第21話 作れ! 魂の蕎麦


田中さんはあっという間に食べ終えてしまいました。

満足そうに微笑みました。

そして愛さんからお願いがありました。


「 田中さん…… もう父は居ませんが…… 蕎麦を仕入れさせては頂けませんか? 」


田中さんはびっくりしました。

その愛さんの目はお父さんと同じ、料理が大好きな人の目をしていてからです。


「 そうですね…… 。 分かりました。

ただし条件があります。

愛さんが私の舌を唸らせる、つけダレを作ってみてください。

それが条件です。

もしその条件が通れば、私達は共同経営者になります。

そして代金も格安で提供致します。 」


とても厳しい条件。

でも見返りもとてつもなかったのでした。

何故そこまでしてくれるのでしょうか?

愛さんが尋ねると。


「 私は美味しい蕎麦が食べたい。

ただそれだけですよ。 」


田中さんは本当は黙って帰ろうとしていました。

でももう一度味わいたくなっていました。

黒木武蔵の残した味を…… 。

田中さんは期限を設けずに帰って行きました。

満足するまでやってほしいとの事。

愛さんとお母さんはお父さんのレシピを、今完成させようとするのでした。


その頃、店内で掃除をしているハラケンと健。


「 なぁ? 田中ってあの田中蕎麦ファームのだよな?

すんげぇ人気なんだぞ?

俺の家でも取り寄せるのにすげぇ大変なんだから。」


健の家でも取り寄せに苦労してしまう。

それで分かる田中さんの料理へのこだわりと、お金さえ払えば良いと言う訳ではない事。


「 そうなのかぁ。 食べてみたいもんだな。

もしここで使えたら凄くないか?

繁盛するのかな? 」


残り期限も短く、何処までやれるか?

と言うところでした。


ガラガラーーッ!

店内の扉を開ける音が。


「 いらっしゃい! 今はまだ準備中でして。 」


ハラケンがそう言おうとして顔を見ると。

見たことのある顔がそこにはありました。


「 ハラケン…… 。 」


そこに立っていたのは光でした。


「 …… 光。 どうしてここに? 」


びっくりして立っていると、光は走って来ました。


バチンッ!!

とても大きな音が店内に広がるくらいの、強烈なビンタをくらってしまう。

ハラケンはその勢いで倒れてしまう。


「 あんたいい加減にしなさいよ!!

どれだけ沢山の人に迷惑になってるか、考えてないでしょ?

ふざけてんじゃないわよ! 」


光は激しく怒りました。

怒ると同時に涙を流していました。

ハラケンは自分のやった愚かさを恥じました。

こんなに心配させるとは思っていなかったからです。


「 ご…… ごめん。 」


ハラケンは謝りました。

すると光の後ろから姫が来ました。


「 光。 落ち着いて。

ハラケンやっと見つけたよ。

凄い探したんだからね。 」


そう言い微笑みました。

姫は相変わらず優しく、それと裏腹に光は怒りまくっていました。


「 まぁー 。 待て待て!

この木偶の坊を怒る前に俺様の話を聞きな。 」


健が仲裁に入る。

光の怒りの矛先は健へ。


「 俺様が誘ってここまで来たんだ。

だから責任は少しばかり俺様にも。 」


その瞬間!

光のグーパンチが健の顔へ。


「 どぅーー やぁーー !! 」


激しい痛みと共に、健は勢い良く倒れました。

ハラケンと姫はびっくりしてしまいました。

健はピクピクと動いているので死んではいないようだ。


「 どうしたの? 凄い音したけど。 」


愛さんとお母さんが奥からやってきました。

愛さんは二人にはすでに会っていたので、びっくりしてしまう。


「 愛さんお久しぶりです。

そこに居る二人が探していたバカ二人でして。 」


姫は申し訳なさそうに話しました。

愛さんも少しだけそんな気がしていました。


「 そうだったのぉ…… 。

この二人がその友人だったのね。 」


その場所で気まずい空気が流れました。


「 良かったらご飯食べない?? 」


お母さんが気を利かせてそう言いました。

みんなでご飯に。


「 さぁ。 食べて食べて!

