第11話 焼き鳥VSテキサスバーガー


次の日…… 。

朝早く起きたハラケンは少し散歩へ出掛ける。

華ちゃんも直ぐに後を追いかけます。

華ちゃんは毎日ハラケンにくっつきっぱなし。


健はと言うと…… 。

厨房に一人立っていました。


( ここの先代であるお父さんから受け継いだ料理は全て一級品…… 。

材料も質も全てが上級。

なら何故来ないのか…… 。

調べてみたらここら辺の店は、ほとんどが趣味でやっている状態。

あの悪魔のバーガーショップが影響している。 )


一人厨房でメニューを見ていました。

どの料理を売り出して行くか…… 。

健は頭を使うのが苦手。

ですが本当にバカな訳ではありません。

面倒くさがりなので行動したくないだけで、興味を持ったりした時の集中力は計り知れない…… 。

父親の血は薄まっていても、繋がれていくのが良く分かりました。


( まずは掴みだ…… 何で勝負する?

あの下品かつパンチの効いた匂いに負けない、日本人に秘めたるDNAに語りかける物…… 。

何だ…… ? )


そして一つの七輪を見つける。


( 七輪…… たしか炭火で焼くやつだっけ。

…… これだぁーー い!! )


健はついにもやもやしていた答えを導き出す。

直ぐに愛さんの元へ。


「 愛さぁーー んっ。

ちょっと聞きたい事あるんだけど?? 」


「 どうしたのかしら?? 」


健が勢い良く来てびっくりしました。

健の目はキラキラビー玉のようで、純粋な子供みたいな顔しながら聞いて来ました。


「 焼き鳥…… ってこれで出来ます?? 」


そして時間が流れて9時50分。

土曜日の朝はみんなはゆっくりと…… 。

していない。

バーガーショップ前には長蛇の列が、これでもか! と言わんばかりに姿を現しました。


「 早く食べたいわね。 テキサスバーガー。 」

「 あの味…… 病みつきよね。 」

「 ボクテキサス食べたいっ! 」

「 今日は10個食べるぞぉ。 」


様々な声が聞こえてきました。

そして並んでいる人のスマホには、バーガーショップのアプリのクーポンが届いていました。

半額クーポンの画面があちらこちらと見え隠れしました。


バーガーショップ店内では、オープン前から沢山の従業員がてんやわんやと動きまくっていました。

バーガー兄弟の出したクーポンで、ここら辺一体の地域の少しでも安く! 沢山食べたい!

と言うニーズに乗っ取った、最強かつ土日には誰もが行ってしまう大技が出ました。

店の屋上にはバーガー兄弟の姿が。


「 アニキ…… ざっと見積もっても、100人以上が並んでやすぜ?

ちょっとやり過ぎましたかね。 」


「 まぁー 待て可愛い弟よ。

俺達はどんな蟻…… いや、ミジンコを倒すのも全力を出すのだ。

ここら辺の地域は、俺達の繰り出すアメリカをもう忘れるなんて出来る筈ねぇーんだからな。

ふっはっはっは!! 」


二人は独裁者のようなデカい声で屋上から笑っていました。

それにしても…… お客さんはこんな店長達が居る店に来るのでしょうかね?

…… 来るんです。 何故なら安い! うまい!

これに尽きるのでした。


10時になり店がオープン。

順番に店内へ蛇の列が入って行きました。


「 お客様ーー ! こちらの列は一時間待ちです。

もう少々お待ち下さいませーー ! 」


一時間!? そんな時間人は待つのでしょうか?


「 早く来ないかな。 」

「 今のうちにゲームでもしよ。 」

「 腹減ったなぁ。 早く食べたい! 」


誰一人と帰る人はいませんでした。

安い! うまい! は最強なのです。


「 アニキ!! 俺達の勝ちだ。

わっはっはっはは! げほっ! げほっ!

すいやせん…… 笑い過ぎてタンが詰まってしまいましたぜ。 」


「 おいおい。 そこまでにしとけ。

今日の夜は宴をあげよう。

従業員を集めて、アメリカンパーティーだ。

あっはっは…… クンクン!

何の匂いだ?? 」


バーガーアニキは何やらバーガーの匂いとは違う、別の匂いに気付きました。

そしてじわじわとお客さん達も匂いに気付き始める。


「 何この匂い…… 。 」

「 美味しいそうな匂い。 」

「 この匂いって?? 」


お客さん達はみんなキョロキョロと周りを見渡しました。

バーガー兄弟はその慌てるお客さん達を上から見て、その異常な行動に気付く。


「 アニキなんですかこれは? 」


弟は全くその正体が分かりません。

鼻の良いアニキは直ぐに気付きました。


「 この匂い…… 炭火。

この風向きから来る匂い。

あの店からだ。 」


その指差した方向には一つの店が…… 。

定食屋武蔵の姿が。

そして大きな声が聞こえる。


「 いらっしゃい! いらっしゃい!

