第6話 ラルゥの人化
俺がダンジョンに潜って10時間以上が経っていた。
現在魔剣のレベルは2。なんとかラルゥを人化させて2人で出口を探したい。
ザシュッ!!
コウモリのモンスター、ダークバットを斬り落とす。
「ふぅ……。まだレベルは上がらないか?」
『現在、46/50 になってますね。あと4の経験値が必要です』
4ってことは小物のモンスター4匹か……。
く……、なんてことない数字だが、空腹と疲労、負傷の影響がデカイ。
それに──。
「の、喉がカラカラだ……。もう8時間以上も水を飲んでない」
湧水でもあればいいが……。探索する気力も続かないぞ。
『人間は不便ですね。でも……羨ましい』
「チョコレートパフェを食べたい癖に腹が減らないのか?」
『魔剣人は敵を斬ればエネルギーを得れますからね。喉が渇くって辛いんですか?』
「かなりな。脇腹の血は固まってるが貧血気味でもある。腹も減ったし、もうクタクタだ」
『そ、それは困りましたね! なんとか手分けして湧水でも探せたよいのですが……』
全くだ。その為にも、なんとか人化のスキルをゲットしたいもんだ。
『チュウ! チュウ!』
ネズミのモンスター、アンダーラットだ。
ダンジョンの中でもポピュラーな部類。
しかし、体毛が緑だ。
「見たことないぞ、こんなタイプ……」
ネズミは俺に向かって突進。
鋭い前歯が、松明の灯りで不気味に光る。
『チュゥウウウッ!!』
速い! 速すぎる!!
クソ、アンダーラットの上位種だ!!
俺は即座に体をかわす。
ネズミ系は前歯に毒を持っているんだ。こんな体で噛まれたら終わるぞ!
「疲れてんのに勘弁してくれ!
剣身から出た炎で上位種のアンダーラットは燃えた。
『チュゥウ!! チュウゥウウウ!!』
剣で止め。
ザシュッ!!
同時にラルゥの声が響いた。
『てれてれってれーー!! れべるあーーーーっぷ!!』
よっしゃ! 上位種だから、1匹で4の経験値だったんだ!
人化来い!! 湧水探すぞーーーーーー!!
しかし、俺の願いは虚しく消える。
『レベル3になりました。スキル
「だぁあああああああああ!! 明らか、人化じゃねぇええええええ!!」
名前からして水の攻撃だぁああ。今は欲してねぇよおお……。
……待てよ。水の攻撃?
水……。
「
『え? どうしたんですご主人様。敵なんかいませんよ!?』
剣身から水流が現れてダンジョンの壁にぶつかった。
「いいんだよ。これで……。水が出るか確認したかったんだ」
『どういう意味です?』
「この水ってどうやって発生してるかわかるか?」
『空気中の水分を集中させて出していますが?』
「綺麗?」
『え? ま、まぁ。水の精霊の加護を受けていますからね。清められていますから……綺麗といえば綺麗だと思います』
「助かったーーッ!!
今度は上に向けて撃つ。
水流はそのまま落ちて俺の体にかかった。
バチャーーーーーーーーーン!!
「気持ちいい!!」
汗だくだったからな!!
ついでに喉も潤うぜ!!
「ゴクゴク……。うめぇえええええええええええ!! 生き返ったぁああああああ!!」
──3時間後。
「ハァ……ハァ……。キ……キツイ。ぶっとおしで戦いっぱなしだぁ」
それに貧血も酷い。水で腹は膨れるが、栄養が無さすぎる。
何か食って休まないととても保たないな。
『回復アイテム無いですねぇ』
「このダンジョン。苔だけで薬草が生えてないんだ。モンスターが持っていればいいが、今の所、それも無さそうだしな……おっと」
俺は気を失いそうになってグラついた。
『大丈夫ですか、ご主人様!?』
いや、あんまり大丈夫じゃない。
『ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!』
眼前にはデカイ猫。
5メートルを超える。
全身が燃えてるな。
こいつ、ファイヤーキャットの上位種だ。
火だから……。
「ア、
ダ……ダメだ……。意識が遠ざかる……。
俺の耳に微かに聞こえる猫の悲鳴。
『ニャオオオオ……………』
ラルゥの声もわずかに……。
『てれてれってれーー!! れべるあっ──』
このまま死ぬ訳にはいかないんだ……。
妹のイチカをデオック達の魔の手から守らなければならない。
それに、俺をこのダンジョンに置き去りにしたアイツらに復讐してやるんだ。
だから、絶対に……。
絶対に……。
………………………。
目の前には母さんがいる。
このスープは!?
