第36話 一番暑い夏


正当な集計の結果を読み上げる為、司会のグルコサミンに全ての評価の紙が集まっている。


( なに!? …… こんな結果になるとは。

仕方ない…… 仕方ないがやるしかないな…… 。 )


グルコサミンは何やら考えつつも結果を口にする。


「 定食屋武蔵…… 89点!! 89点!

惜しくもバーガー兄弟のポイントには追い付けづ。

勝者は…… バーガー兄弟!! 」


悲しい結果が発表されました。

観客からは大きな歓声が起こる。

拍手やラッパの音が沢山聞こえてくる…… 。


「 そんな…… そんな。

私達の蕎麦が負けちゃうなんて。 」


愛さんは勝つことだけを考えていたので、負けた事なんて信じられませんでした。

席から見守っている家族や仲間も同じ気持ちです。

ショックが隠せずにいました。


「 絶対…… 絶対負けるはずなかった!!

俺達は…… 一生懸命頑張ったんだ。

最後まで最後まで諦めずに…… なのに。 」


ハラケンも意気消沈してしゃがみこむ。

ハラケンだけではありません。

健だって同じ気持ちです。


「 89…… ? 信じない。

何であのバーガーに勝てなかった。

あれは間違いなく、俺の舌でもそこらの高級レストランに負けないくらい、最高のクオリティだったんだ…… 最高なんだ。 」


健は何度も手すりを強く叩き、やるせない気持ちを抑えられずにいました。

華ちゃんも子供で負けの意味があまり分からなくても、大人達のただならぬ豹変ぶりによって悲しい気持ちになり、泣き出してしまいました。


これがどんな理由があろうとも、勝者が居れば敗者がいる。

負けられない理由があるから勝つ?

不真面目だから負ける?

勝敗はあまりにも理不尽に告げられたのでした。


そして司会者から勝者からの一言の為に、マイクが手渡されて話そうとする。


「 この度は…… えぇー…… 。 」


「 ちょっと待てえぇーーいっ!! 」


バーガー兄が話そうとすると、そこに割って入る何者かが!?


「 私はこの結果に納得出来ず、今この場所に立っている。」


みんなも一体何が起きているのか?

と少し動揺してしまう。


その人物は料理評論家の、石橋春水いしばししゅんすい63歳。

メディアや雑誌でも引っ張りだこ。

あらゆるお店を評価して、悪評が付けば経営悪化。

好評価で経営はうなぎ登りに。

最高の舌を持ち、的確な評価や文章力やコメントにみんなも納得してしまう、最強の料理評論家なのです。


そんな料理評論家が物申してしまう。

一体どうしたのでしょうか?


「 春水さん…… どうしたのでしょうか?

この結果は厳選なる投票により決まった、正当な勝負の結果ですよ…… ?

あなたがどんな最高な舌を持っていても、これだねは自分勝手も良いところですよ。 」


グルコサミンが焦りつつ春水をなだめました。

生放送なので進行の妨げになり得る…… 。

直ぐに現場監督を見ると…… ?


「 面白い…… 面白いぞ。

これだ…… これが生放送の醍醐味!

神部ちゃん。 時間延長!

次放送のテレフォンショッピングは中止。

こっちの方が数字獲れる!! 」


監督からはGOサインがグルコサミンに伝えられる。

中止サインを待っていたグルコサミンには、最悪の指示が伝えられてしまう。


「 点数とかはどうでも良い…… 。

あのバーガーに負けたのが納得いかん!

私はあのバーガーに持ち点を最低にした。 」


なんと! 春水はバーガー兄弟の点数を最低にしていたのです。


「 それは納得いきませんな。

納得する理由をお聞かせ願えますか? 」


兄貴が強気に応戦する。

春水も語気が荒くなりつつ言い返す。


「 納得だと!? このバーガー食ってみろ!! 」


そう言い余ったバーガーを兄貴に投げつけました。

兄貴はバーガーを受け取り、包みを開けて食べてみる。


「 ん…… うまい。 うまいじゃないか。

こんな最高の肉を使い、高級ソースを使ってるんだから不味い訳がない!

お前の舌は老化して鈍ったんだな!!

