第5話 成長する魔剣
魔剣はかしこまった口調で自分のことを語り始めた。
その声は可愛い女の子である。
『コホン……。えーー。私の名前はラルゥ。魔剣人だ』
まけんじん?
「なんだそれ?」
『天空に住む魔剣の一族。知能を持った成長する魔剣である』
成長する魔剣か……。
なんか強そうだな。
魔剣が一族を作るということは、家族がいるってことか?
『わ、私は……追い出された……!!』
はい?
『魔剣人界から追放された!! みんな仲間だと思っていたのにぃいいいいいいいいいい!!』
う……。仲間から追放されたなんて、なんだか人ごとじゃないぞ。
魔剣ラルゥはワンワン泣き出した。
『みんな酷いのよ!! 私は人間に憧れただけなのに!! チョコレートパフェを食べたかっただけなのにぃいいいいいいいいい!! びえぇええええええええええええええええん!! もう焼けクソよ! この世に存在する全てのものを斬り刻んでやるぅううううううッ!!』
なんじゃそりゃ。そんな理由で「全てを斬る」って言ってたのかよ!
ちょっとでも強そうと思った自分がバカみたいだな。
『びぇえええええええええええん!! パフェ食べたーーーーい!!』
魔剣の姿とはいえ、まるっきり女の子じゃないか。
しかも、パフェって、口が無いのにどうやって食うんだ?
「そんなもん食べたらいいじゃないか。大した話ではないだろう」
『魔剣人はプライドが高いのよ。人間の食べ物を食べたいなんて知られたら、即刻追放よ』
「難儀な世界だな」
『私は天空の魔剣人界から追放されて、この下界に墜落したのよぉおおお!!』
そういえば、こいつが刺さっていた所の天井は穴が空いていたな。
空から降って来て、このダンジョンの壁に刺さったのか。
あそこは地下5階だったから、結構な威力だぞ。
『もうパフェなんて食べたいなんて言わないよ絶対ぃいいいいいいい!! びぇええええええええええええええええええええええええええええん!!』
「わかった!! わかったから泣くなよ。パフェが食べたいなら食わしてやるよ」
『……びええ? ほ、本当?』
「ああ。このダンジョンから脱出できたらな」
「う、うーーん」
「何を悩むんだ?」
『魔剣人は魔族の武器なのよ。人間に従うなんて……』
「お前は俺を呪ったじゃないか。呪態者なんだろ、俺?」
『人間に使われるなんて仲間に知れたら、また笑われるわ……うう』
プライドが高い……。
なるほどな。それでさっきは俺に使わせなかったのか。
「俺が死ねば、また暗いダンジョンで一人きりだぞ。チョコレートパフェなんて食えないだろうしな」
『うう……。うーーん……でも……人間にぃい……うーーん』
魔剣人ってのは相当プライドが高いんだな。
しかし、なんとしても協力してもらうぞ。
ゾワリと産毛が逆立つような気配を感じる。
「「「 ギチギチ……ギチギチ…… 」」」
松明に照らされた姿は大きな芋虫のモンスターだった。
10体以上は確認できる。
吸血を主食とするブラッドワームだ。
俺の脇腹の出血で集まって来たんだな。
かなり興奮してるぞ。
いつもなら問題ない敵だが、今はマズイ。
脇腹の負傷。制御が難しい魔剣。
毒の吹き矢はもう無くなったし……。
「「「 ギギ!! ギギ!! 」」」
威嚇の鳴き声に変わった!!
飛びかかって来るぞ!!
事態は緊急を要する!!
「ラルゥ! 俺も仲間に見捨てられたんだ!! 俺達は似た者同士だ!!」
『うう……』
「人間に使われるんじゃない! 協力し合うんだ!!」
『協力?』
「そうだ。俺はここを出たい。お前はパフェが食べたい。お前が俺の剣として従順になってくれるなら、このダンジョンを脱出した後にパフェをたらふく食わせてやる!!」
『本当?』
「ああ!! 俺は嘘はつかない!!」
『じゃ……じゃあ──』
ブラッドワームは飛びかかって来た。
ラルゥの言葉がダンジョンに響く。
『 信じる!! 』
よっしゃッ!!
そうこなくちゃ!!
ザシュンッ!!
俺の一振りで3体のブラッドワームは両断された。
軽い!! いい剣だ!!
ザシュッ!!
ザクッ!!
ザシュンッ!!
俺達はあっという間にブラッドワームを殲滅させた。
「ひょえ〜〜。相変わらず切れ味抜群だな」
『ご主人様。お名前は!?』
ご主人様ぁ?