こ、この緑色の葉っぱ!!
「やったぁああ! ほうれん草の塩入りスープだぁあああ!!」
「ふふふ。今日はイチカの誕生日なんだから奮発したわよ」
「俺、じゃがいも入りと同じくらい、ほうれん草入りが好きだよ」
小さなイチカが俺の前で笑っている。
「お兄ちゃん。イチカは今日で5歳になったんだよ」
「そうか! もうお姉ちゃんだな!!」
「うふふ」
「よおおし。お姉ちゃんのイチカにはプレゼントのほうれん草だ」
「え!? これはお兄ちゃんのスープに入っているほうれん草じゃない。こんなにくれたら、お兄ちゃんのほうれん草が無くなっちゃう!!」
「いいって、食えよ! 俺はほうれん草の出汁で満足なんだからよ」
「ダメよ! ほうれん草なんて滅多に食べれないんだから」
「もう俺はスープ飲んじゃったからお腹一杯だよ。イチカも食えよ」
「もうお兄ちゃんったらぁ……ありがとうね……。大好き」
イチカ……。
懐かしいなぁ……。
貧乏だったけど……。温かい家族。
温かくて……プニプニで……。
プニプニ……。
プニプニ?
プニプニってなんだ!?
まだ意識は朧げだが、何か柔らかい物がおでこに当たっている。
温かくて柔らかいぞ。
目を開ければ、大きな瞳が俺の顔を覗き込んだ。
「あ! 気がつきましたか!」
それは見たこともない可愛い女の子だった。
年は10代。胸は大きく色白で、水色の大きな瞳は一片の曇りがなく、どこまでも澄んでいた。
メイド服を着ているようだ。
俺はそんな彼女に膝枕をしてもらっていた。その豊満なバストが俺の額をプニプニと押し込む。
「だ……誰だお前は?」
「え……? 後ろに誰かいるんですか?? こ、怖いんですけど!?」
彼女はおそるおそる自分の後ろを振り返っていた。
「いや……。お前のことだ。俺達は初対面だろう」
「あはは! もう冗談はよしてくださいよ」
笑顔も可愛いな……。
男ばっかりのパーティーだったからな。新鮮すぎる。
彼女は屈託なく答えた。
「ラルゥです。魔剣人ラルゥ。スキル
そうか、あの猫のモンスターを倒してレベルが上がったのか……。
それにしてもこいつ、めちゃくちゃ可愛いぞ!
い、意外だったな……。
「熱……あるんですか? ご主人様、お顔が真っ赤ですよ?」
「いや……。だ、大丈夫だ。このダンジョン、ちょっと蒸すな……」
可愛い女の子と2人きりなんて初めてだ。
き、緊張してしまう……。
「回復アイテムがあればいいんですけどねぇ」
ラルゥは、ダンジョンの角に何か落ちてないかと上半身を曲げて探した。その時、ミニスカートがひらりと舞って真っ白い太ももが視界に飛び込む。中の下着が見えそうになった。
「んぐ!?」
「何か見つかりましたか、ご主人様?」
「い、いや……。別に……。見えてはいないから安心しろ」
「はい?」
色鮮やかな水玉模様の真っ白い物が見えてしまったような気がするが、わ、忘れよう。
調子が狂う……。
しかし、人手が増えたのはありがたいことなんだ。
「そういえばさっき。イチカさんの心配をされていましたね。寝言で名前を呼んでいましたよ」
「ああ。夢を見ていたからな」
ラルゥは頬を赤く染めた。
「素敵なお兄さんですね……。イチカさんが羨ましい……」
……そうでもないさ。
俺にはイチカの病を治せる甲斐性がないんだからな。
「絶対にこんなダンジョン出てやる……」
奪われた預金通帳を取り返してイチカの病を治すんだ!!
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武器:魔剣ラルゥ。
魔剣レベル:4。
魔剣スキル:
アイテム:松明2本。カエル戦士の油。
ラルゥの好感度:♡♡
貯金:0エーン。
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