第26話 頑固親父と勘当息子


凍りつく店内で親子はにらみ合いに。

二人は黙って沈黙に…… 。


「 健。 私はお前を思って言ってるんだ。

こんな所に居ても何の意味もない。

さぁ。 帰ってもっとためになる事を。 」


そう秀作お父さんは言いました。

その後ろから健の専属の執事も出てきました。


「 坊っちゃん…… 一緒に帰りましょう。 」


「 じいや…… 。 」


健はじいやはずっと一緒にいて仲良し。

お父さんに怒られた時も、いつでも味方でいてくれました。

健はいままでパパと呼んでいましたが、いつの間にか成長して父さんと呼ぶように。


「 じいや…… 悪いけど帰らない。

ここでは俺が必要なんだ。

あの家には…… 俺の居場所なんてない。 」


健はそう言い奥の部屋へ。

秀作お父さんは大きなタメ息を吐く。


「 すみませんね。 お見苦しい所を。

娘さん。 あなたからも健に言ってもらえませんか?

本当にバカなやつなもんで。 」


そう言い風呂敷をテーブルに乗せる。

あまりの重さに凄い音が鳴る。


「 少しですがお饅頭です。

どうぞ召し上がって下さい。

それではまた来ます。 」


そう言い帰ってしまいました。

愛さんはその風呂敷を恐る恐る開ける。


「 えっ!? …… これって。 」


それは沢山のお金でした。

最低でも1000万はありそう。

そんな大金見たことない愛さんは、思わず腰を抜かしてしまう。


「 これさえあれば…… お店閉じなくて済む。

借金だって…… 家だってこれで安定する。

このお金さえあれば…… 。 」


愛さんはその大金を見つめている。


「 俺はお金よりも大切なもんが見たいんです。 」


一瞬、愛さんの脳裏には健の言葉が過る。

健が大金持ちで幸せな人生だと思っていましたが、このお金を見たらあながち楽しいだけではないのだと分かりました。


「 坊っちゃんを宜しくお願い致します。 」


じいやはゆっくり店を出ようとする。

直ぐに愛さんは呼び止めました。


「 あの…… 健君ってどんな子だったんですか? 」


そう言うとじいやは立ち止まりました。


「 坊っちゃんはいつも呑気で、楽な道、楽な道へと逃げてお金と顔で女の子と遊んでばかり。

外から見たらバカ息子と呼ばれるでしょう。 」


じいやは長い付き合いなので、健の悪いところを沢山知っていました。


「 でもですよ? 私から見たら坊っちゃんは孤独とずっと戦っていたのです。 」


「 えっ? 孤独? 」


じいやはゆっくり話し始める。


「 奥様が失くなってからは兄弟も居なく、旦那様はいつも忙しくしているので、家ではいつも一人ぼっちでした。

私達執事やメイドが居ましたが、その寂しさを埋める事は出来ませんでした。

あのふざけていた坊っちゃんの行動は、その孤独を紛らわせる為にしていた事なのです。 」


愛さんは知りませんでした。

お金さえあれば何不自由なく、楽しく暮らしているとばかり思っていました。


「 坊っちゃんは変わりました。

勘当されてからは一生懸命バイトしたり、初めて出来た本当の友達と一緒に居て、良く笑うようになりました。

私は坊っちゃんの成長を何よりも嬉しく思っています。」


じいやは話を終え直ぐに車へ。

愛さんは店内に戻りお金を見る。

もしもこのお金を受け取り、健を帰してしまった時は健はどうなるのだろうか?

健の心に傷を負わせてしまうのだろうか?

愛さんは悩みました。

取るべき行動を…… 。


健は部屋で色々なお店の蕎麦を研究していました。

素人ですが勉強熱心にスマホを操作する。


「 クソ…… バカ親父…… 。 」


健は連れ戻されそうになり、イライラが止まりませんでした。


「 健君…… 大丈夫? 」


愛さんが部屋へ来ました。

すると健は直ぐに近寄って来て、スマホの画面を見せてきました。


「 見てくださいよ!

これとかも凄い美味そうですよね。

俺たちのつけ汁ももっと改良すれば、絶対に何処にも負けない味になります。

絶対に! 」


そう言い笑いました。

愛さんはその笑顔を見て思いました。

自分もお金でしか物事を考えていなかった事に。

愛さんはその時決心しました。


健を帰す手伝いを断る事に。

健の存在はそこにあるお金なんかより、価値のあるモノだと思ったからです。


「 うん。 凄い美味しそう。

また一緒に作ろうか! 」


愛さんはその後に蕎麦つゆ作りへ。

その風呂敷のお金は、返すまで誰にも見つからない場所へ。

愛さんも少し成長した気持ちになりました。

もしもこの店が潰れても、この仲間との繋がりは絶対になくならない。

そう思うのでした。


その夜。

秀作は店から離れ、少し街がある場所で一人お酒を飲んでいました。

小さな居酒屋でつまみを食べながら、一人考えていました。


すると隣に誰か座りました。


「 ほう! 一人で寂しくやってるのぉ。 」


「 龍平。 」


そこに現れたのは福島観光をしている白鳥龍平の姿でした。

二人は金持ち同士仲良し。

その影響で姫と健は子供の時から、良く一緒に無理矢理遊ばされていました。


「 喧嘩したのかい? 」


龍平がそう言うと秀作はうなづきました。


「 私はあの子を間違えた道には進ませたくない。

社会勉強もそろそろ良いだろ。

反省しただろうから家に連れ帰る。

そして私の仕事の跡に継がせる為に、勉強を始めようと思う…… そうする。

何か間違えているか? 」


龍平もお酒を飲みつつ考えました。

あながち間違えてもいません。

龍平は自分の思っている気持ちを話す事に。


「 健君は成長したね。

前よりも笑っていて、それよりも仲間達といつも楽しそうにしている。

スーパーでバイトしている姿も見たけど、凄い一生懸命に働いていたよ。 」


秀作は嬉しい反面、複雑な気持ちに。


「 私はあの子にやれることは、もっと他にあるんだ。

あの子の為にやれることを。 」


「 あの子の為ではなくて、自分の気持ちしか考えていないのでは?

あの子の気持ちを考えた事は? 」


そう言われ秀作はびっくりしてしまいました。

言われた通り、考えていなかったからです。


「 これ見てくれるかい?

健君とウチの可愛い天使ちゃんが、あの店で働いてる動画が送られてきたんだ。 」


そう言いスマホを見せる。

その動画には必死に働く健の姿が。

汗をかくのも少ないバイト代で働く事も、大嫌いだった健とは別人でした。

そして満面の笑みが。


「 あの子はもう大人に近づいている。

ちゃんと真っ正面で話すのも良いんじゃないか?

それとウチの姫ちゃんは可愛く映って…… 。」


途中からの話しは聞く意味がないので、動画を見続けました。


「 ふふ。 何か私は大きな間違いを犯していたのかもしれないね。

妻が失くなってからは私はあの子に、強く生きて欲しくて必死に育ててきたつもりだ。

だがこんなに笑ってるとこも見たことはない。 」


そう言い泣きそうになってしまう。


「 ほっほっほい!

私達もまだまだだったって事かね。

可愛いお嬢さん!

こっちに刺し身とお酒持ってきておくれ。 」


そう言い龍平と秀作は沢山お酒を飲み、男二人で仲良く子育てについて熱く話し合いました。

二人は親友だからこそ、互いの悪いところを言い合えるのでしょう。

どんなに年を取ろうとなくならない、かけ替えのない友達の存在を深く感じる秀作なのでした。

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