第6話

 「やっぱり今日も来たわねぇ、アレ」

 「そうだね、服が汚れなくてよかったよ」

 

 空からう〇こが降ってくるのはなぜか、それは我の幸運が0と、変態的な数値を誇っているからである。


 そして、転生して初めて気づいた事だが、我は転生前もちゃんと運が悪かったらしい。


 前世の我は角に小指をぶつければ角が吹き飛び、肘関節を角にぶつければこれまた角が吹き飛び、雷や落石に巻き込まれようがダメージはほぼ0だったのでこれが不幸によるものだとは気づかなかったのである。

 しかし今の我は角に小指をぶつければ重傷を負い、肘を角にぶつけても重傷を負う。雷や落石で無傷なのは変わらないが。

 

 本来なら小指と肘が軽傷、もしくは無傷で、雷が重症だろうが我の場合は違う。

 これらの違いは『地球人Lv1000』が発動するか否かである。

 小指と肘をぶつけた場合、我が、我を攻撃した。という判定になるらしく、『地球人Lv1000』が発動する。

 しかし、雷や落石は完全に自然災害である為、『地球人Lv1000』は発動しない。といった具合だ。


 まぁ、そんなわけで、『地球人Lv1000』が発動する自傷系の不幸に対して我は細心の注意を払いながら生活していた。

 

 そうしたら何故か、う〇こが降ってくるようになったのである。

 

 何の脈絡もないが、実際にそうなのだ。

 

 三回外出すれば、三回はう〇こが降って来る。

 それを知っているから母さんは我に傘を持っていくことを勧めたのだ。

 

 そんなことを考えていると、後ろのほうから声が聞こえてきた。

 

 「おはようございます大星さん」

 「空人、おはよ」

 「あら天道さんこんにちは」

 「おー葵、おはよう」


 振り返りながら返事をする。

 振り返った先には我の見知ったかわいらしい顔つきの少女が居た。

 彼女の名前は天道葵。

 我の幼馴染である。

 

 「とうとう入学式ね」

 「そうだな」

 「クラス同じだといいわね」

 「そうだな」

 「今日放課後暇?」

 「いや、今日は暇じゃない」

 「……そっか」


 こちら側の世界の言葉を習得するために彼女と話していたらいつの間にかいつも一緒にいるようになっていた。

 そして、いつも中身が大人の我と一緒にいた影響か彼女の精神年齢は他の六歳児より遥かに高い。

 おおよそ実年齢プラス十歳程度だと考えている。

 あっちの世界では魔族だったが人間で言うところの王族に分類される存在だったので、葵のような幼馴染と呼べる人間はいなかったので新鮮である。


 「空人、どーしたの?ぼーっとして。阿呆みたいよ?」


 そして毒舌である。

 

 「その毒舌、直せとはいわないが小学校じゃ控えた方がいいぞ。今はまだ大丈夫だろうが、そのうち周りの精神が成熟してくると煙たがられることになるかもしれない」

 「なんで?別にそういうのどうでもいいんだけどー」

 「いいから辞めておけ」


 周りを顧みない振る舞いというのは他を圧倒する強き者か何があっても揺るがない精神力を持っている持っている者の特権だ。

 そのどちらでも無い者がその様な振る舞いをすれば少なくとも良いことにはならないだろう。

 そして葵はまず他を圧倒する強者でもないし、そこまでの精神力を持っているとも思えない。

 葵は精神年齢は高いがそこら辺の事が分かっていない。

 この我でさえこの世界では我を押し通せないのだ。

 

 「空人がそこまで言うんだったら……」


 納得しないまでも聞いてくれたようだ。


 「キミたち、なんて話してんのさ……」

 

 そんな普通小学校入学前の六歳児がしないような話をしていると、後ろで世間話をしていた葵の母、天道涼香に話しかけられた。


 「そうだ空人、この前スマホほ買ってあげたでしょ?連絡先交換したら?葵ちゃんもスマホ買ってもらったみたいだし」


 母さんがカバンの中から黒いカバーに入った鉄の箱を出し、我に手渡してくる。

 確か、「すまーとふぉん」。

 確か先週の週末、父さんが探索者の遠征から帰って来た時に買ってもらった。

 確か「空人、お前絶望的に運悪いからこれ持っとけ!」って言われた。父さんに。

 

 でも我、操作方法が全くわからん。

 「れんらくさき」ってどうやって交換するんだ?

 説明書を読んでも全く意味がわからなかった。


 「どーせ操作方法分からないんでしょ、借して?」

 「あ、あぁ」


 何でわかるんだ?


 「なんでわかるんだ?」

 「顔に出てる。っていうか空人ってテレビのチャンネル切り替えすらまともにできないじゃん」


 そう言いつつ、葵の指は、ものすごいスピードで「すまーとふぉん」の画面上を跳ねていく。

 でも確かに、我は前世になかった類の技術に疎い。

 知らないままだといつか足をすくわれることになるかもしれない。


 「はい、終了。これが連絡先ね」


 そう言って、数字やら、「あるふぁべっと」の羅列が浮かんだ画面を向けてくる。

 ほぅ、これが「れんらくさき」か、覚えておこう。

 

 「あ、あぁ。ありがとう」

 「どういたしまして。もう、ちゃんと操作方法位覚えときなよ?簡単なんだから」

 「あ、あぁ。お、小学校見えてきたぞ!」

 「あ、話逸らした」


 逸らしてない。

 

 「「行ってらっしゃーい」」

 「「いってきます」」


 我と葵は、『入学式』と書かれた看板が立てかけられた校門へ向って歩みを早めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る