第19話 新メニュー


次の日の朝…… 。

愛さんはあまり眠れず、一足早く厨房に降りてきました。


「 おっ! おはようございます。

朝早いですねぇ。 」


健が一人厨房の掃除をしていました。

昨日あんなに酷い事を言ったのに全然元気で、むしろ元気過ぎるくらい張り切りながら掃除していました。


「 健君…… 昨日は…… 。 」


「 愛さんの言う通りですよ。

俺は金持ちで他人を見下してました…… 。

ネットとかでも探せば山のように、俺のふざけた過去が出て来ると思います。

でもこれだけは言えます。

もうそんな事微塵も思ってません。 」


話をさえぎって話しました。

健は真剣に思いを伝えました。


「 じゃあどうして?

…… どうして私達を助けてくれるの?

哀れみ? それとも社会勉強? 」


健は少し考え。


「 恩返しがしたかったんですよ。

俺もハラケンも死にかけてて、あの時助けてもらわなかったら今生きてなかったかもしれません。

俺の親父からの教えで、借りたら倍返しだ!

って家訓なんですよね! 」


そう言ってニッコリしながら掃除に戻りました。

愛さんは全く理解出来ませんでした。

でも一つだけ分かった事が…… 。

それはとんでもないお人好しだと言うこと。


「 健君…… ごめんなさい。 」


小さな声で謝りました。

自分も差別していたかもしれない…… 。

そう思い、深く反省しました。

健を大富豪の坊っちゃんと思っていましたが、その考えをやめました。

今目の前に居るのは、優しい能天気なお人好しの九条健なのでした。


それからみんなが起きて、何事もなかったかのようにご飯を食べました。

健は急にスケッチブックを片手に立ち上がり、何か話そうとしました。

みんなの目は健へ。


「 おっほん! 私、九条健が借金返済に向けて良いアイディアを思いつきました。

それは…… 新メニューじゃーーいっ! 」


みんなは口を開けながら聞いていました。


「 んふっふっふ!

トンビが機関銃受けたみたいな顔して、全く理解出来ませんか??

ねぇーー みんなぁ! 」


するとおばさんが口を開きました。


「 そうよね…… でも私達はお父さんの作ったレシピがあったからここまで来れたの。

もし違うクオリティの低い物を提供して、もし満足して貰えなかったら…… 。

そう思うとねぇ…… 。 」


ド正論!! それ以外の何物でもありません。

大きなチェーン店ですら、新メニューは奥手になり易く売れなければ赤字。

どん底のこの店にやる余裕なんて何処にもありません。


「 俺は全くの逆の考えです。

だからこそ挑戦したいんです。

これ見てください! 」


健がみんなに見せてきたのは、お父さんの残したレシピ帳でした。

中には今までの料理や具材の調達先の事など、事細かく記されていました。

その中にあった一つのレシピ。

それは「 くるみ蕎麦 」 でした。

この料理は家族の誰一人知りませんでした。


「 これ見て思ったんだ。

旦那さんも凄い苦労してたんだなぁって。

それでこの料理を完成させようと、必死に終わった後に研究してたんじゃないですか?

もしこれが完成したら…… 凄い売れると思いませんか? 」


旦那さんの最後の想い…… 。

それを考えるとやらない訳にもいかなくなりました。


「 健君。 お父さんにも出来なかった料理が、私達に完成出来るとは到底思えないわ…… 。

私は勉強ばっかで全然お父さんの料理、知らないんだもん…… 。 」


愛さんは悲しそうに話しました。

するとおばさんがゆっくりと話し始める。


「 そんな事ないわ。

お父さんはいつも言ってたわよ?

