第8話 健の成長
ハラケンが華ちゃんの所へ出て行った頃、健はと言いますと体がまだ痛くて安静にしていました。
( 全く。まだ治んないと来たもんだ。
柔な体だよなぁ…… 。 )
そう思いながらイライラしていました。
お店の為に力になれず、ただ休んでいるのが割に合わないと思いました。
ゆっくり美味しい空気を吸いながら時間が過ぎるのを待つだけでした。
トントントン!
「 健君体調は大丈夫かな? 」
愛さんが健の容態を心配して少し見に来てくれたのです。
愛さんは部屋の扉を開けると。
「 …… あぁ。 何と良い空気なんでしょうか。
ここに居ると社会情勢やスマホの行方や、財布の事何かどうでも良くなってしまいます…… 。
あっはっは…… 。 」
さっきまで髪はぐしゃぐしゃだったのに、愛さんの足音を聞いてバッチリ決まっていました。
ミイラ人間な所だけは様にはなりませんが。
「 ウフフっ。 本当に面白いね。
ご飯作って来たから一緒に食べよう! 」
愛さんが二人分のもつ鍋を持って来ました。
下味からもつの下処理まで愛さんが一人でやったのです。
お母さんと愛さんはどっちも料理はプロ並。
( おっおっおっ!?
これはいきなり急接近かよ!!
落ち着け…… 落ち着くんだ健君…… 。
冷静さを失えば、相手に不信感を与えかねない。
ここは百戦錬磨のモテ師による返答は…… 。
これしかねぇーー だろう!! )
「 ほうほう…… これはまた美味しそうですね。
わざわざすみません。 」
紳士の姿とは裏腹に、心の中は邪念でいっぱい!
愛さんに一目惚れしてしまい、落とす為に一生懸命頑張っていました。
「 気にしないでよ。 はい。
どうぞ! 沢山あるからね。 後は唐揚げも! 」
美味しそうなお昼ごはん。
ハラケンは外へ弁当を持って公園に行って間、こっちはこんなにも宜しくやっているとは…… 。
( ハラケン…… ナイスアシスト!
二度と帰って来なくて良いぞ。 )
「 ハラケンも居れば良かったのになぁ。
お…… 私一人では勿体ないくらいです。 」
邪念を隠しながら紳士を気取る詐欺師のような技。
これに数多くの女の子が騙された巧みの技。
最低人間ですね。
「 本当に友達想いなのね。
健君は優しいね。 」
そう言い微笑みました。
( 良いぞ、良いぞ!!
好感度がぐんぐん上がっているぞ。
この調子だぁ。 )
内なる心は邪悪に囁くのでした。
もつ鍋をよそってくれて食べる事に。
( にしても茶色いなぁ…… 。
色も料理の醍醐味の一つだろうが。
目で料理って言うのは楽しむんだろうに。
これだから田舎…… いかんいかん!
またもや差別的に考えてしまった。
本当に悪い癖だ。 )
そう思いながら自分を恥じました。
そして少し昔の事を思い出しました。
それは一年前の事…… 。
姫と翼と健、ハラケンと光で外食に行った時の事。
ハラケンの給料日と言う事もあり、みんなに牛丼を奢ってくれる事になりました。
みんなはけちくさハラケンが、珍しく太っ腹な所を見せてくれてほんの少しだけ尊敬しました。
店内に入るとお肉の煮込んでいる美味しそうな匂いが、来た人達を包み込みました。
「 おいおいおい! ハラケン君?
お前が奢るって言ったのはこんなもんか?
ガチもんの庶民的な場所じゃねぇーかよ。
あんまり騒ぐからどんなすげぇ店かと思ったら、とんだクソみてぇな店だぜ。 」
そして笑っていました。
ハラケンがしょんぼりして落ち込むと、光が立ち上がり怒りました。
「 ちょっとちょっと!
元金持ちがどんだけ偉い訳!?
