第30話 男の約束


健は坂をかけ上る。

下りるのは楽でしたが帰るのは倍の辛さ。

ギア無しの自転車では漕いでも漕いでも、前に全然進みません。


「 クソ…… 足が折れそうだ。

負けるもんかぁーーっ。 」


健は勢い良く漕ぎ、ゆっくりと上って行く。

ここの坂道は地獄坂と呼ばれ、田舎の人達もほとんど人が押してゆっくり上るのが常識。

相当な筋肉マンではない限り、ここを上って走る人はいないだろう。


「 はぁ…… はぁ。 はぁ…… 。 」


坂道を漕ぐだけでも地獄なのに、今日は夏の猛暑により気温は30°に…… 。

汗は滝のように流れ、息は乱れてめまいに襲われる。

健は運動神経良い方ですが、基本は短時間な物ばかりで長時間は不向き。

いつ横に倒れてもおかしくない。


( もう…… 良いよな?

結構良く頑張ったよな…… 。

俺みたいな諦め癖MAXなヤツが、良くもこんなに頑張った気がする。

諦めても誰も怒らないよな…… 。 )


うっすら意識は消えつつペダルを漕ぐ足は止まる。

そして自転車はゆっくりと斜めになっていく。

その時ある記憶が甦る。


スーパーでバイトしている時、良くパートのおばさんに怒られていた。


「 あんた…… 諦め早すぎだよ。」


健は立ち仕事になれていなくて、足が痛くなってしゃがみ込んでいました。


「 うっせぇハバァ!!

俺を誰だと…… そうか。

今はただの貧乏高校生。

理不尽に先輩ババアに叱られても仕方ないのか。 」


健は現実と戦っていました。

ババア…… おば様が直ぐに健の耳を引っ張り立たせました。


「 誰がババアよ!?

クソガキが生意気言うじゃないよ! 」


健は痛くて泣きながら立ち上がり、その後は頑張って働きました。


帰ってから親友の黒崎翼に愚痴を言いました。

黒崎はくすくすと笑っていました。


「 そのおばさんも狂暴だけど、健も悪いじゃないか。

健は働くって言うのは大変だけど、だからお金が手に入るんだぞ?

みんな辛い中頑張ってるんだ。 」


黒崎が優しく教えると不満そうに言い返す。


「 だって足が痛かったんだもん…… 。 」


「 健…… 店長さんやおばさんやみんながお前を、信じて一緒に働いてるんだ。

それが仲間なんだぞ? 」


黒崎は仕事での役割や責任についてを話しました。

健は耳を触りながら全く響きません。


「 あのババアだけは仲間じゃない。

…… 足が勝手にしゃがんだんだから仕方ないだろ。

そこが俺の限界なんだから。 」


相変わらず自分には甘々。

もう辞めたくて仕方がない。


「 健…… しゃがみ込んだのは足の痛みでじゃない。

お前の心の弱さだ。 」


「 心の弱さ…… ? 」


健はやっと少し耳を傾ける。


「 人の心は原動力。

良い方にも悪い方にも直ぐに傾いてしまう。

人間は心さえ強く持てば、限界なんてないんだ。

限界があるとしたらそれは、勝手に生み出した限界の壁さ。

頑張ったらどんな壁だって乗り越えられるさ。

健なら絶対にな。 」


その記憶が頭を駆け巡る。


ガッ!! ペダルをまた強く漕ごうと力を入れる。

グラグラしながら立て直そうとする。


「 心が原動力…… ?

限界なんてない……?

はぁはぁ…… なら……俺が壁を破壊してやる。

うおぉーーーーーーっ!! 」


凄い力で駆け上る。

ぐんぐん…… ぐんぐん自転車はスピードを上げて行く。


「 どりゃーーーっ!! 」


髪はぐしゃぐしゃになりながらも、健は全く気にせず駆け上る。

横を一般の車が通り過ぎる。


「 ねぇママ、今のイケメンのお兄ちゃん。

凄いぜーはーぜーは言いながら上ってるよ? 」


「 そうだね。

ここは押さないと大変なのにね。 」


そう言いながら上って行ってしまう。

健の状況を知らない人だから仕方がない。

負けずにどんどん漕ぎました。


その頃、少ししてハラケンの所に救急車が到着。

田中さんを任せてハラケンは直ぐに追いかける。


「 君…… 腕まくりなんてしてどうしたんだ?

