貧乏剣士と成長する魔剣〜魔剣に呪われた俺。A級パーティーからダンジョンに置き去りにされる。奴らは俺の預金通帳まで奪った。なるほど、この魔剣はレベルが上がるのか。お前達、首を洗って待ってろよ〜
神伊 咲児
第1話 仲間はいい奴
「母さん! 今日はスープにジャガイモが入ってる!!」
「そうよゼロ。あなたの誕生日なんだもん」
「やったぁーー! 塩も入ってるぞ! 母さん、今日は弾んだね!!」
「水だけじゃ味気ないわよね。誕生日だもん」
「今日は最高の日だよ!! ジャッガイモ♪ 塩入り♪」
「うふふ。ゼロは本当にジャガイモ塩入りのスープが好きねぇ」
母さん……。
5年前に亡くなった母さんが目の前にいる!?
なぜだ!?
俺はガバッと上半身を起こした。
「はッ!! ゆ、夢か…………」
ここはギルドの2階である。
いそいで手に持った巾着袋の中身を確認する。
そこには銀行の預金通帳が入っていた。
通帳は……ある!
ね、念の為、中身を確認しておこう。
「126万エーン……。ふぅ……。ちゃんとある」
いい仲間なんだがな……。
いい仲間なんだが……少しだけ信用はできないんだ。
ーー王都 コルトベルラーー
青のギルド。
その2階から上は共同宿屋になっている。
家賃は格安だが、1階が受付なので騒がしい。
俺達はそんな場所で寝泊まりをしていた。
俺の名前はゼロ・バンカー。しがない剣士をしている。
貧乏な家柄で、誰も仲間にはしてくれなかった。
そんな俺を仲間にしてくれたのが、今のパーティーだ。
リーダーのデオックが酒を飲みながらこちらを見る。
「ゼロ! 腹減ったぞ。朝飯、早くしろ」
「おう! ちょっと待っててくれ」
デオックは頼りになるリーダーだ。俺達、5人の男をまとめてくれている。その話術はコルトベルラ一と言ってもいいだろう。
職業は盗賊で筋肉隆々。左目に傷があって、片目のデオックといえば、ちょっとした有名人だ。
俺は5人分の目玉焼きを作る。
パンもサラダも干し肉も。テーブルの上にどっさりと乗せる。
「拙者の目玉焼きは半熟にしただろうな?」
霧丸が鋭い目を光らせた。
着物姿の男戦士。長刀を常に身につけている。
こいつはこだわりが強いんだよな。半熟じゃなきゃ食べないんだ。
3年前に戦いを挑まれたことがある。その時、剣を弾き飛ばされて負けた。
以来、戦いを挑まれても自分から降参するようにしている。霧丸はいつも本気なので躍起になってかかれば斬り殺されてしまうのだ。
彼は剣の達人である。だから、戦いの時は一番信頼している。
「勿論だ。お前のはプルンプルンの半熟目玉焼きだぜ」
「ふむ。焼きすぎていたら作り直させるところだ」
ははは……。こだわりが強いんだから……。
「ぼくさぁ。ぼくさぁ、目玉焼きを2つ食べたいんだよねぇ」
魔法使いドドは、体重100キロを超える太めの男だ。
いつも明るくて楽しい。パーティーのムードメーカーだ。
いい奴なんだが、直ぐに俺のご飯を食べようとする。
「ドド! これは俺の朝ごはんだ!!」
「いいじゃん。ゼロっちは朝ごはん食べなくてもさ」
「なんでだよ」
そういえば医者に食生活を注意されていたな。
「ドド。肥満は健康に悪いと医者に言われていたぞ。今日はサラダを多めに食え」
「ええ〜〜やだよぉ。肉くれ肉ぅううう!!」
「メンバーの健康管理は俺の役目だ。今日の朝ごはんは干し肉の代わりにサラダだ!!」
「でぇえええ!! ゼロっちの鬼、悪魔ぁああ」
やれやれ。いい奴なんだがな。食いしん坊で困る。
最後のメンバーはスキンヘッドの賢者ガルパチョフ。
こいつは無口で冷静。回復魔法が使える頼れる奴なんだ。
サラダを口に運びながら呟く。
「腰…………痛い」
こいつは娼館通いにハマっている。
ダンジョンで得た金は全て女関係に使っちまうんだ。
まったく、いい奴だけど困った奴だよ。
「しかたない。俺がマッサージしてやるよ」
食後。
メンバーは俺がいれた紅茶を飲みながら、今日の冒険をどこにしようか話し合った。
スキンヘッドのガルパチョフはソファーに寝そべる。
「ゼロ…………マッサージ」
「はいはい。ここか? どうだ?」
「うん…………気持ちいい」
やれやれ。悪い奴じゃないんだけどな。
女癖だけがネックだ。
「あそこの娼館…………おっぱい……デカイ」
なんの話だよ。
聞かなかったことにしよう。
しかし、リーダーのデオックの耳に入った。
「マジか! 俺もその姉ちゃんを抱きに行くぞ! ゼロ、挟んでもらえ!!」
何をだ!?
