エンディング校歌。~♂心春の初恋♀~【別作に埋め込み】

十夜永ソフィア零

第1話 六本木上層へのゲート

 はるばる埼玉県は千間台駅から、貧乏学生の心春きよはるを乗せたリニアカーはアルバイト先の六本木駅に着いた。バイト先は上層ハイヤーにある。

 心春きよはるが生まれた頃の再開発で既存の街の上空15メートルほどに誕生したという、六本木上層ろっぽんぎハイヤーは、富裕層御用達となるべく造られた街である。上層ハイヤーでは、地上層とは全く異なる富裕層向けのオペレーションが24時間体制で繰り広げられている。

 富裕層のお客様を乗せたエアカーが上層に近づくと、ロボットメイドたちが手早くお出迎えの構えに入る。ロボットメイドたちがお客様を希望通りの店へと案内をすると、エアカーは格納庫へと導かれる。エアカーは、安全性点検されボディは磨き上げられる。お客様が店を出る頃には、ピカピカのエアカーが格納庫から滑らかに出て来て、店の側で品よく待機する。

 一般自動車の乗り入れを認めない街の造形が、こうした富裕層標準リッチ・スタンダードの上品なオペレーションを可能としている。上層ハイヤーで働く者は、心春きよはるのような臨時アルバイトであっても、オペレーションの概要を学ぶ。富裕層標準リッチ・スタンダードのオペレーションに万が一にも粗相がないように、と。


 六本木上層ろっぽんぎハイヤーに地下から向かう際には、エレベータ前のゲートで身元確認が行われることとなっている。リニアカーの特別車両の指定席を取って六本木駅に入った場合は、乗車中に十分な身元確認が終わっているため、専用ゲートで素早く上層へと向かうことができる。特別車両に乗ってきた心春きよはるは専用ゲートへと向う。

 

 対して、一般ゲートでは生物証憑偽装バイオメトロフェイクなどを講じ身元を偽って上層に向かおうとする不審者を見出すための警備体制が敷かれている。ゲートのAIが偽装フェイクの可能性あり判断された入場希望者には警備員室で審査が行われる。

 上層でのアルバイトを始めたばかりの頃に、ゲートAIは、彼に性別偽装セクシャルフェイクにつき有蓋然性プロバブルとの判断を下してしまったことがある。警備員室に回されてしまった彼は、警備員たちの視線にさらされながら、声紋検査等を受けることとなってしまった。アルバイト先にも確認が入った後にようやくに上層に向かうことができるようになった彼に、女性警備員の方が、頭に下げて謝罪しながら、「ごめんなさいね。君くらいの年齢の子が上層に向かう場合、富裕層と二人きりでの違法サービスに従事する可能性を計算に入れてAIが偽装フェイクの判断を厳しくしがちなのよ。君、可愛いものね」となかなか微妙な説明をしてくれた。


 生物学的特徴を偽装フェイクし、AIを欺き立入制限区域に入り込むことは、テロリストの常套手段。対抗手段として、世界中のゲートAIは、蓋然性判断基準プロバビリティジャッジメントを日々更新し続けている。

 月に二回、上層に向かう彼のこともゲートAIは学習しているわけで、生物証憑偽装バイオメトロフェイクを疑われる可能性は今は小さくなっているのだろうけれども、その日以降、彼は六本木に行く時は、特別車両の指定席を取ることにしている。

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