第5話 バーガー兄弟
健は一人熱でうなされていました。
頭痛もして苦しくて寝ながらもがきました。
「 苦しい…… 苦しい。
はぁ、はぁ…… 助けてくれぇ…… 。 」
健は一人苦しんでいました。
すると頭が冷たくなり、少し楽な気持ちに。
健の頭にずっと冷たいタオルで冷やしてくれていたのです。
「 愛…… さん。
迷惑かけちゃうので、もうだいじょ。 」
「 ちゃんと寝てなさい!
早く治すなら言う事聞きなよ? 」
健は薄れ行く中で見た愛さんはまるで天使。
天使に介抱されてるようでした。
健はほとんど風邪を引いた事はありません。
だからこそ辛いときに助けられる気持ちが、今やっと分かりました。
「 起きたら…… 一緒に。
俺と地蔵…… 桜。 見に…… 。 」
健は眠ってしまいました。
腫れはまだ酷く、青あざや傷痕から痛々しさが伝わって来る。
愛さんは健のぼろぼろの服を畳んでいると、一枚の保険証が落ちてきました。
愛さんはそれを見るなりびっくりしました。
「 九条健…… 九条ってあの? 」
白鳥家と対になるくらいに九条家。
様々な会社への投資や大株主になり、様々な会社をバックアップしている。
主な仕事は元々ある資産を運用し、日本企業を中心に全面的に力になっていました。
少し社会を知ると白鳥家と九条家は直ぐに出て来ました。
「 九条…… 。 」
愛さんは健を見つめていました。
ハラケンと華ちゃんが帰って来て、華ちゃんを部屋に運びました。
ハラケンは直ぐに健の容態を見に来る。
「 お帰りなさい。 ハラケン君。 」
手厚い介抱で綺麗に包帯を巻かれて、おでこには冷たいタオルが。
愛さんは本当に優しかったのです。
「 ただいまです。 健大丈夫か? 」
ハラケンが声をかけても返答はありません。
( うっ…… 苦しい…… 。
待っててくれよ愛さん。 今助けに…… 。 )
健は口の中に何か放り込まれる。
冷たくて甘い…… 。
( おいしい……冷たい。
愛さんがアイス食べさせてくれている。
天国だ…… 。 )
「 健…… 沢山食べて元気になれよ。
ほら。 あーん !」
食べさせていたのはハラケンでした。
天国ではなくて地獄だったのです。
本人は知らないので勘違いしている方が幸せなのかもしれませんね。
一日のお客さんは10人。
けんちんうどんは人気!
ここら辺では家でも食べる筈なのですが、それでもここで食べたい。
そう思える味なのです。
( おかしい…… やっぱりバーガーショップの影響なのか。 )
ハラケンはバイトで飲食店に努めている。
なので人気や値段とのコストパフォーマンス。
この割合がどれだけ重要か良く分かっていました。
けんちんうどんは380円。
安い上に量も多くて満足感もある。
なのに何故バーガーショップに負けているのか?
ハラケンは一人夜ご飯をバーガーショップに行く事に。
「 うわぁ…… 何だこれ? 」
そこは大きなバーガーショップ。
田舎には不釣り合いな夜まで光輝くお店。
まるでテーマパーク。
中へ入ると美味しい匂いに包まれる。
「 いらっしゃいませ。
バーガーショップブラザーへようこそ! 」
バーガーショップブラザー。
ここのお店の名前である。
兄弟が経営していて、裏で調理も行っています。
親から受け継いで手に入れた力で、田舎で売り上げを上げてから全国を支配する…… 。
まずは田舎からと言う事ですね。
34才の
双子の弟の
お金に関してとてもうるさく、少しでもミスした人を叱りつける。
性格も悪く、スキンヘッドが不気味な双子。
ハラケンはハンバーガーセットを頼み、席に着きました。
店員さんは美人揃いで歌も流れていて和やか。
裏では従業員さん達が一生懸命バーガーを焼き続けている。
「 普通のバーガーに見える…… 。
いただきまーーすっ! バクッ!!
…… うんまい!! 」
正直な反応でした。
田舎の料理は上品で薄味で美味しい。
バーガーショップはどうでしょうか?
