第7話

 学校に入った我と葵はそのまま下駄箱に向かった。

 下駄箱に張られたクラス表を確認しにいくためだ。

 

 「えっとー、私はー、二組だって、空人は何組だった?」


 組み分け表を確認しする。

 割と早く見つかった。


 『一年一組 6番 大星空人』


 「俺は一組だ」

 「あー……違うクラスだったか、残念。じゃぁまた後でね、入学式始まる前は自分のクラスで待機みたいだから」

 「あぁ」

 「ちなみに、今日放課後何すんの?」

 「秘密」

 「ケチ、教えてくれてもいいじゃない」


 互いに自分のクラスを確認した我と葵はそれぞれ自分のクラスに向かった。


 出席番号順だから我は……窓際の一番後ろの席か……。

 自分の席に座る。

 とうとう入学式だ。

 我、実ははこの日をずっと待っていたのである。

 我は地球に転生してからというもの外出するときは大人と一緒だった。

 我の両親が我が絶望的に運が無いことを自覚している上、子供なのだから仕方ない事ではある。

 我の安全を考えての行動だと思うが、一人で外出できないのには、能力の確認やその他諸々前世の技術の確認ができないというデメリットがある。

 しかし、学校に入れば、友達と遊びに行くだとか、一人で外出する口実が出来る。

 今日の放課後は早速近所の最下級ダンジョンに向かうつもりだ。

 聞けば、我の両親もそうだが、ダンジョンを探索する探索者というのは一般人とは一線を画する能力を持っているらしい。

 木を隠すなら森の中、という奴である。

 我、頭いい。

 

 「あっお前!」

 「ん?」


 放課後の事を考えていると、突然隣の席から我に向かって大きな声が聞こえた。


 「誰だお前」

 「俺の名前は河井龍二だ!」

 「お、おう。俺は大星空人だ。で、何だ?何か用か?」

 「何か用か?じゃねぇよ!お前のせいで母ちゃんに怒られたんだよ!」


 あぁ、よく見たらコイツ、さっき我に指さして怒られて泣いてた奴だ。


 「あぁ、お前、さっき大泣きしてた奴か」

 「ばっ、おま、泣いてねぇよ!」

 「いや、二百パー泣いてただろ」

 「泣いてねぇ!」


 ていうか貴様、あれは俺のせいじゃないぞ。

 お前が我に指をさしたのが悪い。


 「いや、あれはお前が百%悪いだろ」

 「なんでだよ!」

 「おい、考えてみろ、何でお前は怒られた?」

 「お前が晴れなのに傘持ってて、俺はそれ見て変だなって思って指さして……はっ、確かに!お前全く悪いことしてねぇ!」

 

 何だコイツ。

 馬鹿だろ。

 いや、六歳児なら普通こんな感じなのか?

 葵を見慣れ過ぎて忘れていた。

 

 「そっか、じゃぁ友達になろうぜ!」


 いや、全くもって意味が分からん。


 いや……でも放課後外で遊ぶという口実づくりには友達というポジションは不可欠だ。

 葵だけでもいいが、六年間ずっとそれで通すのはさすがに無理があるだろう。

 それに忘れていたが、今日は葵に用事があると言ってしまった。

 好都合だな。


 「いいぞ」

 「マジ!やった、じゃぁ後であそ「一組のみんなー?入学式が始まるから廊下に出席番号順で並んでくださーい」あ、入学式始まるって。後でな!」

 「あぁ」


 どうやら、時間のようだ。

 我は立ち上がり、指示に従う。

 


 入学式はつつがなく進行した。

 新入生の中には寝ている奴や河井のように騒がしい奴もいたがまぁ六歳児にしては上々なのだろう。

 

 「――であるからして、第96回幸ノ谷小学校入学式を閉会します」


 お、ようやく終わったか。

 小一時間はかかったぞ。

 最初はアホみたいに騒いでた奴らも校長の長々とした話を聞くにつれて睡眠組の援軍に加わっていた。

 ちなみに我はこういうのには魔王時代の馬鹿長い会議で慣れているので眠気など一ミリも感じなかった。

 こういう長い話を聞くときに眠くならないコツがあるのだ。

 人は長話をするとき、口癖がでるものである。

 言葉の最初にくる「えー」や、この校長の「であるからして」などだ。

 これを数えていれば眠くなることはまずない。

 

 ちなみに校長の「であるからして」はこの入学式中に何と六十三回もあった。

 

 ここまで長い口癖を同じ演説で六十三回も聞いたのは何気に今回が初めてだ。

 恐ろしや校長。

 まぁ、そんなこんなで入学式は終わった。



 そして遂に来た放課後。

 葵と一緒に家に帰って、昼食を食べる。

 そして、あらかじめ決めていた通り、母さんには友達と外で遊びに行くと伝え、我はダンジョンに向かった。

 

 「ここか、最下級、Fランク。『三ッ沢ダンジョン』」


 『三ッ沢ダンジョン』。

 探索者協会が認定するダンジョンランクで最下級に位置するFランクに位置するダンジョンで、中には最弱モンスターの一角。ゴブリンしか出ないらしい。

 家の周辺の中では最も難易度の低いダンジョン。

 危険は少ない筈だ。

 能力を試すにはもってこいの場所だ。


 「それにしても、人、居なさすぎではないか?」


 驚くべきことに、このダンジョン周辺には誰一人として人が居なかった。

 前に遠見の魔眼で見た時も人が居なかったが、やはり、魔道具を掘り出し切ったダンジョンは用済みという事なのだろうか?

 

 まぁ、人に極力見られたくない我にとっては好都合だが。


 「よし、それじゃあ行くか」

 

 我は今生で初めてダンジョンに入った。

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