第23話 父の背中


外に散らばった砂糖を片付け、念のため塩を撒き直して営業再開。

勝ったらお店は存続出来るが、勝つのは並大抵の事ではありません。

バーガー兄貴にはこの料理では絶対に勝てない。

とまで言われてしまう始末。

さぁ。 どうすれば良いでしょうか?


「 お母さん。 私達で勝てるのかな? 」


愛さんはいつにもなく元気が失くなっていました。


「 大丈夫。 みんなでお父さんの残したレシピを再現させて、完成させれば絶対に負けないわ。」


お母さんは一家の大黒柱。

少しでも可能性があるのなら、最後まで絶対に諦めたりはしません。

お父さんの大好きだった、この店の為にも…… 。


お父さんは色々な蕎麦のつゆを考えていました。

鴨だしや昆布だし、魚介類のつゆや他にも色々。

その中で一番気になる物が。


クルミ蕎麦です。

クルミを細かくしてだし汁と合わせて完成。

後はどう美味しくするか?

お父さんのノートには、その事でビッシリでした。


「 んまあ。 再現してみます? 」


そう言い健は書いてある通りの手順で料理しました。

クルミはり潰してから、他の食材と合わせます。

すり鉢で細かくしていると、凄い香ばしい香りが店全体に広がっていきました。


そして少ししてつけ汁が完成!

蕎麦を茹でていざ! 実食。


「 凄い香りだなぁ。

クルミダレなんて初めて。 」


健やハラケン。

愛さん達も食べた事はありません。

さぁお味はどうなのでしょうか?

みんなで食べる事に。


ずるずるーーっ!

美味しそうな麺をすする音が。

無言になりながらゆっくり味わう。


「 うめーーっ!! 」


健とハラケンは顔を合わせながら喜ぶ。

みんなも美味しくてびっくりしました。

このクオリティは全然お店で出せる味。


「 ん…… 。 」


ですが愛さんは少し不満そうに。


「 愛さんどうしました?

美味しくないですか? 」


健が聞くと頭を横に傾けながら考えていました。


「 美味しいよ? …… でもクルミの風味が強くて、蕎麦の味と風味とマッチしていないと思うの。 」


言われてみると少し蕎麦よりクルミの方が、自己主張が強く感じました。

普通の人なら満足と言ってしまう。

愛さんは違いました。


「 愛さん凄いですね。

俺には全然分からなかったよ。 」


健が誉めると愛さんは厨房を見つめました。


「 お父さんは料理が大好きで、全体妥協しない人だったの。

これを田中さんに見せなかったのも、自信を持って美味しいって言えなかったんだと思うの。

だから中途半端じゃなくて、本気で向き合いたくて。 」


愛さんは子供の頃からお父さんの料理は大好きでした。

料理をしている背中を見ているのが、本当に大好きでした。

家族を楽にさせる為に大学に行き、少しでも仕送りをしたい!

そう思っていましたが、今は分からなくなっていました。

お父さんと同じで料理をするのが大好きになっていたからです。


( バーガー兄弟…… 。

お前らは勘違いしてるぞ。

お父さんが居なくなったから、簡単に勝てると思ってるだろうが、ここにはその意思を継ぐ人が居る。

後悔しても遅いぞ。 )


健は愛さんが話す姿を見て、負けないと本当に思うのでした。


そして姫がお手伝いにやって来ました。


「 あれ? 光は?? 」


来たのは姫一人。


「 途中まで来たんだけど、ハラケンとケンカしたから入りにくいみたい。 」


昨日から光は元気がありません。

光は気が強いと思われがちですが、弱い部分も沢山あります。

今は少し時間が必要なのかも知れません。

そしてお客さんの居ない間に、掃除や新作料理を研究する為に、姫も味見したりと協力するのでした。


その頃…… 光は一人行く宛もなく歩いていました。


( ハラケンのバカ…… 。

もう食べすぎて死んじゃえ!! )


プンプンしながら歩いていると、お腹が減ってしまいました。

すると目の前にはバーガーショップが!

