第3話 絶対許さない

 リーダーのデオックは俺の左手を踏みしめた。


 激痛が俺を襲う。


「ぐぅうう!!」


 しかし、この手は離せない。

離せば崖の下に落ちてしまう。

落ち方が悪ければ即死。上手く助かっても、モンスターに襲われるだろう。

 ダンジョンは下に行くほど凶悪なモンスターが現れるんだ。負傷したまま戦うリスクはエグすぎる。


 なんとしても、この左手は死守するんだ!!


ギュゥウウウウウウウウウウウ!!


 デオックの体重が左手に乗しかかる。



「ぐあぁあっ!!」


「くくく。ゼロよ。お得意の計画でこの状況を回避したらどうだ?」



 左手が痛い。でも、心はもっと痛い。



「す、好きだった……。俺はみんなが好きだったんだ!!」



 デオックは舌を出した。



「残念だったなゼロ。俺達はそんなお前を利用していただけさ」



 太っちょの魔法使いドドは俺に唾をかける。



「ペッ! ゼロっちがいなくなったら脂っこい好きな食べ物食べ放題だ。口うるさいゼロっちなんか死んじゃえ!!」



 スキンヘッドの賢者ガルパチョフは、俺を見下ろして目を細めた。



「ゼロ……女抱かない……。死ね」



 そ、そうか。そんなに……。

 俺はみんなに苦痛を与えていたんだな。

みんなの為を想っていたのが仇になった。


 俺は涙と共に謝罪した。




「す……。すまなかったな、みんな」




 デオック達は顔を見合わせる。



「ダハハ!! お前まだそんなこと言ってんのか? お人好しにもほどがあるぞ!!」



 戦士、霧丸は、俺の左手に長刀を突き刺す。


「謝って助けてもらおうって計画かぁああ?」


「ぐ……。ち、違う……。俺は本気でお前達に悪かったと思ってるんだ!!」


「フン!! いい子振りやがって。拙者はそんなお前が大嫌いだったのさ」


 剣を更に深く突き刺す。


「ぐおぉおッ!!」


 霧丸は俺の預金手帳をチラチラと振って見せた。



「拙者が受けた心の苦痛は貴様にはわかるまい。だから、この126万エーンの貯金。慰謝料としてもらっておく」


「ま、待ってくれ!! その貯金だけは!! お前ら、知ってるはずだ!!」


 デオックはニヤリと笑う。


「ああ、知ってんぜぇ。確か14歳だったか? お前の妹。重い病なんだってなぁ」


「そうだ……俺のたった1人の肉親だ。頼むから、その貯金は彼女の為に使ってやってくれ」



 俺は鼻水まで垂れて、涙で顔がくしゃくしゃになっていた。


「なんか俺……。みんなに嫌われてたみたいだからさ。し…………死んで詫びるよ」


 みんなは大爆笑。


「「「「 ぎゃはははは!! それがお前の計画かよぉお!! ウケるぅうううううう!! 」」」」


 わ、笑われたっていいや。

 俺の命と引き換えだ。


「そ、その貯金はさ。サードナルの病院にいる俺の妹、イチカの治療費として使ってくれよ。頼むな」


 みんなの笑いが止まる。

 デオックは舌を出した。

 信じられない返答がくる。







「嫌だね」






 な、なんだと……!?

 こいつ……マジか!?


 再び嘲笑が巻き起こった。


「ぼくさぁ、ピザと豚の丸焼きを腹一杯食べたい!!」 


「俺……。その金で……女……抱きまくる」


「拙者はいい武器を仕入れよう。こりゃあ高い武器が買えるぞ」



 涙は更に溢れ出た。



「う、嘘だろ前達!! 3年間仲良くやってきた仲じゃねぇかよ!!」



 デオックは鼻で嘆息。


「全くお人好しだなぁ。俺達は悪なんだぞ? おいガルパチョフ。ゼロの妹さん、お前の好みだったよなぁ?」


「ゼロの妹……可愛い……たまらん」


 は……?

 な、なんの話だ?


「サードベルの病院なんだってよぉお!」


「ゼロ……殺したら……そこ行く」


 ふざけるな!


「俺のたった1人の肉親なんだ!! 変なことしたらただじゃおかないぞ!!」


 デオックは登ろうとする俺の顔を踏みつけた。


「ギャハハ。病弱な美少女か! そそるなぁ!!」


「ゼロの……妹……犯す」


「ふざけんなぁあああああッ!!」


 許させねぇ!

 絶対にこいつらを許さねぇ!!


「お! こいつ上がって来やがるぞ! 蹴れ蹴れ!」


 みんなは俺をゲシゲシと蹴り始めた。


 蹴りの痛みより心の痛み。


 信じられない。

 まさかこんな奴らだったなんて!!

 情なんて微塵も無い! 極悪人だ!!


 で、でも……。

俺が魔剣に呪われなかったら、みんなで楽しくボードゲームのマチェットをやっていたのか?


 本性を知らなければ幸せな毎日が続いていたのか?


 そう思うと涙が更に溢れ出た。


 もう痛みで体の感覚が無い。思考もただボヤける。


 こいつらは許さない、絶対に許さない。

そんな気持ちが全身を支配している。

だが──。




 ””大笑いでマチェットをやっていた思い出が、走馬灯のように駆け巡る!””




『おいゼロ、そのマス目に行ったら最下位確定だぞダハハ!』


『ゼロ……いつも……最下位……アハハ』


 クソォ!

 楽しかったのに!

 最高の仲間だと思っていたのにぃ!!


「うう……ううう!!」


 まだ出るか、と思うくらいに涙が流れ出て止まらなかった。


 ああ、もう蹴られる痛みも感じない。ただ胸が苦しいだけだ。


 痛みで頭はボウっとして、訳のわかないことを呟く。


「マチェット……楽しかったのになぁ……」


 みんなの笑い声は更に高くなった。


「ギャハハ! バカだなぁ。あんなお遊び、俺達が本気でやってると思ったか??」


「な、なんの……話しだ?」


「ゼロ。お前はいつもビリだっただろ?」


「ああ。……そ、それでも楽しかった……。うう……」


 デオックは大きく脚を上げた。




「俺達は全員でイカサマしてたんだよ。てめぇの賭け金を根こそぎ奪う為になぁ!!」

 



 そのまま脚を振り下ろす。





ゲシンッ!!





 俺はその蹴りを顔面に受けて手を離した。





 お、落ちる……。

 



 デオック達は落ちる俺を見てニヤニヤと笑った。





「妹さんは俺達が可愛がってやるからよ。心配せずにあの世に行けや」






 な、なんなんだコイツら。



 何もかも、酷い。








「ふざけんなぁあああああああああああああああああああああ────」








 クソがぁあ!!






 クソ野郎共がぁああああああああああああああああああああああああああッ!!







「絶対許さねぇ!! 絶対の絶対に許さねぇええええええええええええええ────」







 許すもんかぁあああああああああああああああああああああ!!








 俺は深いダンジョンの底へと落ちて行くのだった。





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武器:魔剣。毒の吹き矢。


貯金:0エーン。

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