貴方の評価には何の意味もない。 」


兄貴は一口食べて納得する味。

文句付けようがない…… そう思い、春水を強く罵倒しました。


「 バカもんがぁーーーっ!! 」


出ました! 春水のバカもんが!

これは全く分かっていない料理人に放つ、春水の物申しの十八番。

観客も静まり返っている。


「 舌が老化だと?

評価に納得いかんだと??

なら教えてやろう…… お前!

今…… 水を飲みたいんじゃないか? 」


観客達は唖然としてしまう。

何を言ってるのか分かりませんでした。


「 何を…… そりゃそうだろう。

食べ物食べたら喉が乾く。

当然じゃないか!! 」


口の中は肉の油でいっぱい!

そんな時は水やお茶でスッキリさせたい。

そんな気持ち分かって当然。

何を偉そうに言っているのでしょうか?


「 ほうほう…… ほら!

ならお前のとこの激甘イチゴシェイク飲みなさい。 セットなんだろ?? 」


兄貴はゆっくりとバーガーを落としました。

その一言で気付きました。

絶対にミスしてはいけない事を…… 。


「 分かったようだな…… 。

ハンバーガーとシェイク。

交互に食べたらどうなる?

味がめちゃくちゃになるんだ。 」


そうなのです…… ハンバーガー単体は良いかも知れません。

二つ合わせると話は別です。

この勝負は出された料理の合計の評価。

組み合わせ悪ければ当然の点数に…… 。


「 どうした…… さっきまでの威勢は?

反論はないのか?? 」


兄貴は何も言い返せません…… 。

最強を求めて作りましたが、まさかそんな盲点があるとは思いませんでした。


「 これが私だけが気付いたと思うか?

バカにするな!! 若者の舌ならこう言うのでも、全然美味しいと言うかも知れない。

だがな…… 料理は老若男女、年関係なくみんなが美味しく食べれないと意味がない!! 」


その通りだとみんな思いました。

料理研究家や評論家やYouTuber。

タレントや観客達も納得の答えでした。


「 定食屋武蔵はと言うと、素晴らしいかった。

あの蕎麦は最高で欠点が付けられなかった。

天ぷらもサクサク、くるみのつけ汁と麺の相性は抜群!!

食べても食べても飽きない。

病みつきになってしまった…… 。

いつの間にか麺が失くなっていたのは、久しぶりの感覚だった。 」


武蔵を絶賛!

春水は武蔵には10点付けている。


「 そして不可解な点が残る…… 。

何故定食屋武蔵が負けたのか。

皆様は気になりませんか??

こんなに美味しいのに!! 」


観客からも賛同のコールが。

バーガー兄弟はうつ向くしかありません。

そして春水はグルコサミンの元へ。


「 その結果の用紙…… 見せてもらえるかな? 」


当然集計をしたグルコサミンが怪しくなる。

念のために再確認したくなり、用紙を見せて貰おうとしました。


「 ちょ…… ちょ。

私を疑っているんですくわぁ?

ななな…… 何を根拠に!

ももっもう…… 結果は出ました。

バーガー兄弟の勝ちです。

早くバーガー兄弟へのインタビューを…… 。 」


「 早く貸さんかっ!!! 」


強く言われて投票用紙が宙を舞う。

ひらひらと舞う用紙には武蔵がほとんど10点。

バーガーショップは8点や9点ばかり。

その瞬間に回収せずとも分かってしまう。

定食屋武蔵の勝利の二文字が…… 。


「 うわぁーーーーっ!!

やめろーー! ただの出来心なんだぁあ! 」


グルコサミンが必死に否定しました。

スタッフ一同で回収する。

正当な点数を出すためにも。


そして点数の計算が終わり、春水が代表して公表する事に。


「 定食屋武蔵…… 98点。

98点だ。 喜んで下さい。

そして正当な勝者へ拍手を…… 。 」


凄い大きな拍手でお祝いされました。

ファンファーレや太鼓も沢山鳴る。

長かった悪夢からやっと日の光が差し込む。


「 うおーーっ!! 勝ったぞぉおー! 」


ハラケンの大きな叫びと共に勝利を勝ち取った実感を、味わう事が出来たのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る