第24話 不器用な二人


お店では営業を終えてまた、今日も大会の為に秘策の蕎麦作りに専念していました。

光と姫とハラケンは終わった後の片付けや、食器洗いやらの下仕事をして、健は愛さんと蕎麦のメニューの研究していました。

役割分担する事により、少しでも多くの時間を割けるようにするのが狙いでした。


「 これも違う! 」


愛さんは上手くいかず、少し荒くなっていました。


「 クルミ汁は凄い良いんですけど、どうやったら麺に絡むんですかね。 」


健も知恵を絞りつつネットや動画で、美味しいつけ汁を調べたりしていました。

二人は必死に頑張っても、結果は必ずしも報われる訳ではありません。

それでも足掻くしかありませんでした。

このお店の為に…… 。


その頃、ハラケン達は掃除をしていました。

ハラケンと光の間には深い溝があるくらい、気まずく会話もなく仕事をしていました。


( 気まずい…… どうなってるの?

早く仲直りさせなくちゃ!! )


姫はひっそりと小さくガッツポーズをして、仲直り大作戦をする事に。

ですがケンカの理由は些細な事ではありません。

お互いに不器用なので、思っている事を言葉に出来ません。

お互い正直になれれば解決するのが早いのですが、そう簡単にはいきません。


まず何故ケンカになったのか?

…… そうです。 光のイケメンとの密会!

その経緯を辿るのが仲直りの、最速の解決方法です。

姫はこっそり光に聞く事に。


「 光ぃ。 聞きたい事あるんだけど。 」


光は雑巾掛けしていましたが、手を止めて振り返りました。


「 ん? どうしたの? 」


「 ハラケンとご飯の約束してた前日、何してたか覚えてる?? 」


そう言うと光は少し前の事なので、記憶を思い起こしました。


「 ん〜 …… あっ!

久しぶりに従兄に会った。 」


合点がいきました。

今までハラケンを苦しめ続けた男の正体…… それは従兄だったのです。


「 あーー ! それで勘違いしたんだ。 」


姫が大きな声で言うと光はポカンとしてしまう。

姫が光に経緯を話しました。

ハラケンの勘違い。 そして逃亡…… 。


「 本当バカなんだね。

従兄は間違いなくあいつよりはイケメンだけど、何で勘違いするのかなぁ。 」


呆れてため息をついてしまう。

勘違いして勝手にショックを受けて。

怒りたい気持ちより、早とちりして勝手に失恋した気持ちで今まで居たと思うと、少し同情してしまう。


「 光。 訳を話したら?

そうすれば直ぐに仲直り出来るよ? 」


姫が言うと光は頭を横にふりました。


「 こんな事で引き下がるビビりに、わざわざ理由なんて言いたくない。

あいつと居るとこれから先も、こんな事何度も繰り返すのかと思うとうんざりしちゃうんだ。 」


光は少し疲れてしまっていました。

ハラケンへの好きな気持ちは離れてしまったのでしょうか?


「 そうかぁ…… なら仕方ないね。

そうだ。 何でここまで来たか知ってる? 」


姫が言うと光は分かりませんでした。


「 地蔵桜の木にお願いすれば、恋愛成就するんだってさ。

本当にハラケンって面白いよね。 」


笑いながら外へゴミ出しに行ってしまいました。

光は自分が嫌われたとばかり考えていましたが、ハラケンも同じ気持ちで居た事に気づきました。

こんな遠くまで願い事叶える為に、高速バスに乗って不良にボコられて…… 。

それでもここまでたどり着いたのです。

光の中のハラケンへの怒りは何処かへいってしまいました。


( そうだ。 そうよ。

ハラケンに訳を話そう。

そうすればまた元通り。

ウチがバカだったわ。

あいつに女の子の気持ち考えろ! って言って分かる筈ないもん。

ウチが大人になろう。 )


そう思い、ハラケンを探しました。

夜の片付けを終えて、一人夜の散歩へ。

光は真っ暗の中ハラケンを探しに外へ。


( 何処に行ったんだろ?

