第4話 リアトリスは義弟の力になろうとしている

 ティムロッツ・ルチアーク。15歳。左利き。身長182cm72kg茶色の短髪。黒目。

 代々騎士団長の家系であるルチアーク家の長男。質実剛健が服を着て歩いているような性格で、貴族だからと飾ることなく誰にでも誠実に接している。家族や親しい間柄の者にはティムと愛称で呼ばれている。


 討伐した邪龍の話をしながら、ゲームで見た彼のプロフィールを思い出す。


「邪龍の攻撃にも『ゴッドモードルーティン』は有効だったのか!? 流石は義姉さんだな。だが、何故わざと吹き飛ばされたんだ?」


 私の固有スキルである『ゴッドモードルーティン」は髪を整えている間一切の攻撃を受け付けない。それは邪龍であっても同じだった。


「警戒されていたみたいなので隙を作ってあげたんですよ。そうしたら油断してくれて楽に倒せました」


 最初に『ゴッドモードルーティン』を見せたのが悪かったのか、邪龍は私を警戒して守りに徹していた。

 邪龍の癖に防御魔法、回復魔法を駆使して私の様子を伺っていたのだ。

 大きな力を持っていながら決して力を過信しない冷静な判断。こういう相手が1番厄介だ。


 だから自然に隙を作ってカウンターを決めたのだ。邪龍の攻撃で思ったよりも吹き飛んだがそのおかげで前世の記憶も思い出したし怪我の功名と言ったところだろう。


「邪龍相手にそんなことするのは義姉さんくらいだろうな」


 ティムは私に呆れると、今度は天を仰ぐように廊下の天井を見上げる。


「……本当にすごいな義姉さんは。まだまだ上だ」


「上……」


 「上」という彼の発言に。そして上を見上げる動作に思わず反応してしまう。

 私の反応にティムが気付くと、模造刀を持っていない右手を私に向けながら気さくに笑う。


「ああ、気にしないでくれ」


 それは無理な話だ。

 何故ならゲームの攻略キャラであるティムロッツ・ルチアークにとって、「上」という言葉はシナリオの根幹に関わってくるからだ。


 ゲームのティムは騎士の家系に生まれながら未だ騎士になれず、一方で同い年で騎士団のトップになった義姉の私に大きな劣等感を抱いている。先程「民間人」という言葉に顔を曇らせたのはそれが原因だ。

 そして、彼は劣等感と同時に、私を「上の存在」として尊敬しているようだった。

 

 私を「ずっと上にいる人」と言い表して、自らは「あの人のいる遥か上へ辿り着きたい」と私を道標にしていた。

 シナリオの前半はヒロインの行動より私の行動に従っていたし、魔王に感化され怪しい行動を続ける私にもティムは「きっと義姉さんには考えがある」「義姉さんが間違える筈がない」と盲信していた。

 

 だが、私が破滅して炭となって消えた時にティムはようやく我に返る。そして、自分の道標を失い途方に暮れるところをヒロインに諭されるのだ。


『もう上ばかり見るのはやめる。これからは前を見ようと思う。……横にいる〇〇(ヒロイン)と一緒に』

 このセリフは改心した彼の台詞で屈指の名場面だ。


 その後シナリオの終盤で彼はいなくなった私の代わりに騎士団長に就任してティムルートならヒロインと結ばれ、他の攻略対象のルートでも魔王を倒した英雄の1人として後世に語り継がれることになる。


「貴方は──」


 ゲームのことを思い出すと自然に口が開く。そして、我ながら変なことを彼に尋ねてしまう。


「貴方は私がずっと上の存在だと思っているのですか?」


 まるでナルシストのような発言だ。だが、そんな私の問いにティムは真面目に答えてくれた。


「当たり前だ。義姉さん程の騎士はいない。俺の憧れだ。義姉さんこそが俺の目標なんだからな。前にも言っただろう。恥ずかしいからあまり言わせないでくれ」


 そうだ。ゲームのティムだけじゃない。ここにいるティムも私を尊敬してくれている。だから毎日断られても私に稽古をつけてくれるよう懇願しているのだ。

 そうなるとティムは私が破滅するまで私に順従することになるのだろうか。

 魔王に唆される、弱い私に。


「……嫌だな」


 思わず足が止まって下を向く。

 それに気づいてティムも歩くのをやめて私の方へ振り返る。


「どうしたんだ? まさか吹き飛ばされた影響か!?」


 心配するティムを他所に私は考える。

 私が負けイベントを乗り越えて、魔王に惑わされないのだとしたら。私が破滅しないのだとしたら。彼が改心するタイミングを失う。

 

 前世の記憶を取り戻したからと言ってこの世界で生きてきた記憶がなくなる訳ではない。

 私はゲームの内容でこれからの彼も知っているし、勿論これまでの彼も知っている。

 それを踏まえた上で、彼が誠実で、努力家で、才能があることを知っている。

 そして、私を目標にすることは良くないことも知っている。弱い私の背中を追っていては大成は果たせない。


 私はそんな彼の力になってあげたい。

 

「今すぐ医務室に連れて行ってやるからな!」


「あれ」


 どうやら考えていた間にティムが私をお姫様抱っこで医務室に連れて行こうとしていたようだ。

 反応がなかった私にも落ち度があるが倒れたわけでもなく、ただ突っ立っていたのだから大袈裟すぎる気もする。いや、これも彼の優しさから来るのもだと素直に認めるべきか。


「離してください。私は平気です。それと、貴方に話したいことがあります」


 私は次に、どうやって彼を私の呪縛から解放させるか考え始めた。

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