は治りそうにないしな。
回復アイテムは無いし、出口には進めないしで八方塞がりだ。
ズシン……ズシン……。
目の前に現れたのは鋼鉄の大きな亀。
その体長は5メートルを超える。
クソ……。弱目に祟り目ってやつだ。
「メタルタートル。武器の壊し屋だ」
『知っているのですか?』
「ああ。何度か戦ったんだがな。その度に武器を折られたよ」
『硬いモンスターなんですね』
「コイツには魔法も効かないしな。この界隈でコイツを倒した冒険者はいない」
メタルタートルは手足を甲羅に引っ込めてゴロゴロと転がり俺に向かって来た。
「くッ! 避けるしかない!!」
ゴワーーーーーーーン!!
ダンジョンの壁にぶつかると岩土を舞い上げた。
なんとか避けれたが、あんな攻撃を受けたらぺちゃんこだ。
ええい! もしかがあるからやってみるか!! 遠距離攻撃だ!!
「
炎と水の左右攻撃。
しかし、メタルタートルは涼しい顔。
「クソ! やはり効いていない」
剣で攻撃してもいいが、折れればばラルゥが心配だ。
「逃げるしかないか……」
『ご主人様。私を使ってあんな亀のモンスター斬って下さい』
「いや、しかしだな。俺は何本も銅の剣を折られてるんだぞ。他の冒険者だって同じだ。お前が折れたらどうするんだよ。な、泣くだけじゃ済まないぞ」
『……ご主人様。私の心配をしてくれているのですね。もう本当に優しいです! ますます好……。いえ、ゴフンゴフン!! な、なんでもありません!! とにかく私は大丈夫ですから!!』
「ダメだ。危険なことはできない」
『私は天空に住む魔剣人! 地上のモンスターで斬れないモノなどありません!!』
たしかに……。以前カエル戦士を鎧ごと斬ったことがあった。
この魔剣の切れ味なら、あるいは……。
『私を信じて下さい!!』
ふ……。仲間に裏切られた俺が誰かを信じるか……。
でも彼女とは何か特別な奇縁があるな。
腹は括った!
「お前を信じる!!」
メタルタートルは再び俺に向かって転がり攻撃を仕掛けて来る。
ゴロゴロゴロッ!!
めい一杯いくぞぉ!
「だぁああああああああああああああああああああああああッ!!」
斬れてくれーーーー!!
ザンッ!!
メタルタートル真っ二つ。
「よっしゃ! 斬れたーーーーーーーーッ!!」
亀は絶命して地面に伏した。
『てれてれってれーーーーッ!! れべるあーーーーっぷ!!』
何!? レベルアップだと?
メタルタートルは経験値が高かったのか!!
よおおし。この状況を打開するスキル来てくれぇえええ!!
ゲートを破壊するスキルとか、鍵を見つけるスキル!! 地図を表示するスキルなんかもありだ!!
『レベル6になりました。スキル
ラ……ライフ? ライフって??
『このスキルは一日一回だけ体力や、わずかな傷を回復することができるんです』
おっしゃあッ!! 回復キターーーーーーーーーーーーーー!!
「
サワワ〜〜〜〜。
俺は魔剣から発せられる淡い光に包まれた。
気持ちいいい!! この光、最高かも!!
完全に熱が引いたぞ!!
脇腹の傷は見事に治癒されていた。
「よっしゃあああああ!! 復活ぅううーーーーーーッ!!」
ラルゥは
美少女の姿になった彼女は俺に抱きつく。
「あは! ご主人様良かったです!! 私も嬉しいです!!」
メイド服から溢れそうなほど大きな胸は俺に密着。同時に甘く花のような体臭が鼻腔一杯に広がった。スベスベの白い肌とサラサラの髪の毛がなんだかこそばい。
うーーむ。凄いサービスかもしれん。ここは楽園ですか……。
突然、不気味な音が辺り一面に共鳴した。
ギギ……。ギギギギギギギギギギィイイイイイイイイ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオ!!
それはゲートが開く音だった。
「ご、ご主人様! ゲートが開きますよ!!」
「メタルタートルがフロアボスだったのか……」
魔剣があって助かったぁ……。
並の冒険者ならメタルタートルは倒せない。このフロアに閉じ込められて終わっていたな。
「ご主人様!! これで出口に近づきますね!!」
俺はゲートを背にして振り返った。
「あれ? ゲート、くぐらないんですか??」
まだ時間はある。
ダンジョンに入ってまだ2日目。
俺の死亡がギルドに認定されるまでは1週間なんだ。それまでデオック達は預金通帳を下ろせない。金が出せないなら妹も安全だ。だったら、もっと潜ってやろうじゃないか。
もっと強くなってやる!!
「S級ダンジョン……。単独攻略だ!!」
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武器:魔剣ラルゥ。
魔剣レベル:6。
魔剣スキル:
アイテム:松明2本。カエル戦士の油。
ラルゥの好感度:♡♡♡♡♡♡
貯金:0エーン。
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