第18話 無駄なお節介


鈍い音が鳴り響く…… 。

華ちゃんはゆっくり目を開ける。


「 お…… お兄ちゃん…… 。 」


ハラケンは華ちゃんを庇い、蹴りをもらって倒れる。


「 ん? 何だこの大木は?? 」


痛そうにお腹を抑えながら立ち上がる。


「 ここには…… あなたが傷つけて良いもんなんて一つも無い。 」


ハラケンは借金取りに語りかけました。


「 金が払えないんだから仕方ねぇだろ?

お前は何にも分かってない。 」


「 あなたは知っていますか?

ここのお店がどんなに美味しい料理を出しているか?

安くて美味しくて、量も多くてみんな…… みんなここが大好きなんだ…… 。

関係ないけど…… 黙ってられなくて。 」


ハラケンは無駄な事と分かっていましたが、言わずにはいられませんでした。


「 知った事かよ!

ここは返済期限過ぎたんだから、もう潰すしかねぇーんだよ。 」


借金取りの言葉は直ぐにハラケン達を現実に戻してしまう。


「 おかしいな…… 。

借用書には20日が返済日になってるけど?

二ヶ月滞納して返済日を過ぎたら、立ち退きしなければいけないなら、まだ終わりではないんじゃないか? 」


健が借用書を見て尋ねました。

借金取りは黙ってしまう。

まだ期間は残されていました。


「 那須さん…… でも最近の売り上げなんかじゃ、到底間に合いません。

潰しても何も問題ないっす。

どうせ閉めるなら早くても。 」


子分がそう言うと先輩の那須は店を出て行こうとする。


「 20日だ…… 分かったな? 」


そう言い出ていきました。

何故か物分かり良く直ぐに帰ってしまいました。

みんなは少し安心してため息を吐いてしまう。


外に出て歩いて帰る借金取り。


「 アニキ!! どうして止めたんですか?

あのまま勢い良くやれば、女共はびびって立ち退きしたはずなのに…… 。 」


那須さんは静かに。


「 何でだろうな…… 。

どう足掻くのか見たくなった。

それだけだ。 」


何か理由があるのでしょうか?

ゆっくり車に乗り帰って行きました。


ハラケンの元へおばさんが駆け寄る。


「 どうして…… どうしてここまで。

そんな痛い思いまでしてくれて…… 。 」


「 ここの店を守りたかった…… 。

そしたら体が勝手に動いてたんです。 」


光から唯一誉めてもらった事を、忘れてはいませんでした。


「 お兄ちゃんーーっ! 怖かった。

怖かったよぉーー。 」


泣きながら抱きつく華ちゃん。


「 大丈夫! 期限はまだある。

みんなで頑張ろう! 」


ハラケンはみんなを励ましました。

おばさんは嬉しくて、泣きながらお礼を言いました。

小さな希望しかありませんが、この店を残す為に戦う決意をするのでした。

愛さんは少しみんなとは何か違う事を考えていました。


その日は店を片付けて通常に営業。

バーガーショップには負けていますが、まずまずの売り上げがあり満足する結果に。

ですが今月の支払いにはまだ程遠く、どうにか売り上げをもっと上げなければなりません。


みんなでご飯を食べて一息ついていると、愛さんの姿が見えません。

何処に行ってしまったのでしょうか?

店から少し離れた場所の、眺めの良い山頂から夜空を眺めていました。


「 どうしたんですか?

今日は元気ないですね。 」


健が見つけて駆け寄って来ました。


「 別に…… 何でもないよ。 」


いつも優しい愛さんは少し冷めた口調で話しました。


「 俺で良ければ力に…… 。 」


健が言いかけたら愛さんは割って話をさえぎる。


「 ふざけないでよ!!

第三者だから適当な事ばっかり言って。 」


愛さんは荒ぶりながら声を張り上げました。


「 助けるって社会勉強か何か!?

貧乏を嘲笑ってるんでしょ?