こんなボンクラが珍しく奢ってくれんのに文句あるなら、帰ったらどうなのよ? 」
言葉にトゲはありますが、ハラケンを想い注意しました。
その時は健は目をつぶり、仕方ないと思い牛丼が来るのを待ちました。
いざ目の前に牛丼が来ると、見た目は高級料理と比べたら綺麗とは言えませんでした。
「 はいっ! お待ちっ!! 」
店員のおじさんは強く器を置いて、凄い睨み付けながら厨房へ戻って行きました。
「 ほら、健のせいだよ?
あんなに怒らせて…… 。 」
「 姫はいちいちうるさいんだよ!
いただきまぁーー す。
…… もぐ。 …… 。 」
姫に注意されながら無視するように牛丼を食べました。
一口食べると言葉を失いました。
( 美味い…… 。 肉はA5肉と比べればイマイチかも。
でもこのタレとご飯…… 手が止まらない。 )
健は恥ずかしがる事も忘れて食べまくりました。
みんなは笑って健を見ていました。
帰り道の事。
健は翼と二人で帰っていました。
「 健…… 。 今日のお前の発言。
あんまり良いとは言えなかったぞ? 」
「 んっ? なんだって?
俺様は事実をだな…… 。 」
健は全く悪気がなかったので翼の指摘にイライラしました。
「 事実かどうかではないぞ。
問題は人に良くしてもらったのに文句つけたりとか、料理への不満を沢山言ってたよなぁ?
奢ってくれた人はあんまり気分良くないだろ? 」
健は少しそう思いました。
折角の好意で奢ってくれた人の気持ちを考えていませんでした。
「 それに。 実際食べたらどうだった?
美味しいとは思わなかったか?
高級なもんは質が良くて美味しいかもしれない。
料理は質だけでするもんじゃない。
作り手の努力で食材の美味しさを最大限に出すんだ。
もしも健があんなに文句つけなかったら、もっとみんな楽しかったんじゃないか? 」
健は黙ってしまいました。
何も言い返す言葉が思い付かなかったからです。
「 健はもう少し。 人の気持ちを考えよう?
そうすればもっと楽しくなれるから。 なぁ? 」
そう言い健の肩に手を置いて、翼は帰って行きました。
その時健は自分の傲慢さや、差別的な考えが頭にあるのを良く分かったのでした。
そして現在…… 。
もつ鍋の見た目は高級料理と比べたらあまり良くないかもしれない。
ですが味はどうでしょうか?
恐る恐る一口…… 。
「 ん〜〜まい! うまい!!
これ名前なんでしたっけ?? 」
「 もつ鍋よ? もしかして…… 初めて? 」
あまりにも興奮している健を見てびっくりしました。
健はがつがつと食べ進める。
「 もっつ鍋ですか? 美味しい。
基本質素なもんしか食べてなかったので。
本当に美味しい料理だ。
ばくばくっ! 唐揚げもスーパーのお惣菜より美味しい。 」
健はその時改めて思いました。
自分の今までの考えは改め直し、純粋な心で全てを見なければいけないのだと再確認しました。
健は美味しい美味しいと沢山食べました。
そんな姿を見ながら微笑んでいる。
( やっぱりそうだ。
俺はもう差別なんてしない…… 。
絶対にだ。 姫に出来たなら俺にだって。
俺は誰かを傷つけたりするのは止めたんだ。
これからは俺だって優しくなるんだ。
そうすればいつか自分に返ってくる。 )
健はこの鍋を食べ再開しました。
そして沢山食べて一眠りしてしまう。
愛さんは食器を片付けて下へ。
台所に食器を置いて部屋へ…… 。
ノートパソコンを開けて何か検索している。
( 九条…… 健…… 。 出た。 )
検索した結果…… 健のお父さんの会社。
健の写真とかが沢山出てきました。
白鳥家と対をなすくらいの金持ち。
検索に引っ掛からない訳もない。
( 九条健…… バカ息子。
勘当…… 。 株を多数所有…… か。 )
愛さんは何やら健を調べている。
その表情は少し険しく、何やら考えているようでした。
そして直ぐに検索履歴を消して、パソコンを閉じました。
「 大金持ちの御曹子って感じか。 」
そう言いながら健の寝顔見ていました。
何やら愛さんには裏があるのでしょうか?
健は何も知らずに眠り続けるのでした。
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