試しに食べてみようかと思いました。


店内に入ると広い店内。

全部で三階もありまるで宇宙ステーション。

店員さんも凄い数で、直ぐに対応出来る環境に。

値段を見ると安い物ばかり。

高い物もありますが、どんなお客さんにも対応出来るように配慮しているのでしょう。

光でも分かるくらいに凄かった。


光はバーガーセットテキサスの味。

を頼みました。

にしてもネーミングセンスは最低。

兄弟のアメリカ被れが爆発しているようです。


( 正直美味しそう…… 。

匂いにしてもボリューム。

全てが最高クラスの品質。

チェーン店と比べたら天と地の差が。 )


よだれが出そうになりながら一口食べました。

バクンッ!! 大きな口で。


「 凄い…… バーガーの歴史を塗り替えそうなくらい美味いわ。

アメリカ被れの癖に実力は大したもんね。 」


店内を見ると老若男女と、あらゆる層の人達が居ました。

歌手がイベントで来たり、ポイントを貯めるとグッズが貰えたりと来たくなる要素たっぷり。

一度来たらまた来たくなる。

味も美味しいし言うこと無し。


光は定食屋武蔵を思えばこそ、とても悲しい気持ちになりました。

互いに美味しいし、勝つのはとても難しい。

これが現実なのです…… 。


食べ終わり帰る事に。

光はこのバーガーショップの弱点を探しに来ましたが、全く見つかりませんでした。

悲しくとぼとぼと外へ。


「 にしても一週間後であの店終わりますね。 」


厨房から悪口が聞こえてきました。


「 兄貴。 やっとあの目障りなボロ店とおさらばですな。 」


「 ああ。 あのバイトの助っ人のバカ二人のせいで、派手に恥ずかしく終わるんだ。

本当は静かに終われたものを…… 。 」


ハラケン達の事を言っていました。

バーガー兄弟と社員達も笑っている。


「 あの木偶の棒のゴリラ。

ここで必死に叫んでたな。

泣き虫の癖に必死に叫んで震えて。

笑えたよな!! 」


ハラケンがここえ来て、必死に訴えかけた事を笑いました。

社員も合わせて笑っている。


バーーンッ!!

レジのテーブルを叩く音が鳴り響く。


「 最低なバーガーショップね。

あんた達に…… あんた達にあのバカを笑って欲しくないんだから!! 」


光は戻ってきて訴えました。

店内は静まり返る…… 。


「 話しても無駄なのは分かってる…… 。

でも言ってやる!

ウチの大好きな人達バカにされたら、黙ってらんないんだから。 」


バーガー兄弟が光の前へ。

にしても二人共凄い大きさ…… 。

バーガーの食べ過ぎだろうか??


「 んで…… 何が言いたいわけ?? 」


弟が言うと光は負けずに引き下がらずに。


「 大会で恥をかくのはあんた達よ!

目にもの見せてやるんだから。

絶対にね!! 」


そう言い光は帰って行きました。

厨房から笑い声が聞こえてくる。

でも光は全然恥ずかしくありませんでした。

だってあの店はこんな悪魔のような、最低のバーガーショップに負けない!

そう確信したからです。

帰る足取りは少し軽く、少し元気が出ました。

帰ってみんなと頑張ろうと思い、走って坂をかけ降りて行きました。


その頃、バーガー兄弟は?


「 兄貴! 大会どうします? 」


兄貴は一人ミンチの肉を見詰める。


「 あそこまで言われて本気出さない訳には、いかなくなってきたな…… 。

見せてやるよ!

究極のアルティメットグランド・マイアミバーガーをな!!」


そう叫びながらミンチにパンチを入れる!

その威力は凄まじく、そのミンチの破片は店内へ飛び散りました。


「 イヤーーっ! 」


店内のバイトの女の子達の顔にかかる。

弟はそんな兄を誇らしげに見ている。

一体、どんなバーガーが作られるのか??

そしてこの、ダサいネーミングセンスは直さずに出すつもりなのか!?

互いに最強の料理で対決する雲行きに。

田舎で起こる、究極の料理対決が刻一刻と迫るのを少しずつ感じるのでした。

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