第2話 仲間の裏切り

ーー火馬のダンジョンーー


 俺は立て看板を読んだ。


「ヒウマのダンジョンか……」


 きっと火を吐く馬がボスなんだろうな。


 ダンジョンの最下層にはボスがいる。そいつを倒せばダンジョンは攻略。そのダンジョンは跡形もなく消える。


 どうしてダンジョンが現れるのか、誰も知らない。

 一説によれば、魔王の力でできているとか、いないとか。


 どのダンジョンにもお宝が眠る。魔硝石や強い武器が手に入るんだ。俺達、冒険者にとって最高の飯の種である。


 ここはS級ダンジョン。全滅率50パーセント。10組のパーティーが入れば5組は全滅する。恐ろしいダンジョンだ。




ーー地下5階ーー


「霧丸、危ない!!」


ザシュッ!!


 俺は蝙蝠のモンスター、ダークバットを斬った。


 こいつは毒がある。噛まれたら厄介なんだ。


「怪我はないか? 霧丸?」


「チィッ!! ダ、ダークバットくらい拙者でも対処できる!!」


 なんとかここまで無傷でこれた。しかし、モンスターが強い! みんなで力を合わせて戦うのも限界があるぞ。


「なぁデオック。ある程度の魔硝石は手に入ったんだ。今日はこの辺で引き返さないか?」


「ああ、確かにな。様子見にしては上出来だ。今日は引き返すか」


 やった! 帰ったらマチェットだぁ!!


 マチェットとは商人を出世させるボードゲーム。みんなでやると最高に楽しい。


 俺がウキウキしていると、壁に突き刺さる剣を発見した。


 なんでこんな所に剣があるんだ?

天井に不自然な穴が空いているな……。上から剣が降ってきて壁に突き刺さったって感じか。

 剣は見事な装飾だ。片刃の剣とは珍しい。漆黒の鋼なんて見たことがないな。これは相当強い武器かもしれないぞ。もしかしてSランクか?


 俺はその剣を壁から引っこ抜いた。


「ふふふ! 武器ゲットォォオオオオ!!」


「ああああ!! 狡いぞゼロ!! その立派な剣は拙者の物だぁあ!!」


「いや、見つけたのは俺だし。俺のだろ」


「お前の物は拙者の物。拙者の物も拙者の物だぁああああああ!!」


「なんだその理論は。認められん」


「クソがぁああ!! ゼロの癖に生意気なぁああ!! 貴様は銅の剣で十分だろがぁああ!!」


 ふふふ。この剣があれば銅の剣を卒業できる。もっともっとパーティーに貢献できるぞ!





『呪態者。ゼロ・バンカーを確認しました』




 え?

 今、なんて??

 剣が……喋った??



「き、霧丸が喋ったのか?」


「そ、そんな訳はない。明らかに女の声だっただろうが」


「た、確かに……。じゅたいしゃ……って言ったか?」



 盗賊のデオックは眉を寄せた。



「呪態者ってのは呪われた者って意味だ」



 マ、マジか!

 つまり、この剣は呪いの魔剣。

俺は──。



「ゼロ。お前はその魔剣に呪われちまったんだよ!」



 マジかぁああああああああああああああああああ!!


 やってしまった……。

 ま、魔剣をうっかり掴んでしまった……。



『全てを斬る』



 は!?

 なんかぶっそうなこと言い出したんだが!?




ブォオオオン!!




 魔剣は勝手に動き出した。仲間を斬りつける。


ブォオオオン!!

ブォオオオン!!

ブォオオオン!!


 俺はその動きに引っ張られた。


「うわぁあああ!! みんな避けてくれぇえ!!」


「ゼロ! そんな魔剣捨てちまえ!!」


 デロックの言葉に共感する。


 全くその通りだ。こんな物騒な剣、いらねぇ!!



「ぬあッ!!」



 5メートル放り投げる。

しかし、魔剣は空中でピタリと静止した。



『全てを斬る』



 嫌な予感しかしない……。



ブゥウウウン!!