「ゼロ……俺達と……一緒に……そこ行く」
「い、行かねぇよ。行くわけないだろ。まったく……」
「顔真っ赤……ゼロ……女……知らない」
「なんの話だよ! マッサージやめちゃうぞ!!」
「それ……困る……。もっと揉め」
まったく……。ま、男ばっかりのパーティーだからな。
エロい話なんか日常茶飯事だ。俺は絶対に参加しないけどな。
そういうのは少し苦手なんだ。
「今日はS級ダンジョンに潜るぞ」
リーダー、デオックの言葉で、場は凍る。
待て待て。流石にS級はヤバいだろ。
止めないと大変なことになるぞ。
「俺達はA級のパーティーだ。まだS級ダンジョンは早いだろ!?」
「なぁーーに。俺達の実力なら余裕だろ。たった3年でF級のパーティーからあっという間にA級まで行ったじゃねぇか。普通だったら10年はかかるだろうよ」
「いや……しかしだなぁ」
俺は受付から配布された資料を見た。
そこには過去に挑戦した冒険者による詳細なデータが記されていた。
「死亡率80パーセント!? 全滅率50パーセントォオオ!? ヤバすぎるだろ! 10人入ったら8人死ぬ計算だ!! 10組のパーティーが入ったら、半分の5組は全滅するんだぞ!!」
にも関わらず、デオックは笑う。
「ははは! ヤバければ引き返しゃいいじゃねぇか!! それよりS級ダンジョンだぞ! 魔硝石はがっぽり手に入る! S級アイテムだってゲットできるかもしんねぇんだ!」
魔硝石は売れば金になる。ダンジョンのランクが上がれば貴重な魔硝石が手に入るな……。しかし……。
うーーん。儲かるのは魅力だが、死亡率がなぁ……。
「がはは! なぁーーに悩んでんだぁ! 俺達デオックのパーティーは無敵だろうがぁ!! 今まで死人はおろか、重傷者すら出してねぇんだぜぇ!」
た、確かに……。デオックの言うとおりだ。
みんなは強い。俺はみんなの力に頼り切っていると言っても過言ではない。
しかしS級ダンジョン。死亡率80パーセントは高すぎるだろう。
俺達5人のパーティーなら4人も死ぬ計算になる。
まずは──。
「計画を練ってからだ!」
俺の言葉に太めの魔法使いドドが笑った。
「ぶひゃひゃ!! またそれだ!! ゼロっちは直ぐに計画だなぁ」
「計画は大切だぞ。みんなが無傷で死亡者ゼロ。これがベストなんだからな」
戦士霧丸は俺の意見に難色を示す。
「ふん! 貴様はそうやって、いつも石橋を叩く。拙者の剣技があれば、S級ダンジョンなど容易い」
確かに……。霧丸の剣技は頼りになる。
しかし、うちのパーティーは回復魔法を賢者のガルパチョフしか使えないのがネックなんだ。
だから、計画が大切。みんなの安全が最優先だ。
回復薬をたくさん詰めて……。
もしもダンジョンに迷ったら、水の確保が最優先。
松明だっているだろう。えっと……。これがこうだから……。
リーダーのデオックは葉巻を加えながら呆れた。
「おいおいゼロォ。なんとかなるって! 俺達が信用できねぇのかよ?」
「……いや。信用はしているんだ。しているがな。もしものことがあったらだな……。仲間が傷つくなんて。俺は嫌だぞ」
「ったく、ゼロの心配症は困ったもんだぜ。だったらこうしようじゃねぇか! ダンジョンから帰ったらマチェットをやる! これでどうだ?」
マチェットとは商人を出世させるボードゲームだ。
サイコロを振ってマス目を移動させて、ドンドン出世させる。
仲間同士でやると最高に面白いんだ。
「マ、マジか!! マチェットかぁ……。うーーん」
や、やりたい!!
仲間でやるマチェットは最高に楽しいんだ。
俺は負けてばっかりだが、みんなで過ごす時間は最高に幸せなんだ。
「どうだ? S級ダンジョン、行く気になったか?」
「み、みんなでやるんだな?」
「おお、勿論だ。お宝をガッポリゲットしてよ! 酒と肴を買い込んでみんなでマチェットをやるんだよ」
くぅう〜〜。それ最高に楽しいヤツだ!!
