第2話 地蔵桜


ハラケンは目が覚めるとそこは自然に囲まれている山でした。

周りには木や草とか動物しかいません。

放し飼いにされてる犬までいる始末…… 。


「 何処なんだ…… ここは?

痛てててって…… 身体中が痛い。

何だこれは? 」


服を脱いでみると、身体中は青アザだらけ。

頭はでこぼこの岩みたいになる程のたんこぶの山。

立ち上がるだけで体が痛い…… 。

隣にいる健を見ると服はぶりぶりに破かれ、顔は青アザや腫れまくり。

寝ているのか? 気絶しているのか?


「 おい。 健! 何なんだこれは?? 」


状況が分からず健を揺すって起こそうとする。

健はゆっくりと目を開ける。


「 …… うるさい。 騒々しい…… 。

誰のせいでこうなったと思って。 」


「 健! 良かった。 生きてたんだ。

誰のせいって俺のせいなのか? 」


健は鼻で笑い、この何時間の事を話し始める。


それは深夜バスに乗っていた時の事。

ハラケンはいつも早く寝ているので、バスの中でもぐっすり。


「 ぐぅ。 ぐうぉーーっ!

待ってくれ! 置いて行かないでくれ!! 」


うなされてデカい声で叫んでいました。

周りの人達も迷惑そうにしていました。

すると体のデカい三人組が近寄って来る。


「 うるせぇなぁ。 この寸胴野郎は! 」


金髪で明らかにヤバそうな雰囲気…… 。

健は人の事言えませんが。


「 すみませんね。

この人昨日フラれちゃって、うっぐ!! 」


健が気を緩めた瞬間、相手の拳がお腹に入る。


「 兄ちゃん。田舎もんなめんなよ。

バス降りたらボッコするからな…… 。 」


ボッコ…… 福島の方言。

ぼこぼこにする略だそうです。

健は椅子に座りお腹を擦る。


( クソ野郎が…… さすがの俺様も三人相手じゃ無理だわ。

ハラケン置いて行けば逃げられるけど、俺様の少しだけ眠っている「ダチ」ってヤツが邪魔して逃げられねぇわ。 )


そして目的地の福島県郡山市に着きました。

ここにどんな用があるのでしょうか?

ハラケンをおんぶして三人に連れられて、田舎のセンター街裏にやって来ました。


「 えっへっへっへ。

クソガキがなめてっからこうなんだよ! 」


健はハラケンの分までパンチやキック。

服もビリビリに破られてしまう。

そしてぼろぼろになりながら倒れてしまう。


「 やっと静かになったか。

後はこの大木をボコってやるか。 」


眠っているハラケンの元へ。


「 むにゃむにゃ。 俺だってお前の事…… 。

嫌いだよ…… 。 」


うなされながらまたボヤいてしまう。


「 ほうほう。 ならいてぇのお見舞いしてやる! 」


その時に健はハラケンに覆い被さりました。

敵の攻撃をどうにかハラケンの致命傷を避ける為に、仕方がなかったのです。

ハラケンも腹を蹴られたりしたが、健のお陰でどうにか助かっていました。


「 こらーーっ! 何してんだ!! 」


徘徊中のお巡りさんが駆けつけました。

治安が悪い所にはちゃんとお巡りさんが徘徊してくれている。

これが日本の素晴らしい所ですね。


「 チキショー。 ずらかるぞ。

財布とか出来るだけパクってくぞ! 」


現金やスマホを捕られてしまい、ヤンキー達は逃げてしまう。


( 俺達の…… 財布…… 。

そんな事よりこんなとこ警察に見られたら、俺達の大学行きはなくなっちまう。

逃げなければ…… 。 )


健は意識が遠退きながらどうにかハラケンを背負い、朝の霧の中へ消えて行きました。

そしてぼろぼろな体でバスに乗り、街中から目当ての山へ向かいました。

バスの中でヘロヘロになりながら、目的の山を歩いている内に健は意識が失くなり倒れてしまう。


そして現在。


「 って訳よ…… 。

お前があまりにも可哀想だから、仕方なくだな助けたんだ。

ありがたいと思いなさい。 」


ハラケンはショックを受けて爆睡してしまい、全く起きませんでした。

その分健がぼろぼろになってしまいました。

元々健とハラケンは二人での絡みは皆無。

だからこそこの気持ちがハラケンは大いに嬉しかったのでした。


「 よいしょっ! 」


ハラケンが軽く健をおぶる。


「 おい。 お前も体痛いだろうに。 」


ハラケンは何食わぬ顔で山道を歩く。


「 俺は何の取り柄はないから、この体使って誰かの力になりたいんだよ。

…… 悪かったな…… それとごめん。 」


健はその言葉一つで助けたかいがあったって気持ちになりました。


それにしても何故福島まで来たのでしょうか?


