第33話 迷い人
どうにか間に合い、試合が始められる事に。
会場も拍子抜けせずに楽しめるので、歓声が大きく上がる。
愛さんは二人の到着に一安心。
ですがハラケンは顔や腕に絆創膏が貼ってあり、ただ事ではないのが直ぐに分かりました。
「 ハラケンくん…… それ。
どうしたのよ? 」
小声で聞くとハラケンは。
「 大丈夫です…… ちょっと転んだだけなので。」
の一点張り。
心配をかけないようにしているのが良く分かります。
今は愛さんに試合の事だけに集中して欲しかったのです。
健も小さくうなづく。
愛さんは健を見ると、ハラケンと違って怪我一つありませんでした。
顔は黒いバンダナとマスクで表情が分かりません。
( 何だろう…… 何だか健君じゃないみたい。
そんな訳ないけど…… 。 )
何やら嫌な予感と不安になって来ました。
ですが今は試合に集中しなければいけません。
今は考えないように…… 。
バーガー兄は試合が出来る事に喜びを感じていました。
「 不戦勝程虚しい勝ち方はない。
そうだろう弟よ。 」
弟は何故かまたソワソワしていました。
しかもさっきより酷く汗もかいている。
「 おう…… 兄貴。
ちゃんとやれなきゃつまんないよな。 」
間違いない動揺に不安。
バーガー兄は察してしまいました…… 。
あの二人の遅れた原因は弟のせいなのだと…… 。
今は試合の為に黙って置くことに。
バーガー兄は静かに怒りを膨れあげていくのでした。
観客席からは姫と両親と愛さんのお母さん、華ちゃんが応援していました。
「 あれ? 光は?? 」
姫は二人が着いたのに光が戻って来ていない事に気付きました。
すれ違いだったのだろうか?
姫は少し心配しながらも、応援する事にしました。
試合のゴング今鳴らされました。
カーーーーンッ!!!!
鐘の音が鳴り、互いは素早く料理開始。
バーガー兄弟は新鮮なジャガイモから、ポテトを作る為に一つずつ切っていく。
素早い手つきで一つ、また一つと切っていく。
大胆なポテトが売りなので、存分にその存在感を出していきました。
審査員達もジャガイモからポテトを作ることに、さすがのこだわりを感じていました。
その頃、愛さん達は??
愛さんは天ぷらをあげるため、慣れた手つきでエビやかき揚げやナスを調理していく。
審査員達もその手つきに驚く。
まだ大学生でこんなにも出来るとは…… 。
みんな驚きの連発!
ハラケンと健はクルミをすり鉢で細かくしていく。
審査員達はクルミの香りを嗅ぎ、幸せな気分になっていきました。
クルミを細かくするのは意外に力仕事。
でも大丈夫…… ハラケンのパワーがあれば、どんどん細かくなっていく。
麺を茹でるのは最後。
それまでどれだけ出来るか。
天ぷらやつけ汁に手間隙かけていく。
麺に負けないように…… 。
「 痛いっ!! 」
会場でただならぬ悲鳴が…… 。
勢い余ってしまい、愛さんは少し指を切ってしまう。
直ぐに出血を止める為に、持っていた布巾を指に巻き付けました。
少し深かったのか、痛みは強く出血は止まらない。
「 大丈夫ですか!? 」
ハラケンが駆け寄り、会場も不安な声が聞こえてくる。
「 大丈夫…… 大丈夫。
今は私しか包丁…… 使えないんだから。
この試合だけは…… 絶対に。
絶対に負けられないんだからっ…… 。 」
いつもより力が入ってしまった為、こんなミスをしてしまいました。
悔しくて悔しくてたまりません。
泣きそうになりながら立ち上がり、残りのエビ調理をしなければいけません。
大きなエビなので、早くしなければ時間に間に合いません。
バーガー兄弟はクスクス笑っている。
「 兄貴…… あそこの娘が怪我したらおしまいですね。
まだあんなに野菜やエビを調理しなければいけないのにも関わらず、あの手じゃね…… 。 」
弟は勝ちを確信しながら笑う。
「 俺達はいつものようにやるだけだ。
早くやるぞ。 」
バーガー兄弟はポテトを揚げたり、バーグをこねたりして息がぴったり!
