第27話 父の味


次の日も朝から掃除をして、昼からの営業の準備をしつつ蕎麦の完成へと近付ける。

ハラケンと姫と愛さんのお母さんは、接客や掃除をして頑張ります。

健と愛さんは調理しつつの蕎麦のアイディアを、どうにか考えていました。


健は少し、落ち込んでいました。

お父さんに反抗した事はほとんどなく、今は複雑な心境でした。

お父さんは絶対…… 。

教科書でありルールでもあり憧れでもある。

そんなお父さんに反抗する事なんて今まで一度もなかったのに、とうとうやってしまいました。


( はぁ〜 。 やっちまったよ。

今までは親父の作ったレールの上走ってただけだから、自分で走りたくなったんだ…… 。

間違ってかもしんないけど、俺は走りたいんだ。

誰にも頼らずに…… 前だけみて。 )


健は少し浮かない顔をしていました。

愛さんは気にして話をかける。


「 大丈夫?? 何か考え事? 」


「 …… あぁ。 蕎麦の事を少し! 」


そう言い気持ちを教えてはくれませんでした。

一人で抱え込み悩んでいました。

愛さんは笑って流しましたが、それが本心ではないことを直ぐに分かりました。

力になりたかったのですが、今は忙しくて気にしてもいられませんでした。

助けられっぱなしの愛さんは、健の事で一人悩んでしまう。


そうしていつものように仕事終え、蕎麦のつけ汁を考案している。


( ん〜何か良いアイディアはないかなぁ。

後少しなんだけどなぁ…… 。 )


健は行き詰まってしまい、やけ酒にコーラをぐびぐびと飲みほしている。

そこにゆっくり愛さんが来ました。


「 健君? 大丈夫?? 」


愛さんは気にしていたので、健に聞きました。

健は直ぐに。


「 大丈夫? 決まってるでしょ!

大丈夫過ぎて困っちゃうくらいに。 」


そう言いながら笑いました。

愛さんは直ぐに健に。


「 お父さんと反抗したの初めてなの? 」


健は手を止めました。

そして少し思い詰めた表情で。


「 なんだかんだ初めてです。

反抗したのなんて生まれて初めて。

親父が絶対だったので…… 。

バカ息子で勘当されて仕方ないですね。 」


そう言いながら笑ってしまっていました。


「 健君は間違ってなんかないよ?

意見を言うのは悪い事じゃない。

私なんか反抗しっぱなしだったから、凄い気持ちが良く分かるの。

喧嘩するのはむしろ良いことなんだよ。 」


そう言い慰めました。

反抗するのは悪い事ではありません。

思いを伝える方法の一つなのです。


「 ありがとう。

親父は俺の事恥ずかしい息子って思ってるだろうなぁ。

だからどうにか自分の足で、やりたいことや進む道を見つけてみたくなって。 」


「 今頃、お父さん気にしてるよ?

健の事が大好きだからこんなとこまで来てくれたんだからさ。

自信持ってよ。

ゆっくり道を見つけるのも全然間違ってないから。 」


そう言い励ました。

健は少し元気が出ました。

また頑張ろうと思い、またつけ汁の考案する為に仕事に戻る。


「 ありがとうございます。

俺はまずここのお店に恩返しする。

そこから考えますよ。 」


そう言いまた味の研究へ。

愛さんは少し元気になった健を見て、少し一安心するのでした。


クルミを潰してこしてだし汁と牛乳を合わせ、後は色々入れてみましたが何か足りない…… 。

麺に絡む何かが。

健は牛乳を飲みつつ考えていると、愛さんは何かに気付きました。


「 そうだ…… 。 牛乳見て思いついた。

牛乳と相性良いもの。

そして独特なとろみを加えて麺に絡む、あの一品を。」


そう言い冷蔵庫から取り出したのは生クリームでした。


「 生クリーム?? 」


健がびっくりしていると、試しにつけ汁を作り始める。


…… そうして完成する。

二人は麺をつけて味見。


「 これは…… 美味い!!