一緒に病院行かないのか? 」


救急隊の人に言われるとハラケンは、ズボンも上までまくりました。

走り易いように。


「 この坂道を上って友達を追いかけます。 」


凄い勢いでハラケンは走る。


「 今は30°もあるだ…… ぞ。

って…… もう聞こえないか…… 。

そんなにして何があるんだか? 」


暑い中ハラケンもまた、この地獄のような坂を上るのでした。


その頃、試合まで残り時間が迫って来て焦り始める愛さん達。

姫と光達も出来るだけのお手伝いをして、少しでも時間短縮の為に協力しました。

客席には姫のお父さんとお母さんの姿が。


「 おっほっほい!

楽しみで早く来すぎてしまったぞい。 」


「 あなた、少し声が大きいわよ。

頑張れーーっ!! 」


始まってもいないのに大騒ぎ。

客席でも目立ちまくりに。


「 お父さん達…… 恥ずかしい。 」


姫は顔を赤くして知らないふりをしている。

客席で無駄に目立ちまくっていると、バーガー兄弟の目に止まる。


( あれは…… 白鳥龍平!?

何故こんなド田舎に??

逆にチャンスかも知れないぞ…… 。

ここで目立てば白鳥家の目に止まり、かなりの人気になる。

スポンサーにだってなってくれるかも。

これは運が向いて来たぞ。 )


兄貴はニヤニヤと野望を膨らませる。

弟は少し静かでした。

何処かにメールを送ってニヤニヤしている。


「 ん? 何をニヤついてるんだ? 」


弟は不意に話をかけられて慌てながら。


「 イヤイヤ…… 何でもないですぜ。

ただ妄想膨らませていただけです。 」


バーガー弟は何やら怪しい動きをしている。

兄は忙しいので気に止めませんでした。


料理対決まで残り1時間を切りそうになる。

健は坂を上りきり一瞬だけ息を整えていました。


「 はぁはぁ。 良くここまで来たな。

後1時間とちょっと…… 後は下りと平坦だけだ。

足はもう使いもんになんないけど、絶対に間に合うから行かなければ…… 。 」


近道を使って大通りではなく、人通りの少ない下り坂を下ろうとする。


ぶるーーっ!! ぶぉーーんっ!

凄い音を鳴らせて大量のバイクが横を通り過ぎる。

見た目も柄が悪く、ヘルメットも被ってない人がほとんど。


( 田舎のヤンキーこえーーっ。

そんな事より早く行かなけれ…… ん?

アイツらのバイクに付いてるマーク。

何処かで…… 。 )


そのバイク集団は通り過ぎるかと思ったら、道に通れないようにバイクを停車しました。

嫌な予感がして逃げようと後ろを振り返ると、もう逃げ場所もバイクで封鎖されていました。


「 すみませんが今は急いでいまして。

悪いんですがここを通してもらえませんか? 」


健がお願いすると後ろの方から、裸で革ジャンの男が姿を現す。

多分リーダーであろう…… 。


「 通す訳にはいかないな。

俺達のリーダーを務所に入れておいて、そりゃ冷てぇじゃねーかよ。

なぁ…… ガキ? 」


リーダー…… 何を言っているのか?

…… はっ!? 健は思い出した。

彼らの付けているドクロマーク。

あれはこの郡山に来るときに絡んできた、不良集団が付けていたマークと同じでした。

やっと状況を飲み込みました。

これは偶然ではない…… 復讐なのだと。


「 でも捕まったのは自業自得では?

悪い事をしたらその反動は必ず来る。

そう言うもんじゃないですか? 」


副リーダーがゆっくり近寄って来る。

不適な笑みを浮かべながら。


「 そうだな…… キミの言う通りだ…… 。 」


そう言いながら肩に手を置いて来ました。


「 分かって頂けましたっ!! うっぐっ!! 」


健は強烈なパンチをもらってしまい、痛みによりしゃがんでしまう。


「 不良に一般常識語んじゃねぇよ。

俺達がここでのルールだ。

痛い目見せてやるよ。 」


周りはゲラゲラとバカ笑いをする。

苦しそうにお腹を抑えながら立ち上がる。


「 だからバカだって言われるんだよ…… 。 」


「 なんだって!? 」


ぶいーーんっ!! ぶいーーーーんっ!!

ぱーーおん! ぱーーおん!


いきなり謎のサイレンのが鳴り響く。

不良達も慌てて騒ぎ出す。

リーダー代理が健の胸ぐらを掴み問い詰める。


「 何の音だ!? 何しやがった!?? 」


ゆっくりポケットから防犯ブザーを取り出す。


「 この爆音鳴らせたらどうなるかな?

二度同じ手はくらわねーんだよ。 」


静かに不良達との戦いが始まる…… 。

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