第3話 魔王があらわれた。
部屋にやってきた王様(美少女)が話すには、つまりこういう事らしい。
僕はこの世界に召喚された勇者。でも王様(美少女)に粗相をしたので、怒った従者によってサクッと殺された。いやいやそりゃマズイだろという事で、国に一人しかいない超凄い人の手によって傷を癒され、豪奢な部屋を用意し、メイド長に手厚い看護を命じて、目覚めるのを待っていたそうな。
ちなみに蘇生の成功率は30%くらいらしい。
しかも一人に対し一度しか使えないそうな。
「奇跡じゃん」
「すみません、すみません!」
王様(美少女)とそのご一行が集まった部屋の中、皆が立っている中で椅子に座る僕に、王様(美少女)は深々と頭を下げた。何度も下げた。
なるほど。ふむ。でかい。
「おい貴様、今どこを見た?」
「べべべべべ別にどこも?」
御一行の中にいたイケメンの男にめっちゃ睨まれた。
ってかあの声、もしかして僕を殺した奴では?
「迂闊な事をもう一度でもやってみるがいい。今度こそ我が炎は、確実にお前を焼き尽くす冥府への渡り舟となろうぞ――!」
その瞬間、僕の体がぶるりと震えた。思わず口が、瞳孔が開いていく。
見れば腕には鳥肌が立っていた。駆け巡る感情の強さにまた体が震える。
それは僕が今まで生きてきた中で、遭遇したことのない感覚だった。
ああ、そうか。これが……中二びょ
「こら、ギルデア、やめなさい!」
と、王様(美少女)はすかさずイケメンをたしなめた。
コイツはやばい。迂闊な事をするとまた殺されかねないぞ。
自分に酔っている奴ほど怖いものはないんだ。
もう生き返る事も出来ないらしいし、アイツには気を付けよう。
「こほん。それでは改めて勇者さま」
王様(美少女)が配下っぽい人たちに目配せをすると、彼らはどこからか持ってきた椅子を後ろからスッと差し出し、王様(美少女)はとてもスムーズに腰を掛けた。その素晴らしい連係プレーに僕は感動した。そしてあの瞬間、椅子を引いたらどうなるんだろうと想像した。
「……っぷ」
「なんですか?」
「あ、いえ。なんでも」
「そうですか? こほん。では、この世界エデンへ、あなたをお招きした理由をお話しましょう」
「……!」
僕はごくりと息を吞む。
やはりここは僕のいた世界ではなかった。
そして勇者として呼ばれた、という事はつまり。
「あなたには、この世界を救ってほしいのです」
「世界を――!!」
そう、そうだよな! ファンタジーでよくある奴だ。凄まじい力を持った勇者として異世界に転移して、そのチートじみた実力で世界を救うってやつ。そう、という事はつまりこの僕にも、そんな凄まじい能力が備わっているという事に――!
「大変です団長!」
「どうしたのだ」
神妙な面持ちで話をしていたこの場に、突如として鎧を着た男が駆け込んできた。彼の相手をしたのは、僕を殺したイケメンである。
「城門前の草原に奴が……魔王が現れました!」
「何ですって!?」
座っていた王様(美少女)はガタッと椅子を倒す勢いで立ち上がる。
『魔王』の単語にその場の全員が動揺した。
瞬く間に空気が変わる。各々の顔には絶望が浮かんでいた。
いや展開速すぎん?
僕、まだチュートリアル中なんですが。
そもそもそんなホイホイ出てきちゃダメじゃないかな魔王。
だって大将だよね魔王って。ダメでしょ前線に顔出しちゃ。
そういうのはもっと部下に任せてよ。
駄目だよ自分が率先して働いちゃ。
だから部下が育たないんだよ。
「っか……数は!?」
「およそ1000体!」
「せっ、1000体っ……ですって……っ!?」
姫様が口元を抑えて驚愕する。
全員が絶句していた。部屋に満ちる諦めの空気は酷く重い。
いや、でもなんかおかしかったよね。
なんか今、魔王が1000体みたいに言ってなかった?
……いやまさかね! ラスボスであるところの魔王が、そんなモブみたいにわっさわっさ現れる訳ないからね! そんなんクソゲーも良いところだしね! 勇者wwってなるよ! きっと魔王+配下の軍で1000って事でしょ? ちゃんと言葉は正確に使わなきゃ変な誤解を招くよ。ほらほら王様、ちゃんと教えてあげて。
「こうなればもう、勇者さまの力を借りる他、ありません……」
僕が後ろでそわそわしていると、王様が沈痛な面持ちでこちらを見る。
あー。なんだろうか。こういう顔、既視感があるんだよな。
そう、映画とかで。
どうしようもないことを、どうしようもないと分かっていながら、何とかしろって言わざるを得ないみたいな……そう、上官が部下に『死ねと命令を出す』時みたいな苦渋の顔とかね……うん、よし。
「……ふッ!」
「あっ! 勇者が逃げたぞー!!」
「捉えろ! 容赦はいらん!」
後ろでイケメンがキレのある命令を出すのが聞こえた。
「うるさい! 容赦しろ! 僕は勇者だふざげふっ!?」
「確保ー!!」
「ぐぁああああ離せッ! 離せッー!」
かくして僕は、チュートリアルを放棄した王様(美少女)たちによって、ラスボスの前に放り出されるようです。
おうちかえりたい。
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