私はずっと…… ずっとこんな生活が嫌だったの。

学校に通って沢山勉強して、沢山稼いでみんなを楽にさせたかった。

お父さんが亡くなってから、そんな夢も遠退いてしまったけどね。 」


あんなに温厚で優しい愛さんが、こんなにも取り乱して話す姿は初めてでした。


「 あんた…… 九条家の一人息子なんでしょ? 」


健はびっくりしてしまう。

自分の大富豪なのがバレていたのです。


「 …… 知ってたのかぁ。 」


「 私は学校行ってるから、お金持ちの振る舞いと貧乏人の癖とかには敏感でね。

あんたは無一文でおバカに見えたけど、その奥にはやっぱり気品と余裕が見えたの。

本当にイライラする…… 。 」


愛さんは怒りながら健にその思いをぶつけて来ました。


「 助けたいなら…… お金…… 。

お金頂戴よ!? あんたなら大した額じゃないでしょ?

助けるなんて簡単に言わないでよ…… 。 」


愛さんは泣きながら下りて行きました。

健はただ呆然に立ち尽くしてしまう…… 。


「 姫…… いてぇなぁ…… 。

すげぇいてぇなぁ…… 。 」


健は心が引き裂かれそうなくらい痛くなりました。

健は姫子が必死にお金持ちを隠し、生活をしていた気持ちがやっと分かりました。

そんな「お金」 何かではなく、純粋にみんなと仲良くなりたい。

そんな気持ちが痛いほど目に沁みていました。


( だから言ったろ?

住む世界が違うんだよ!

庶民は俺たちを金でしか見ない。

利用されるだけだっつーの。 )


健の口癖でした。

今その口癖が頭から離れません。

本当にそうなのか?

分からなくなっていました。


愛さんは本当はあんな酷い事を言う人ではありません。

ですがピンチになってしまい、あんなにも変貌させてしまう。

生きていく為に必要なのは、絶対にお金が大切なのが良く分かりました。

愛さんは行き場を失い、当たるしかなかったのかも知れません。


健は一人山頂から周りを悲しく眺めていました。


愛さんは走って暗くなった店内に入りました。

酷い事を言って、自分でも分からなくなってしまっていたのです。


「 愛。 ちょっと良いかな? 」


愛さんのお母さんでした。


「 愛がここで誰よりもこのお店や家族に、必死で頑張ってるのは分かってるわ。

本当にありがとう…… 。 」


「 そんな事…… 。 」


おばさんはゆっくり腰を掛けて話しました。


「 愛は多分…… 健君の素性知ってたのよね? 」


「 えっ!? 」


愛さんはびっくりしました。

誰にも気づかれていないと思っていたからです。


「 なんとなくね。

愛は健君の生活やお金とか羨ましくて、妬んだりとか色々感じたかも知れない…… 。

健君が遊び半分で働いているのでは?

とも思ったんじゃない?? 」


ほとんど見透かさせれていました。


「 健君が言ってたの…… 。 」


少し前の事…… 。

一緒に皿を洗っていると。


「 おばさん…… 下手でごめんね。 」


ぎこちない手つきを謝る健。


「 何言ってるの。 凄い助かってるのよ。 」


健は少し下を向きながら言いました。


「 俺は…… 当たり前な事何一つまともに出来ないんです。

ずっと周りに任せて生きてきたから…… 。 」


健は自分の生い立ちや勘当された事、全て話しました。


「 俺は本当の友達が欲しいんです…… 。

俺一人を大好きで居てくれる友達が欲しいんです。

だからこの事隠してました。

言ったら何か変わってしまうんじゃないか?

って思ってしまって…… 。 」


おばさんは黙って長い話を聞いてくれていました。


「 健君? あなたは自分の事嫌いかもしれないけど、私は大好きなのよ。

人を助けるなんて、やろうと思ってもそう簡単には出来ないわよ。

その心はお金なんかより、もっとずっと価値のあるモノなんだからね?

自信持ちなさいよ! 」


健は涙を流しながら笑いました。

おばさんはそんな健の事が好きになりました。


この話を愛さんに話すと、涙が止まらなくなっていました。

自分の心ない言葉が、どれほど健を傷つけたか良く分かったからなのです。

人を助けるのはお金しかないのでしょうか?

それはお金があれば誰にでも出来ます…… 。

必死に汗水流し手を伸ばすしてくれる。

それはお金で買えない大きな宝物なのだと気づいたのでした。

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