第4話 戦場に放り込まれた。

 雄大に流れる雲。遥か、底知れぬ青に輝く空。

 駆け抜ける風は強く、だが優しい草花の香りを孕んでいる。

 草原に遊ぶ風紋を静かに眺め、今、僕は戦場に立つ――!


「勇者さまー! 頑張ってくださーい!」


 た っ た 一 人 で 。


 応援の声は僕の遥か後ろから。くるりと振り返れば、固く閉ざされた門と、その城壁の上で隠れる様に覗いている王様&兵士ご一行様の姿が微かに見えた。ぶっちゃけ僕の視力はあまり良くないので、微かどころか霞んでいる訳だが。


「私たちはー、勇者さまをー、応援していますー!」


「「「がん! ばれ! がん! ばれ! ゆ! う! しゃ!」」」


 そんな距離でも声が届くのは、きっと魔法的な何かによるものなのだろうな。

 さっきから耳がふわふわするし。

 あ、ならきっとこっちの声も届くんじゃないかな?

 あんな王様でも美少女の声援だもんね。

 やっぱり男として応えたいじゃないか。

 うん。よし……。

 僕は大きく息を吸い込み、胸に抱いた感情を声にする。


「だったらお前らも降りて来いやぁああオラぁあああー!!!」


「……(そそくさ)」


「隠れてんじゃねぇや!!!」


 大人って汚ぇ! 世界って理不尽だ!


 せっかく生き返ったと思ったら、また殺されるのか僕は。

 くそう、もっと待遇良くしろよ!

 こちとら勇者だぞ!

 勇者ってもっとこう……なあ!

 あるだろう! ほら!

 女の子にモテモテとか! 女の子にモテモテとか!

 なあっ!!!!


「来たぞー! 魔王だー!」


 兵士の怒声が背後から響く。もちろん城壁の上からだ。

 門の外に居るのは僕だけだからな。


 僕 だ け だ か ら な !


「き、来たのか……? ここからじゃ見えないけど……」


 再び前を見据えた僕だが、それらしきものはまだ映らない。どうやら草原は緩やかに起伏しているようで、迫っているらしい魔王はまだ僕には見えないようだ。でも1000体とか言っていたのに、その気配すらないもんかな? 何か地鳴りだとか、音は聞こえてきても良さそうなものなんだけど。


 ちょっと身震いする。

 視界にはのどかな風景だけしか映らない。

 それが逆に恐怖を煽ってくる。


「僕は、生き残ることができるのだろうか……」


 僕に与えられた装備はなんか異様にキラキラしたクッソ重い剣と、最低限の急所を守る軽装の鎧だけ。本当はフルプレートの鎧を渡されたんだけど、あまりにも重すぎて動けなくなったので、これに変えられた。


 着てみることでより実感したのだが、軽装なだけあって薄い。

 っていうか鎧じゃない。ちょっと厚手の服だ。

 鎖帷子ですらない。

 こんなもんにまともな防御力なんてない。

 RPGの初期装備を見た目だけ良くしたような装備だ。


「……死んだわ」


「勇者さまー! 大丈夫ですー!」


「一体なにが!」


 理不尽な扱いに怒りを募らせていた僕は、頭上から降ってきた王様の言葉に対して反射的に怒鳴ってしまった。


「貴方にはー、勇者としてー、特別なスキルがー、備わっている筈なのですー!」


「と、特別なスキル……?」


 なにそれ。初めて聞ききましたが?


「目を閉じてー、心の中でー、自分自身にー、『アナリシス』とー、唱えてみてくださーい!」


「よ、良く分からないけどやってみよう」


 半信半疑のまま僕は目を閉じ、自身へ向けて『アナリシス』と唱える。


「……おお!」


 するとゲームのステータス画面みたいな物が見えた。

 どうやらこれが僕の能力という事らしい。


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『ユート・カブラギ』

 Lv.3

・体力 50

・腕力 12

・脚力 150

・魔力 5

・幸運 120

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 平均値がわからないので何とも言えないけど、とりあえず僕のレベルがめちゃくちゃ低い事と、足が速くて幸運なのはわかった。


 っていうか魔力5て。

 これ魔術とか魔法とか使うための数値だよね。

 いや無理じゃないかな魔力5じゃ。無理でしょ。


 えっ。


 もしかして僕のスペック、低すぎ?


「あ、これ次のページがあるや」


 僕は意識してページを進める。

 するとそこにはスキル一覧の文字が。

 なるほど、つまりここに僕が勇者たる所以であるチートスキルが!

 そうだよね! 勇者だもんね! そりゃそうだよ!

 魔王倒すんだもん、チートの一つや二つや十や二十なきゃ嘘だよ!


 よしよし、えーっと。


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 習得魔法

・アナリシス

・テイム


 習得スキル

・スライムを統べし者

・希代の逃げ足

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「ダメだこれなっっっんの役にも立ちそうにないっ!!」


 僕は草原の上で膝から崩れ落ちた。

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転移したのはスライムが最強の世界でした。 かんばあすと @kuraza

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