今日は焼き鳥が安いですよい。

良かったら是非、定食屋武蔵へ。

他にも色々ありますよ。

いらっしゃーーいっ! 」


その声にお客さんの目は武蔵に釘付けに。


「 あの忌まわしい声…… 間違いない!

あの…… ゴリラ野郎だ!! 」


耳の良い弟は直ぐに気付きました。

あの喧嘩を売って来た大男…… ハラケンの声だと。


「 ふっふっふ。 甘いな。

そんな七輪で焼いたぐらいな匂いで、ここら辺のアメリカ人と化した者のDNAに響くとでも。 」


アニキは少し動揺しましたが、絶対的な自信により直ぐに我に返る。

すると…… 。


「 あの焼き鳥…… ずけぇうまいよな。 」

「 ママ。 焼き鳥食べたいよ! 」

「 凄い並んでるし焼き鳥食べない?? 」


列からどんどん、どんどんと武蔵へ流れて行く。


「 そんな…… テキサスだぞ!?

どうして七輪ぐらいで…… 。

…… 違うっ!! ただの七輪ではない。 」


アニキは気付きました。

ここら辺一体はアメリカンに夢中。

絶対的な甘えにより忘れていました。

今までここら辺の人達はどうしていたのか?

土日何処へ外食していたのか?


「 武蔵の出す料理の味が…… あいつらの舌に、頭にこびりついてるんだ。

あのうまかった思い出の味が…… 。 」


そうなのです。

亡くなった親父さんが作っていた料理は最高。

みんな大好きでした。

焼き鳥ももつ鍋も、魚の塩焼きにけんちんうどん。

どれをとっても一級品の料理の数々…… 。

ここは「 アメリカ 」 なんかじゃない!

「 日本 」 なのだと言わんばかりでした。


「 ねぇねぇ! チラシ配ってる人カッコい良くない? 」

「 何あれ!? イケメンじゃない! 」

「 俳優さんかな?? 」

「 みんな行くわよーー! 」


女性が勢い良く列から抜けて行きました。


「 何だ!? チラシって。

あれは…… ? 」


望遠鏡で弟が下にある遠くの武蔵を見ました。

そこで一人の男がチラシを配っている。


「 はい! どうぞ。 どうぞ。

皆さん。 武蔵を宜しくお願いします。 」


キラリと輝く笑顔。

その正体は顔の傷が回復して元通りのイケメン。

健の姿でした。

金髪の決まった髪型に、和を彩る甚平。

女性のような綺麗な顔で女性を魅了する。


「 あいつ…… もう一人のミイラ男。

またあいつらの仕業か!! 」


アニキは帽子を投げ捨てました。

女性はバーガーに夢中??

そう今までは…… 。

イケメンが居るならそこに行きたい!

女性達は我先にと健の元へ。


「 アニキ! Twitterが大変な事に!! 」


直ぐにここら辺一体のワードを入れて検索すると、わんさか出てくるではないでしょうか?


「 イケメンみっけ! 」

「 イケメンに集まれ。 」

「 凄いタイプなんだけど! 」


あらゆる健の事や画像により拡散されている。

兄弟は驚愕しました。

列はあっという間に半分以下に。

それでもまだバーガーショップが優勢…… 。

だとしても負けたと言っても良い程に、あっちに流れてしまっている。

弟が凄い勢いで店へ走って行きました。


「 お前!! 何のつもりだ?

こんな汚いやり方しやがって。 」


健は女性の相手を一度止めて、デカい弟と話す事に。


「 おっと! 誰かと思いましたら、あちらさんの副店長さんではありませんか。

俺達は忙しくてかまってる暇ないんですが? 」


ニヤリと笑う姿も格好良く、女性達は夢中で見ていました。


「 お前ら…… 一体なんなんだ!? 」


健はハラケンと並びながら。


「 たんなるサマーバケーションのバイトですよ。

俺達の目的はただ一つ…… 本来のレールにこの店を戻す事だ。

なぁ? 相棒。 」


「 そうだ! 俺は忘れない…… 。

バカにしたお前らを!! 」


今戦いは始まったばかり…… 。

幕は切り落とされたのでした。

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