 魔剣は猛スピードで俺に向かってきた。

俺なら掴める。が──。



「速い!」



 掴み損ねる。



ザグンッ!!



 脇腹に突き刺さった。



「グフッ!!」



 な、なんなんだこの魔剣は!?



『呪態者からは1メートル以上離れられません』



 なんだとぉお!? 呪いの効果か!?


 仲間達は俺から距離を取っていた。その顔は引き攣り、冷や汗を垂らす。


「み、みんな……。落ち着いてくれ。こういう時こそ計画が大事なんだ……」


 そうだ。落ち着いて考えろ。武器に呪われたのは初めてだが、確か教会に行けば解いてくれるはずだ。脇腹の傷は浅い。薬草があれば王都までならなんとかなる。



「計画はこうだ。まずは薬草で俺の傷を治療。魔剣が動かないように固定して王都まで行く。教会に行って呪いを解いてもらうんだ」



 仲間達は顔を見合わす。


 うん。我ながら完璧だ。



「じゃあ、まずは薬草で治療しよう。ドド。すまないがそこに置いてあるリュックから薬草を取ってくれないか?」



 太っちょの魔法使いドドはニンマリと笑った。



「嫌だね」



 はっ!?

 き、聞き間違いか?

 俺の脇腹から血が出てるんだぞ?


「じょ、冗談はやめろドド。頼むから薬草を取ってくれ」


「ゼロっちはさ。朝食に干し肉くれなかったじゃん」


「ば、ばか! あれはお前の健康を考えてだな……。と、とにかく薬草を取ってくれ」


「ぶひゃひゃ! ゼロっちが怪我するなんて初めてのことだね」


 笑うだと!?

 仲間が傷ついているんだぞ!!

 こ、こいつはダメだ!


「霧丸!! 薬草を頼む」


「貴様、誰に命令しているのだ?」


 クッ! こいつもダメか。


「ガルパチョフ!! 薬草だ!!」


「ゼロ……娼館……行かない……。付き合い……悪い」


 こんな時にマジかよ……!



「デオック! 頼む、薬草を取ってくれ!! 魔剣を持てば、また暴れる。離れれば魔剣が飛んで来る。俺はここから動けないんだ!!」



 デオックはみんなと顔を見合わせて笑った。


 こ……こんな時になんの笑いだ?

 切迫した俺の状況は伝えたはずだぞ??




「ゼロ…………。もうこの辺で終わりにしようや」




 お、終わり??

 終わりってなんだよ?




「お、俺の怪我を治してから……呪いを解くって計画だけど……?」



 俺は目頭が熱くなっていた。薄らと心の片隅にある不安が、現実になったような悲しい感じ。


 デオックはニヤリと笑う。



「お前と俺達とじゃ、もう合わねぇんだよ。お前は真面目すぎるんだ」


「な、なんだよこんな時に……。そんなことわかってたさ。あんた達は賞金首だしな。でもさ。上手くいってただろ、俺達」


「表面上はな。でももう疲れちまった。計画計画っていちいちうるせぇしな」


「だ、だからって……。み、見殺しにするのかよ?」


「見殺しなんかしねぇよ──」


 デオックは剣を抜いた。そのまま俺に向けて振り下ろす。





「殺すのさ」





ブォオンッ!!