こんな広くて見つけるのなんて無理。

ん? …… 待てよ。 )


光は近くの山に登って行きました。

少し険しかったですが、ここの頂上から下を見渡す事が出来るのです。

頂上に着き、大きな大木が立っている。


「 おぉーー い!

ハラケン。 居ないの…… ? 」


光が呼びかけましたが返答はありません。

大木の上の方は暗くて良く見えません。


「 ごめんね…… 。 勘違いさせて。 」


光は居ないと分かっていましたが、一言謝りました。


「 ハラケンが見たのは従兄なの。

だから全然関係ないんだよ?

また…… 一緒にご飯食べに行きたいなぁ。 」


悲しそうに言い、光は降りて帰ろうとしました。


ぐすんっ!


何やら動物の鳴き声のようなのが聞こえてきました。


うっうっ…… うっ。


間違いなく鳴き声でした。


( 何だ?? 何処から聞こえてくるの? )


そう思いながら上を見ると。

木の上から泣き声と共に、ハラケンの涙がこぼれ落ちてきました。

やっぱり居たのです。


「 居たんだ…… 。」


「 ご…… ごめんにゃしゃいっ!!

ぐすんっ! また早とちりしてしまいました。

ごめんなさい。 うっうっう…… 。 」


ハラケンは大泣きしていました。

光はゆっくりと笑いました。


「 ほら! 早く降りて来い。

本当におバカなんだから。 」


そう言うとハラケンはゆっくり降りて来ました。


「 おばさんがご飯作ってんだから、早く帰らないと!

ご飯失くなっちゃうじゃない。 」


光はそう言いハラケンの手を引いて走りました。

ハラケンは泣き止み、光に手をとられながら降りて行きました。

光はもう終わった事なのでこれ以上は、ハラケンを問い詰めたりしませんでした。

二人はお腹を空かせながら山を降りて帰りました。


ですが…… 一つ不可解な点が。

光はこんな広い場所で、真っ暗なのに何故。

ハラケンの居場所が分かったのでしょうか?

それはハラケンは悲しいことがあると、昔から高い所に登る習性があったのです。

なので光はまず最初に、一番高く見渡せる場所に行こうと思ったのでした。

こんな森の中でハラケンを見つけられるのは、光だけかもしれませんね。

二人はやっと仲直りできたのでした。


ですがハラケン達はまだ帰る訳にはいきません。

まだやり残した事が。

あの憎むべき天敵のバーガー兄弟に勝ち、そしてあのお店を繁盛させる。

これがハラケン達の出来る恩返し。

ここに来たのは偶然ではありません。

何かの運命…… 。

バーガー兄弟を倒すのは簡単な事ではありません。

日本人の癖にパンばかり食べてるあいつらに、「和」を見せ付けるのです。


その日はまたあのお店から賑やかな笑い声が、この山に響き渡っていました。

ハラケンは上機嫌に踊り、光と姫は恥ずかしそうになり、健達は大笑い。

またみんなの結束が深まり、絶対に負けない為にも沢山食べてぐっすりと眠る。


旅館に戻った光は幸せそうに眠っていました。

姫はその寝顔を見て嬉しくなりました。


姫は急にトイレに行きたくなり、廊下を歩いていると何やら話し声が聞こえて来る。

ゆっくりとその声の聞こえてくる方へ歩く。


「 はい。 …… はい。

健様は現在こちらにいらっしゃいます。

御安心を。 」


セバスが誰かと電話している。


( セバス?? 誰と話してるのかしら。 )


そう思いながらこっそり聞いていると。


「 はい。 秀作様…… 。 」


( えっ!? 秀作?? )


姫は思いっきり驚いてしまう。

秀作とは一体誰なのか…… 。

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