会場を大いに盛り上げました。
( 負けるか…… 負けるもんか……
お父さんが残したお店は私が…… 私が守らなくちゃ…… 私が…… 。 )
「 何だか良く分かりませんが、こっからは僕がやりますよ。
包丁貸して! 」
そう言い健が愛さんから包丁を受け取る。
「 えっ? …… 健君。
あなた包丁なんて全然…… 。 」
ダダダダダッ!!
玉ねぎを高速でスライスしていきました。
音は激しく、玉ねぎは繊細に均等な薄さで切って行く。
会場と審査員から拍手が起こる。
ハプニングが起きたのを上手く補って、会場からは声援が起こる。
「 えっ…… 健君は…… 包丁なんて全然使った事ないって言ってたのに。
あれ…… 僕? 」
愛さんは驚きながらさっきの健の一人称が、俺から僕に変わっていた事に気付きました。
しかも声も全然違っていました。
会場で愛さんのお母さんや華ちゃんも喜んでいました。
姫は喜んでいましたが、健を見ながら何かに気付きました。
「 あれ…… って…… もしかして!? 」
鮮やか包丁さばきでどんどん切っていき、エビの背わたや殻をどんどん取っていく。
「 ハラケン! 器とかの準備を頼む。
お姉さんはもう麺を茹でても大丈夫です。 」
そう言いながら天ぷらを揚げ始める。
また気になる事を言っている。
( お姉さんって私の事?
この人は一体…… 。 )
愛さんの中でハッキリ分かりました。
この黒いバンダナを着けているのは、健ではないと言う事を…… 。
その頃、会場の外の公園で横たわる男性の姿が。
ゆっくりと目を覚ます。
「 痛ててってて…… んっ!?
ここは何処だ!? 今は何時だ!? 」
腕に包帯や頭にも応急手当てをしてもらっている。
何が起きたのか分からないでいる。
「 あんたやっと起きたわね。 」
光が現れる。
「 光? 俺はどうなったんだ!? 」
怪我でずっと寝てたのは健でした。
光に看病してもらっていたのです。
少し前に戻る…… 。
ハラケンが後少しの所で倒れている。
「 おい…… どうした?
何でお前らこんなぼろぼろなんだよ。 」
ハラケンはその声で目を覚ます。
ゆっくり目を開ける。
「 うっ…… あっ!! 翼じゃないか!?
どうしてここに?? 」
そこに立って居たのは、姫の彼氏で旅行中だった黒崎翼でした。
みんながここに来ている事を姫に聞いていたので、こっそりやってきたのでした。
「 びっくりさせようと思ってさ。
逆にびっくりしたけど。
それでこれはどういう状況なんだ? 」
「 そんな事は良いから早く行かないと!
翼も手伝ってくれい!! 」
そう言い二人で会場へ。
途中で光に遭遇。
「 翼君来てたの!?
健はどうしちゃったの?? 」
「 少し気絶してる。
俺は直ぐに行かないと…… 。
でも健が寝てるからどうすれ…… あっ!
翼が居るじゃないか!! 」
ハラケンは閃きました。
翼は将来は料理をする仕事をしたいと思って、日々料理をしている。
専門学校にも行く予定。
そんな翼が居れば、健の代わりになれる。
そう思い翼を連れて会場へ。
「 待って! 出場するのは健でしょ?
このバンダナで顔隠して。
これならバレないから、早く行って!
こっちはウチに任せて。 」
光はガッツポーズを決める。
ハラケンもガッツポーズして返答する。
「 サンキュー!! 行くぞ翼!
試合はもう始まっている。 」
ハラケンに手を引かれ翼は走って会場へ。
「 代わり? …… 試合?
何が起こってるんだ!? 」
そして現在…… 。
今、鮮やかな包丁をみせているのが翼なのでした。
まさに偶然現れた翼に救われていました。
「 翼君…… 来てたの?
なら健は?? 」
姫は直ぐに変装を見抜きました。
大好きな翼が分からない訳がない。
健と光も会場へ向かう。
料理が互いに完成。
「 ターーイムアップ!! 」
制限時間終了!
いざ判定へ…… 。
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