ガツンっとくる塩っけがたまらない。
ジャンキーな人は病みつきになってしまう。
一口食べるとまた一口。
ポテトとシェイクも食べまくりました。
( 分かったぞ…… みんな普通の料理には飽きてるのかもしれない。
アメリカンなパンチの効いたこの味に夢中なのか。
悔しいけど…… 美味い。 )
少し悲しくなってしまいました。
美味しいにもジャンルがあるのです。
人によってはバーガーが良い。
また人によっては絶対に和食。
絶対に負けないくらい美味いのに、ここのバーガーショップの人を呼び寄せてしまう凄みがそこにはありました。
ハラケンは食べてて悔しくなりました。
「 食べ終わったし…… 帰ろう。 」
ハラケンは静かに帰ろうとする。
「 おい! あの店まだ潰れてないですぜ。
アニキ! 」
スキンヘッドの弟が現れて店を指差して笑う。
顔は弟とクリソツな兄が現れる。
「 まぁ…… ほっとけよ。
あんな昔の異物は直ぐに終わるさ。
ここの客を見てみろよ? 」
ハラケンは周りを見渡しました。
子供からおじいちゃんやおばあちゃんまで居る。
「 もう分かるだろ?
ここの住民はアメリカの虜さ。
もう侵略されたも同然さ。
あっはっはっはっは!! 」
凄い大きな声で笑っていました。
弟も一緒になって笑いました。
ハラケンはいつも弱気でびくびくしていましたが、黙ってはいられませんでした。
「 おい! お…… お前らぁ!! 」
二人はハラケンの声で振り返る。
「 何だこのゴリラみたいな奴は? 」
「 よせ国照。 何の用かな?
ゴリラ君。 キミも大事なお客様だ。
何か不満があるなら言ってくれるかい? 」
兄の国広はニヤニヤしながら笑っている。
弟も腕を組ながら後ろで笑っていました。
「 お…… お、俺はゴリラじゃない!
お前らが笑っていた定食屋で働いてるんだ。 」
声を震わせながらもそう言うと二人は大笑いしてしまう。
「 おいおい! わはははっ!
潰れそうなのにこんなボンクラの男をバイトに入れて。
何考えてんだ? あそこの店は。 」
「 よせ。 可哀想だろ?
あそこは亭主がなくなってからは、奥さん一人で経営してんだから。
どうせあの家族の娘にでもたぶらかされたか?
色仕掛け以外に取り柄無さそうだしな。 」
そう言いながら笑いました。
店員達も店長達に釣られて笑っています。
あはは。 あはははっ!
笑い声が頭から離れない…… 。
「 ふざけるなぁ!! 」
ハラケンが大声で叫ぶ。
周りの笑い声を止めました。
「 お前らに分かるか?
いつも一生懸命にお客さんが来るのを願い、準備をしっかりしてるのを。
いつも掃除をしっかりやってるだ。
小さな娘さんもお手伝いしてるんだぞ…… 。
それなのに…… 。 」
ハラケンは悔しかったのです。
あの家族がバカにされるのを黙ってはいられなかったのです。
ハラケンは涙を流しながら訴えました。
その声は笑い声や音楽に書き消されてしまう…… 。
「 お前一人で助けられると思うのかぁ?
なぁアニキ。 」
「 国照。 よせよせ。
もう良いだろ? 諦めな。 」
そう言われて悔しくてたまらない…… 。
そしてゆっくりと近付いて来る。
「 俺様の相棒をバカにするな…… 。 」
ハラケンがその声を聞き面を上げる。
横には包帯や伴奏だらけの健が立っていました。
「 お前誰だ!? 」
弟が言うと健はニヤリと笑い答える。
「 こいつの親友であの武蔵のバイトさ。
俺達でこの店より流行らせてやるよ。
二人でな。 」
そう言いながらハラケンの肩を組みました。
横に立っているのは、あの頃のチャラいだけの健ではない…… 。
平等に誰もが尊重しあえる。
そんな風に思えるように成長していたのです。
姫達の影響なのでしょう。
「 健…… 。 」
めそめそ泣きながら健を見ている。
「 泣くなよ不細工が。
帰るぞ。 この店をぶっ潰す為にな! 」
そしてにらみ合う兄弟と健達。
ハラケンはやっぱり健がイケメンにしか見えませんでした。
そしてゆっくりと帰って行きました。
この戦いは静かに勃発していくのでした…… 。
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