第2話 リアトリスは考察している
国王は戦争を終わらせた私を学園に通わせることで、平和の証明を国民、更には国外に伝播させると画策しているらしい。
そんなことをお義父様から聞かされると、私には断ると言った選択肢はなく、2つ返事でこれを了承した。
「……はぁ」
お義父様と別れ1人になると溜息が漏れる。
廊下にあった姿鏡を見つけると腰まであるストレートの銀髪を整え始めた。整えたばかりで乱れてはいないが、これが私の落ち着く行動。ルーティンとなっているのだ。
ゲーム内でも『リアトリスは髪を整えている』とメッセージが出るくらいなのでゲームの私も髪を整えるのが癖になっていたのだろう。
そんなつまらないことを考えながら紫色の瞳で自分を凝視すると、宙にメッセージが浮かび上がる。
= = = = =
リアトリス・ルチアーク
(旧:リアトリス・ドランタール)
レベル 99+
ステータス
体力:999+
攻撃力:999+
防御力:999+
攻撃魔力:999+
回復魔力:999+
素早さ:999+
魔法: 火炎魔法(32/32)
水魔法(32/32)
風魔法(32/32)
土魔法(32/32)
雷魔法(32/32)
光魔法(0/32)
闇魔法(32/32)
スキル: 物理耐性(特)
魔法耐性(特)
スキル耐性(特)
アイテム耐性(特)
限界突破 (全ステータス)
様子見の紫視線
ゴッドモードルーティン
縺ゅ>縺、繧ょシキ縺
= = = = =
私は全ステータスカンスト、更にはスキル「限界突破」により表示されているステータスよりも高いステータスを保持している。ゲームのステータスのままなら魔王のどのステータスよりも上だった筈だ。
魔法は光魔法以外の6属性の魔法を、低級魔法から最上級魔法までの32種類全て扱うことが出来る。応用した魔法を合わせると数千種類を超えるだろう。
こんな頭の悪いステータスは私以外で見た事がない。
因みにこのメッセージが浮かび上がるのは私の固有スキル「様子見の紫視線」によるものだ。
「様子見の紫視線」は人物を凝視すると、その者のレベル、ステータス、魔法、スキルが分かる。
耐性レベルの最も高い「スキル耐性(特)」を持っている私にも通用しているため鑑定妨害系のスキルも貫通する。それが固有スキルである所以である。
「…………」
前からこのスキル名に違和感を持っていた。「紫視線」は分かる。私の瞳が紫色だからだろう。しかし鑑定系スキルに「様子見」はなんだがしっくり来なかったのだ。
だが、今になって分かった気がする。
「……これ。[リアトリスはこちらの様子をうかがっている]だよね」
私の登場したゲーム。いや、RPGならお馴染みのメッセージだろう。敵が行動しない時に出てくるメッセージだ。
プレイヤーからしたら敵がなんの行動もしないサービスターンだが、私にとっては情報を得るための大事な行動だったのだ。
「様子見の紫視線」の謎を解明するとあることに気づく。私は自分しか持っていないスキル。所謂固有スキルを3つ所持しているが、その内2つは負けイベントの最強キャラ。リアトリス・ルチアークと強く関連している。
「……[リアトリスは髪を整えている]」
「様子見の紫視線」の下にあるスキル「ゴッドモードルーティン」を見ながら呟く。
「ゴッドモードルーティン」は特定の行動時に一切の攻撃を受け付けないと言ったものである。その行動とは、今、私がしている髪を整えることだ。
ゲームのリアトリスはヒロイン達の攻撃でダメージを受ける代わりに『リアトリスは髪を整えている』とメッセージが出る。
強者の余裕だと思っていたがこの行動こそ、彼女にとって最高の防御手段だったのだ。
実際。このスキルは何度も私を助けてくれた。このスキル無しに停戦は叶わなかっただろう。
「じゃあこれも何か関係があるんだろうな」
私は更に下にあるスキル「縺ゅ>縺、繧ょシキ縺」を見る。
このスキルの能力は私ですら分かっていない。「様子見の紫視線」は本来スキルの詳細も分かるが、スキルの説明も滅茶苦茶な文字を羅列しているだけでどんなものなのか分からなかった。
デタラメな文字列の為最初は何かの間違いだと考えていたが、他の手段で鑑定してみても表記は変わらない。文字も無茶苦茶で能力の推測もできない。正直固有スキルと言っていいかも微妙だが、私以外持っていないのだから固有スキルと言う他ないのだ。
しかし今は状況が違う。所持している他の固有スキルがゲームと関連しているならもう1つだって関連している可能性は高い。私は髪を整えながら一考した後、苦い顔をする。
「魔王に絶対服従とかだったらどうしよう」
私は魔王より明らかに強かったのにも関わらず、甘言に唆される。予定である。
ゲームのシナリオの一部に過ぎないが、もしかするとそれすらもスキルの影響なのかもしれない。そうなると対策のしようがない。杞憂であると祈るしかないだろう。
「……今は学園での立ち回りを考えよう」
ゲームのシナリオを思い出す。学園に入学したヒロインは6人の攻略対象に出会い。入学から1週間後、その時点で好感度の1番高い者と共にリアトリスに挑んでくる。
圧倒的な力に敗れたヒロイン達は共に強くなろうと堅い絆で結ばれる。そして、リアトリスは自分にない人と人との繋がりを見ると心に闇を抱き、そこに魔王が現れる。
「こんな流れだったよね」
シナリオを予め知っているのは大きなアドバンテージだろう。前向きに考えると、覚悟ができている訳だからヒロイン達を見ても黒い考えにはならないかもしれない。
だが、シナリオは知っていても私自身は何も変わらない。大きなトラウマを持っている心の弱い15歳の少女。それが私なのだ。
「となると、イベント自体を無かったことにするしか……あれ?」
イベントには私への敗北、私との戦闘から成り立っている。
「……戦闘しなかったら終わりでは?」
戦闘さえなければ、敗北さえなければ。目の前でヒロイン達のイチャイチャを見ないで済む。そこさえ乗り越えたら嫉妬の根源となるイベントには関わらなければいい。最初に考えた、学園に行かないレベルで簡単な案であるが名案な気がしてきた。
「……よし! なんとかなる気がしてきた」
髪を構うのをやめると、らしくなく大きな声が出る。なんだか気分がいい。戦争で成果を上げた時と同じ感覚だ。気分が晴れて私は今度こそ水浴びに向かう。
「義姉さん。何がなんとかなるんだ?」
突然声をかけられて反射的に吃驚して振り返る。
そこには短い茶髪をした長身の男が立っていた。「義姉さん」と呼んだ彼は私の義弟、ティムロッツ・ルチアークである。
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