 俺は咄嗟に魔剣を持って後ろに避ける。

 魔剣は自ら動こうと言葉を発した。



『全てを斬る』


「やかましい!! 今それどころじゃないんだ!!」



 手に持ってたら勝手に動きやがる。


 急いで地面に突き刺した。


「デオック! どういうつもりだ!?」


「なーーに。めんどくせぇからよ。死んでもらおうと思ったまでだ」


 みんなは俺を見て笑っている。


 デオックの言葉に同意しているのか……。


 ジワリと涙が湧いてきた。


「さ、3年間……。俺達は仲間だったんじゃなかったのかよ!?」


「そんな風に思ってたのはお前だけじゃないのか?」


「……デ、デオック。あんた……俺の金を盗んだことがあったろ?」


「ははは。今頃そんなことを言うのか? 全然そのことに触れないからバレてないのかと思った」


「わかっていたさ。わかっていたが……。あんたには、貧乏で誰も相手にしてくれなかった俺を仲間にしてくれた恩義がある。だから、黙っていたんだ」


「ふん。だからなんだ?」


「……俺は。た、楽しかったんだ!! あんた達と冒険ができて楽しかった!! だから、多少の問題は目をつぶっていたんだ!!」


「そういうのが合わねぇんだよ。金なんか盗まれたら盗み返しゃあいいだろが。それが俺達なんだよ」


「な、仲間にそんなことできるわけないだろ!!」


 戦士霧丸は長刀を抜いた。


「吐き気がするぞゼロ。いちいちお節介で慎重派なお前には嫌気が差していた」


「霧丸……。お前とは少し、馬が合わなかったかもな。でもな……俺はそんなお前を認めていた」


「ふん! 拙者より弱い癖に、上から目線が気に食わん!!」



ブンッ!!



 霧丸の斬撃がくる!

 銅の剣は荷物と一緒だ。

 俺の背後は崖になっていて、これ以上後ろに下がれない。


 もう魔剣で受けるしかない!!



ガチンッ!!



 俺は魔剣を握りしめて霧丸の剣を受けた。

 魔剣から声が響く。


『全てを斬る』


「う、動こうとするな! 俺に実権を握らせろぉ!!」


「死ねゼロ!! お前の剣技は鼻につく!!」


 くッ!

 普段なら簡単にいなせる攻撃が、脇腹の負傷と魔剣の呪いで思うようにいかん。

 まずは、大きく払って、弾き返す!



ガンッ!!



 霧丸は大きく飛ばされる。



「おっと。やるじゃないかゼロ。そんな状況で凄い力だ。しかし、やはりいつもより劣るな。これを見ろ」



 霧丸が持っていたのは巾着袋だった。


 しまった。いつの間に!?


「くくく……。ほう〜〜。中には通帳が入っているのかぁああ。おおおお!! 126万ゼニーも貯め込んでるぞ!!」


「そ、それは大事な貯金なんだ! 返してくれ!!」


「バカが。返すわけなかろう。貴様はここで死ぬんだからな」


 魔剣の制御で力を使い過ぎる。

 遠距離攻撃は毒の吹き矢しかない。

 どれだけ強い毒かわからんが、使わせてもらう!!


 俺が懐に手を入れたと同時に、炎の弾が眼前に現れた。



「ファイヤーダーン!!」



 魔法使いドドの攻撃である。


 魔剣で斬るしかない!



ザクンッ!!



 なんとか両断するも、小さな炎が衣服に移る。



「ぶひゃひゃひゃ!! いい気味だ!! ゼロっち、大ピンチだね」



 ドド……。お前まで俺を殺そうとするのか。


 俺の注意がそれたその時、風の魔法が飛んできた。



「ウインドダーン!!」



 賢者ゴルパチョフの攻撃だった。



「しまった!」



 俺はそれをモロに食らってしまう。



バンッ!!



 崖の方に吹っ飛ばされる。



「んぐッ!!」



 俺は地面にしがみ付いた。


 なんとか落下は防げたぞ。

 

 しかし、左手だけで体を支えることになる。


 こ、この崖はかなり深そうだ。落ちればどうなるかわからんぞ。

右手の魔剣を離したいがそうはいかん。離した途端、俺に向かって飛んできて突き刺さってしまう。

左手だけでなんとか上がらなければ!!


 そんな時、デオックは俺の左手を踏んだ。


 痛ぁッ!!



「ククク……。ゼロよ。別れの時が近づいたなぁあ」





============



武器:魔剣。毒の吹き矢。


貯金:0エーン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る