第4話 タイムリミット
俺は崖を落ちて行った。
何十メートルあったのかわからない。
何回も岩に体を打ちつけて底に着いた。
「う……うう……」
身体中傷だらけだが、辛うじて生きてる。
怒りが俺を奮い立たせているといってもいいだろう。
ドン! ドン!
松明が2本。上から落ちてきた。
デオック達が落としたんだ。おそらく、俺の生死を確認する為。
上からわずかに声が聞こえる。
「死んでんの見えっかぁ?」
「深い……底……見えない」
「ま、いっか。生きてたって、どうせモンスターに食われて死ぬだろ。帰るぜ! 金はたんまりあるからな!!」
クソ!! その金は俺が3年間、コツコツ貯めてきた金なんだよ!!
いや、待てよ。
確か、仲間の死亡が認められるのは、ギルドの調査が入って1週間だ。
そうなると、奪われた預金通帳が使われるのは1週間後ということになる。
ギルドがある王都コルトベルラから妹が入院しているサードナルまでは遠い。
だから、あいつらが俺の妹に会いに行くのは王都で金を出してからだ。
つまり──。
1週間がタイムリミット。
それまでにこのダンジョンを出なくてはならない!
必ず止める! あいつらに妹のイチカは触らせない!!
絶対に預金通帳は奪い返す!!
怒りと共に脇腹の出血が増える。
こ、こんな傷、なんともねぇえええ!!
「つ、通帳を奪い返した後はわかってんだろうなぁあああ!! く、首を洗って待ってろよぉ、クソ野郎共ぉおお!! ぜってぇこんなダンジョン出てやるからなぁあああああああああ!!」
俺の声だけが響く。
聞こえてない……。もう行ってしまった。
突然聞こえるカエルの鳴き声。
『ゲロゲロ!!』
松明に照らされた姿は鎧をまとったカエルの戦士だった。
「み、見たこともないモンスターだ……。おそらくアンダーガーマの上位種か」
『ゲロゲロ!!』
カエルの戦士は舌を伸ばして攻撃してきた。
ザシュッ!!
速い!!
俺は咄嗟に避ける。
カエルの下は岩の壁を貫通した。
「た……松明があって良かった……。灯りが無ければ死んでいた」
デオックが落とした2本の松明。補充の油が無い状態だと、保って1時間というとこか。
こりゃ、リミット1週間どころじゃないぞ。
真っ暗闇の中、S級ダンジョンの上位モンスターと戦わなきゃなんねぇのかよ!!
『ゲロゲロ!!』
再び舌攻撃が来る!!
ザシュッ!!
速い!! が、見切れないことはない!!
なんとかかわせる!! 体勢を整えて攻撃に転じ──。
俺の眼前にはカエルの戦士が槍を構えていた。
舌と槍の連続攻撃か!!
ガキンッ!!
魔剣で受け止める。
「あ、危ねぇ!!」
凄い力だ。槍の一撃で鳥肌が立つ。
早く倒さないとこっちの体力が参ってしまう。
魔剣が喋る。
『全てを斬る!!』
心強い!!
「よぉおし! お前の想いをあのカエル戦士にぶつけてやれ!!」
『全てを斬る!!』
俺はカエル戦士の槍を弾き飛ばすと、魔剣の力に身を任せた。
魔剣の大振りが続く。
ブォオオンッ!!
ブォオオンッ!!
ブォオオンッ!!
しかし、カエルは簡単に避けた。
『全てを斬る!!』
じゃねぇええええッ!!
「お前の剣筋はデタラメなんだ!! そんなんじゃ当たらねぇよ!!」
『……す、全てを斬る』
「俺に使わせろ!!」
再び勝手に動く。
大振り。
ブォオオンッ!!
ブォオオンッ!!
ブォオオンッ!!
カエルは欠伸しそうなくらい余裕で避けた。
『全てを斬る!!』
「いや、だからぁあああ!! お前、魔剣の癖に剣技が素人すぎるんだよ!!」
『……す、全てを……き、斬るぅ』
ザシュッ!!
カエルの舌攻撃。
「あ、危ねぇ!!」
ギリギリなんとか避けれた。
壁に空いた穴が深い。
あんなの食らったら確実に死ぬぞ!!
計画を練ろう。
まとめるとこうだ。
カエル戦士の攻撃が速い。
魔剣は言うことを聞かない。
ならば、カエルを遅くしたらどうだ?
魔剣は攻撃してくれるんだ。
カエルを遅くする方法……。
よし、計画完了!!
俺は毒の吹き矢を懐から取り出した。
口に咥えて強く噴く。
「フッ!!」
プスッ!!
よし当たった!!
ザシュッ!!
カエルの舌は吹き矢の筒を破壊した。
「ああ、しまったぁッ!!」
飛び道具を即座に破壊するなんて、相当知能が高いぞ!
でも、毒が効いて動きが遅くなった!!
「今だ!! いっけぇえええッ!!」
魔剣、渾身の大振り。
『全てを、斬るッ!!』
ザンッ!!
カエル戦士を真っ二つ。
切れ味エグいな……。鎧のままいくのかよ……。
『ゲロォオオオオオオオオ…………』
カエル戦士絶命。
「よっしゃぁあ!! でかした魔剣!!」
『全てを斬る!!』
カエル戦士はその体から大量の油を流した。
「この油は!?」
やった!!
これは可燃性だ!! 松明の火がもっと燃えるぞ!!
「ふぅ……」
この油があれば視覚の問題は解決されそうだ。
なんとか危機は乗り切ったが、毒の吹き矢が無くなってしまった。
もう敵の動きを遅くすることができない。次、襲われたらおしまいだ。
魔剣のセリフ……。全てを斬る、か……。
なんか……。怒っているというか……自暴自棄というか……。
やりきれない何かを感じるな。
「なぁ、魔剣よ。なんでそんなに躍起になっているんだ? 冷静にならんと戦いに勝てんぞ?」
『そ、それは……。その……』
魔剣は事情を語り始めた。
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武器:魔剣。
アイテム:松明2本。カエル戦士の油。
貯金:0エーン。
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