ま、いっか。
「俺の名前はゼロ・バンカー。剣士だ」
ラルゥは小声で俺の名前を復唱していた。
変な魔剣だな。
でも、ダンジョン脱出には頼りになる協力者だ。
計画を立てたいところだが、まずは、俺の現状をコイツに伝える必要があるな。
俺は事の経緯と共にタイムリミットが1週間であることを話した。
納得したラルゥはしょんぼりとする。
『お腹の傷……。ごめんなさい』
「ああ……。お前にも色々事情があったからな。気にしてないよ」
『えへへ……。ご主人様って優しいですね』
ご主人様ってくすぐったいなぁ。
「そういえば、お前はどうやってパフェを食べるんだ? 口がないじゃないか」
『私達、魔剣人はレベルアップすれば人化ができるんです』
「へぇ。どうやってレベルアップするんだ?」
『敵を斬って倒すと経験値を取得してレベルが上がるんです。現在の経験値はこんな感じ』
剣に数字が浮かび上がる。
11/20
『右が必要経験値。左が現在の取得数。あと、残り9の経験値でレベルが2になりますね。レベルが上がればスキルを取得しますよ』
「なるほど。人化のスキルを取得すればパフェが食えるわけか」
『メリットはそれだけじゃありません。剣の姿だとご主人様と1メートル以上離れることができませんが、人化なら無制限に離れることが可能です』
ほぉ……。それはいい。
単純に人手が増える計算だな。
ダンジョンに置いてメリットしかない。
出口を探したり、アイテムを探したり、色々できる。
まずは──。
「痛てて……。このダンジョンにある回復アイテムが欲しいな」
『そ、そうですね! ご主人様のその傷は心配です!!』
脇腹の出血は利点があった。
「「「 ギチギチ……ギチギチ…… 」」」
ブラッドワームが寄って来る!
1体が経験値1として9体倒せば……。
ザシュッ!!
丁度、9匹を倒す。
『てれてれってれーーーー!! れべるあーーーーっぷ!!』
ラルゥの声がダンジョンに響いた。
なんか緩い感じだが……、まぁいいだろう。
人化して人手が増えるなら最高だ。
『レベルが2になりました。スキル
え!? 名前からして明らかに違う。
「なんだそのスキル? 人化じゃないのか??」
『すいません。スキルはご主人様の素質に影響します。だから、私もどんなスキルを取得するのかはわからないんです』
「そうか……。まぁ、謝らなくていいよ。お前だってわからないことがあるだろうからな。お互い相談し合っていこう」
『は、はい……。ご主人様、お優しい……』
俺の眼前に巨大な影が立ち塞がる。
『ギョギィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!』
デ、デカイ!!
それは6メートルを超える。巨大なブラッドワームだった。
「明らかに上位種。流石はS級ダンジョンだ。はじめて出会ったぞ」
そいつは奇声をあげて突進して来た。
『ギョギィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!』
速い!
俺は即座に避けて距離を取った。
ドゴォオオオオオオオオオンッ!!
上位種はダンジョンの壁を破壊した。
なんちゅう破壊力だ。
あんなの食らったら即死だぜ。
さぁて、どうやって戦うか?
……脇腹の傷がネックだな。無傷ならなんとか戦えるだろうが、今はマズイ。
あの速い攻撃を交わして、同時に斬りつけるなんてできそうにないぞ。
こういう時は遠距離攻撃なんだ。今までは仲間に魔法攻撃をしてもらっていたが……。
そうだ!
「ラルゥ。さっき覚えたスキルはどうやって使うんだ?」
『技命を呼んでもらえば発動します!』
よっしゃッ!!
シンプルでいいぞ!!
再び上位種の突進。
『ギョギィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!』
やってみますか!
「
それは俺の声と同時。剣身から炎が飛び出した。
ボウワッ!!
炎は上位種を包み込み悶絶。
『ギョワェエエエエエエエエッ!!』
遠距離攻撃成功だ!!
「止め!!」
ズシャンッ!!
俺の一閃が上位種の体を分断する。巨体は砂埃を上げて地面に倒れた。
「やった!」
「凄いですご主人様!! もう私を使いこなしてます!!」
魔剣に浮かび上がる数値は 40/50 を表示していた。
40ということは……。さっきは20だったから、それから20の経験値を得たのか!
流石は上位種。右の数値が次のレベルアップに必要な経験値だな。
よし、あと、10でレベルが上がるぞ!!
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武器:魔剣ラルゥ。
魔剣レベル:2。
魔剣スキル:
アイテム:松明2本。カエル戦士の油。
ラルゥの好感度:♡
貯金:0エーン。
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