つまらないものですけど。 」


そう言いながら出されて料理は、美味しそうなものばかり。

姫は目を輝かせながら見ました。


「 美味しそう。 いただきまぁす!

バクリ! おいひいですわ。 」


大きな口でヒレカツを食べました。

中までしっかり火が通り、お肉も柔らかい。

そしてお店特製のソースで食べられる。

姫は夢中に食べました。


「 あらあら。 沢山おかわりしてね。 」


お母さんはニッコリと笑いました。

光も重い箸を動かし料理を食べる。


「 もぐもぐ…… 美味しい。 」


怒っていてもお腹は正直でした。

もっと食べたくなってしまう。

一口、また一口と口へ運ぶ。


「 美味しいでしょ?

ウチの自慢の料理なんですよ。

どんどん食べて下さいね。 」


お母さんは優しく微笑みました。

光もどんどん食べました。

ハラケンは複雑な気持ち。

久しぶりに会ったのにビンタされ、お説教されてしまいました。

誰のせいでここまで来たのか…… そう思わずにはいられませんでした。


( アイツがお兄ちゃんの…… 。 )


華ちゃんは光を睨み付けていました。

光もその鋭い目線に直ぐに気付く。


「 華ちゃん。 何で見てるのかなぁ? 」


「 別にぃーー 。 」


反抗期なのか?

それとも怒られたばかりなのか?

子供には良くある事。

光はニッコリ笑いました。


なんやかんやで気まずい食事を終えて、営業は再開されました。

ですが思った以上のお客さんは来ません。

どうしたのでしょうか?


食べ終えて部屋で休ませてもらっている、光と姫はゆっくりお茶を飲んでいました。


「 光? あれはちょっとやりすぎだよ?

心配だったのは分かるけど。 」


姫が光にそう言うと。


「 ごめん…… 凄い心配だったから。 」


光は思っている事と、口や行動は同じではありません。

つい手が出てしまっていました。

でも凄く反省しています。


「 ねぇねぇ? 光お姉ちゃんはお兄ちゃんの彼氏なの?? 」


華ちゃんが近付いて来て言いました。


「 はぁ? 誰があんな奴と。

ウチは結構イケメン好きでね…… 。 」


光が慌てながら話しました。

姫はクスクスと笑う。


「 そうかぁ。

いらないならあたしが貰っちゃうよ? 」


そう言いながら笑ってハラケンの元へ。

光と姫は顔合わせてびっくりしました。


「 えっ!? 華ちゃんがハラケンを?

最近の子供はませてんだから。

あんな男直ぐに飽きちゃうわよ。

ぐうーたらで飽きっぽいし、めんどくさがりやでダメ男なんだから。 」


光はぶつぶつ言いながらお茶を飲む。

必死にヤキモチわ妬いてしまう姿に、姫は純粋に可愛いなぁと思いました。


一日の売り上げはまずまず…… 。

このままのペースでは間違いなく閉店になってしまいます。

早く、いち早く蕎麦の力で新しい風を入れたい。

愛さんと健は閉店後も、お父さんのレシピとにらめっこしながら試行錯誤する。


姫と光は近くの旅館に寝泊まりする為、夜なので今日は帰る事に。

二人もこのお店の事情が分かり、力になりたいと思い残る事にしました。

光とハラケンは二人きりに。


「 ねぇ…… ? どうして約束の日、こんなに遠くまで来たの?

一緒にご飯食べに行く約束だったよね? 」


光がそう言うとハラケンは黙っていました。


( 光がイケメンに乗り換えたからだろ?

俺の気持ちも知らないで…… 。 )


ハラケンは傷ついた事は言えずに、光を傷つけないように返答する事に。


「 男は黙って遠くに行きたくなるのよ。

光もこんな俺なんてほっといてくれよ。 」


光はハラケンの返答に悲しくなり、走って行ってしまいました。

ハラケンは情けないくらいの大泣き。

その泣いてる声は山をこだまするように、何度も跳ね返り響くのでした。


「 ハラケンのバカ!!

もう…… 知らない! 知らないから! 」


光は一人で必死に旅館まで走って行きました。

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