賢者ガルパチョフは目を細めた。
「金……入ったら……娼館……行きたい」
こいつならこう言うだろうと思ったよ。
ボードゲームは仲間みんなでやるから楽しいんだけどな。一人でも欠けたら味気ない。
とはいえ、俺が言っても聞かないだろうしな。
デオックはリーダーの器を見せる。
「おいおいガルパチョフ。仲間で過ごす時間は大切だぞ。それに娼館は逃げやしねぇ。マチェットで勝ってその金で娼館に行けばいいじゃねぇか」
「うーーん……なるほど……そうかも……」
おお! 流石はデオックだ! メンバーの扱いが上手い!!
「決まりだ。ダンジョン攻略の後はみんなでマチェット。どうだいゼロ。S級ダンジョンに行く気になったかい!?」
危ない橋は渡りたくないが、終わった後は、みんなでマチェットなんだ。
これはもう──。
「よ、よし……。行こう!」
「よっしゃ決まった!! みんな準備しろ!!」
死亡率の高いダンジョンか……。
さぁ、忙しくなるぞ。
俺は通帳の入った巾着を握りしめた。
◇◇◇◇
ーー王都 コルトベルラーー
青のギルドを出ると街の出口までは数十分歩く。
俺は巨大な荷物を背負っていた。その高さは俺の背の2倍ある。
「ゼロっち遅い、遅い」
「ちょっ……ちょっとな……。今回は荷物が多いんだ」
特に水が多い。それだけで10リットルある。
しかし、ダンジョンに迷った時が怖いからな。これでも少ないくらいだ。
薬草はいつもの5倍持ってきた。松明だっていつもの倍。食料、備品。
メンバー全員の分を俺が全部持っている。
俺はメンバーの中で一番弱い。だからパーティーの雑用をするのが俺の役目なんだ。当然だよな。俺はみんなに助けられているんだから。
「ゼロっち。ぼくの杖も持ってよ。戦闘が始まるまでは持つのがかったるくてさぁ」
とはいえ、限度がある。
「なんでだよ!! 杖くらい自分で持て!!」
「えーー! ゼロっちのケチん坊!!」
やれやれ。少しは手伝って欲しいが、ダンジョンで怪我をされるよりはマシだからな。みんなが無事で、無傷なら何も問題はないんだ。
ふふふ……。帰ったらマチェットだ。仲間と楽しい時間。最高じゃないか!
こんな荷物。
「ふん!!」
俺はズシンズシンと歩き出した。
しかし、やはり遅い。武器しか持っていないメンバーはスタスタと街の出口に向かう。
デオックが眉を上げた。
「おーーいゼロ。先行ってるからなぁあ」
「お、おう……。追いつくから先進んでてくれ」
俺は殺気を感じて立ち止まった。
やれやれ。いつものことか。
ビュンビュンビュンッ!!
それは数十本の矢だった。
屋根の上から、先を歩くデオック達に向けて放たれる。
刺されば致命傷である。
俺は荷物を地面に置くと銅の剣を抜いた。
ザンッ!!
それは剣による鋭い一閃。全ての矢は真っ二つに切れ、ボトボトと落ちる。
「ふぅ……。賞金稼ぎかな?」
屋根を見やると、そこにいた者はすぐに身を隠した。
「ゲッ!? マジかよ!?」という声が聞こえる。
俺の剣さばきに驚いたようだ。
同時に、小さな路地の隙間から何かが飛び出す。
ヒュゥッ!! ヒュゥッ!!
今度は細い針を吹き飛ばす吹き矢である。
やはりデオック達を狙っていた。
「だから、ダメだっての!」
ザンッ!!
俺は剣の一振りでそれを斬り落とした。
吹き矢を射った者は「嘘だろ!?」と叫ぶ。
残念ながら俺は目が良いからな。
どんな攻撃も見逃さないのさ。
吹き矢を射った者はすぐさま隠れた。
「仲間の命を狙うなんて、けしからん輩だ」
俺は斬り落とした矢の棒を拾った。両手に持って狙いを定める。
一つは屋根へ。もう一つは路地の奥だ。
投げる。
「そりゃ!」
棒は、ギュルギュルと回転しながら屋根の裏側と路地の奥へと飛んで行った。
ゴンッ! ゴンッ!
手応えあり!
「「 ぎゃあああああッ!! 」」
うむ。成敗完了。
相変わらず、どこに行っても賞金稼ぎは減らないなぁ。
まぁ……仕方ないか……。
俺以外のメンバー全員、賞金首だからな。
悪い奴らじゃないんだけどなぁ……。
念の為、路地に入って形跡を調べる。
どうやら逃げたようだな。
「ん? これは?」
足元には吹き矢の筒と針が落ちていた。
ラッキー、もらっとこ。
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武器:毒の吹き矢。銅の剣。
貯金:126万エーン。
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