美味すぎる! 」


健に衝撃が走る。

麺とつけ汁が上手く調和して、最高の組み合わせになりました。

あまりの美味しさに健は麺を食べ続ける。

愛さんも満足の結果に。

そして蕎麦の田中さんに電話をする。


「 田中さんですか?

…… 出来ました。 最高の蕎麦をお披露目する事が出来ると思います。

是非いらして下さい。 」


愛さんは自信満々に言いました。

田中さんもその自信に喜びを隠せないでいました。


「 そうですか。 なら明日伺います。

最高の蕎麦を持ってね。 」


遂に明日…… 全てが決まる。

蕎麦を使わせて貰うために、審査されるのです。

愛さんも健も自信に満ち溢れていました。

そして電話を切り、田中さんは一人思い出していました。


「 久しぶりに美味しい蕎麦…… 食べれますかな。

楽しみですね。 」


一人笑っていました。

田中さんも楽しみで仕方がありませんでした。


その夜。 健とハラケンは二階のベランダから、綺麗な夜空を眺めながらパジャマ姿で話していました。


「 健。 遂に明日…… 蕎麦を手に入れられるかもしれないね。 」


健も少し疲れた表情をしながら、牛乳の味を味わいつつ高級チョコを噛っていました。


「 バリバリ!! んにゃ。

頑張ったんだ。 絶対に上手くいくよ。

ここに来たのも何かの縁だ。

絶対に助けてやろうぜ! 相棒! 」


健とハラケンはいつの間にか、何でも話せる親友になっていました。

この旅は長くて辛い日もありましたが、二人は大きく成長する事が出来たのでした。


その次の日…… 。

田中さんがお昼休みに合わせて現れました。


「 さぁ。 麺は私が茹でましょう。

つけ汁の準備を。 」


そう言い厨房で麺を茹でる。

愛さんと健も調理し始める。

クルミを一から潰し、クルミの香りが店内を漂う。

田中さんは直ぐに匂いに気付く。


( クルミか…… 面白い。

ただその味を麺に上手く絡める事が出来ますかな?)


田中さんも楽しみになりながら、麺を茹でました。

そうして料理が出来ました。

田中も座り、いざ食べる事に。


「 美味しそうですね。

匂いも合格。 料理は鼻からも楽しむモノですからね。

さぁ、食べますよ。 」


そう言い麺を絡めて口へ!

ずるずるぅーーーーっ!!

凄まじい音を立てて口へ運ぶ。

これがすする! と言う事なのでしょう。

日本人特有の麺の食べ方なのです。

そして口の中で味を噛みしめる。

…… 少し無音な時間が店内に流れる。


( どうだ?…… 。

どうなんだ??…… 。 )


健はこれ程緊張したのは初めてでした。

奥からハラケンと姫と光も応援している。

みんな願い続けました。

美味しい…… と言う言葉を聞けるように。


田中さんは箸を置きました。

もういらないのか? それとも合否を言う為か?

全員緊張が隠せないでいる。

田中さんはゆっくり口を開く。


「 愛さん。 私は謝らなければいけません。

あなたはお父さんの味を継げていない。

簡単に解釈してしまっていました。

ただ…… この蕎麦を食べて確信しました。

…… あなたはお父さんの味を、しっかり継いでいるようですね。

最高に美味い蕎麦です。 」


その聞きたかった言葉を聞けて、愛さんは喜びました。

みんなも喜び大騒ぎに!

そして田中さんは立ち上がり手を出しました。


「 今日から私達は仕事をするパートナーです。

宜しくお願い致しますね。」


そう言い強く握手をしました。

愛さんは泣きながら喜び、感謝するしかありません。

最高の麺とつけ汁が合わさり、ここに最強の蕎麦が生まれました。


田中さんもとても嬉しかったのです。

お父さんとの約束だった、果たされないと思っていた約束。

今、やっと果たされたのです。

店内では喜びで大盛り上がり。


「 私は蕎麦を全部食べさせてもらいますね。

こんな美味いのは絶対食べないとね。

これは大忙しですね。 」


そう言い田中さんは蕎麦を食べました。

父の味は受け継がれていたのが、ようやく証明されたのでした。

そして決戦への料理が出来ました。

後は日にちが過ぎるのを待つのみ…… 。

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