「 おい大木。 ここにある地蔵桜はな。

おめぇみたいにすんげぇでけぇんだってさ。

だからその先輩さん見れば、少しは気が晴れるってもんじゃないか?」


健はいつの間にか金持ちと庶民の隔たりなどは失くなり、とても優しい男になっていました。


「 健…… ありがとう。 」


お腹を空かせながら地蔵桜へ向かいました。

そして目的地に到着。


「 健…… これは…… 。 」


桜はとっくに散ってしまい、ただの大きな木でした。

夏に来たら当然の結果でした。


「 桜って四六時中咲いているのかと思ってた。 」


希望は崩れ落ちてしまい、二人はその場で倒れてしまいました。

お腹も空いて動けない。

現金もなくてスマホもない…… 。

二人は倒れて綺麗な空気を浴びながら眠ってしまう。

どうなってしまうのか?


その頃、そんな事は全く知らず楽しい朝食を楽しむ光達。


「 だから男ってダメなんですよ百合さん。

ウチは本当に見損ないましたよ。 」


「 ハラケンちゃん可愛いじゃない。

全然顔とかは翼ちゃんには手も足も出ないけど。

案外最近はあんなでかくて優しいのも、凄い魅力的だと思うけどなぁ。 」


三人は恋愛トークに花を咲かせていました。


「 それにしても…… 何処に行ったのかしら?

ハラケンは約束破る人じゃないのに。 」


姫はハラケンの事が心配になっていました。

黒崎は現在は離婚して離れていたお母さんに会いに行っていました。

なので残る頼れる人材は…… 。


「 チャラ男に聞いてみよう! 」


そう思いご飯を食べ終えてリムジンで健の家へ。

着いてからチャイムを鳴らすと、誰も出て来ない。

しかも鍵はかかっていない。


「 健まで…… 何が起こってるのかしら? 」


そう言いながら姫と光は家の中へ。

テーブルの上には冷たくなっているカップヌードルの空が二個置いてありました。


「 あっ! このメーカーのカップラーメン。

ハラケンの大好物よ。

間違いない…… 昨日までここに居たのよ。 」


光は些細な痕跡でハラケンが居たことが分かりました。

姫は少し笑ってしまう。


( あんなに怒ってても、やっぱり心配なんだわ。

光はハラケン大好きなんだから。 )


健気な光を見て微笑ましくなる姫。

居たことが分かっても何処に行ったのかは、全く掴めませんでした。

健に電話しても繋がらない…… 。

二人はなす術が失くなってしまう。


その頃二人はいい匂いが漂ってきて、その匂いで目が覚める。


「 ん…… この匂いは? 」


ハラケンは意識が遠退きつつある中、目の前には可愛らしい少女が立っていました。

小学一年生くらいの可愛らしい女の子。

その手には何やら美味しそうな、熱々のうどんを持っていました。


「 おにいちゃんたち。 おなかへってんの?

んじゃあこれたべる? 」


ハラケンは凄い勢いで食い付きました。

女の子は自分の手まで食べられそうになり、びっくりしてしまう。


( なんだろこの人達…… 。

服はぼろぼろでこのおなかの減りかた。

ここら辺の人じゃないぞ。

にしても…… 汚ならしい大きな猪みたいなおにいちゃんだなぁ。 )


ハラケンは直ぐに食べ終えて我に返る。


「 はっ!? いつの間にか全部食べてしまった。

お嬢ちゃんありがとう。

もう一人のお兄ちゃんにも食べさせたいんだけど、頼めるかな? 」


図々しい頼みをしました。

健は空腹で体もぼろぼろ。

その女の子は健を見ると。


「 うわぁ…… すんげぇ美男子だわ。

イケメンだべ。 」


健の事がタイプのようでした。


( 涙が出そうになる…… 。

世の中顔なのか? そうなのか?

俺は信じないぞ!! )


ハラケンは軽く世の中の不条理に絶望していました。


その女の子に話を聞くと、家が定食屋さんなのだとか。

店からおじいちゃんにうどんを届けようとした所に、偶然二人が倒れていているのを見つけたのでした。

女の子の好意によりお店に連れて行ってもらえる事に。

この出会いが二人の運命を変える事に…… 。

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