愛は沢山勉強して偉い! って。

俺の誇りだ! 口癖だったわ。

私達で力を合わせて出来ないわけない! 」


物事言うのは複雑そうに見えて、意外にも非常にシンプルに考えた方が楽な事が多い。

出来なくても良い。

最後まで諦めない事がここを存続する鍵なのだと思いました。


「 そうだ! お姉ちゃんの蕎麦食べたいよ。 」


華ちゃんも愛さんを応援しました。

そして一致団結して想いを一つにして、最後の大勝負に出るのでした。

そして盛り上がる中、一人乗り遅れる者も…… 。


( 完全に乗り遅れて話すタイミング失ってる。

これだから俺は…… 。 )


ハラケンは少し恥ずかしそうに、相づちするしかありませんでした。

話しと言うのは入るタイミングがとても難しい。

そう思う今日この頃なのでした。


そして一日の営業が始まり、今日も一日頑張るのでした。


その頃、姫達はハラケンのスマホが警察から返却されていました。

スマホの検索履歴では間違いなく地蔵桜を目指した形跡がありました。

周辺には何もなくて、ここまで来てまた分からなくなってしまいました。


「 本当に何処行ったんだか…… 。 」


光は旅館の部屋でため息をしていました。


「 ん? そう言えば…… 。 」


光は地蔵桜周辺に何があったか思い出していました。

近くにあったのは学校や定食屋だけ。

…… 定食屋。


「 そう言えばあそこのお店の店員さん…… 凄い美人だったわ。

ならあそこに立ち寄ってない訳ないし、何処かに居るんだったらあそこしかない! 」


光は遂に居場所を突き止めました。

長い長い旅になりましたが、遂に捕まえる事が出来るチャンスでした。


「 やったね光。 …… 光? 」


姫が喜んでいると光はスマホを片手に、不安そうな表情になっていました。


「 もしあの店に居たとして、何て言えば良いんだろ?

嫌いでこんな遠くまで来てたら、余計なお世話だって言われて突き帰えらされちゃいそうで。 」


光は約束を無視してこんな所まで来ている理由は分かりませんでした。

必死に追いかけて来ましたが、いざ見つけられるとしたら何を話せば良いのか分からなくなっていました。


「 大丈夫! 一緒に行こう。

ハラケンを連れ戻そうよ。

明日行こう、ねっ? 」


姫はそう言い励ましました。

光は一度も見せた事がない悲しい表情をして、不安で仕方がありませんでした。

それでもハラケンの安否や顔をもう一度見たい!

それだけでした。

お店に行くのは明日にする事に。


その頃、一日の仕事を終えてみんなはゆっくりしていました。

愛さんは一人厨房へ。


( 何か良いアイディアはないかしら。

ぐっ! とお客さんの心を鷲掴みにする、良いアイディアは…… 。 )


レシピノートを見ているとお父さんの試行錯誤が、沢山書き尽くされていました。

その中の一つのアイディアが気になっていました。


「 蕎麦? うちのお店は蕎麦何て全然やってないのに…… 。

なのにどうして蕎麦をやろうと思ったのかな? 」


謎は深まるばかり…… 。

そこへ健がやって来ました。


「 やってますかぁ? 」


「 …… うん。 行き詰まりだけどね。 」


色々考えても分かりません。

健にも相談をすると。


「 蕎麦ですかぁ…… ん?

そう言えば帳簿を少し見てたんですが、亡くなる少し前に蕎麦の麺を取り寄せしてるのがあったんです。

何か手掛かりになりますかね? 」


蕎麦の麺で有名な「 蕎麦田中 」 。

あらゆるお店に麺を卸売りして、そこのお店は繁盛間違いなし!

ですがあまりにも品質にこだわり過ぎて、取引出来るお店は極わずかしかいないのです。

そんな蕎麦田中から麺を一ケース注文した形跡が。


「 私…… ちょっと電話してみる。 」


愛さんはすぐさま蕎麦田中に電話をしました。

電話かけて事情を話しました。

田中さんはお父さんが亡くなった事は、まだ知らなかったのです。

田中さんはショックを隠せない様子でした。

後日お線香をあげさせて欲しいと言われ、次の日に来ることに。

お父さんと田中さんとの仲とは!?

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