第65話 「3.蜃気楼の街」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー富山県魚津編❸

 

 張り込みをして4日が経過していた。


 ビジネスホテルにのツインに泊まり、水族館の開館時間の9時30分になると入口が見える駐車場で張り込み担当と、水族館の中で巡回する担当に分担して、張り付いた。実に地道な作業が続いていた。楽しみは食事とおやつである。


 朝夜は、コンビニで済ませたが、昼食だけは、交代で車を走らせて近隣のグルメを満喫した。僕は素朴な透き通ったスープの醤油ラーメンの美味しい店を見つけて通っていた。  

 桃介はますの押し寿司を好んで食べていた。郷里の上越市に居た時には俺もよく食べた味になる。

 夜はかまぼこをつまみに、ほどほどに晩酌をする。桃介は欠かさずプリンとヨーグルトを二人分買ってきた。そんな生活である。


 


 張り込み4日目の水曜日。目撃証言を遂に得た。60代と思ぼしき男性である。


 「わいは、年パスあるから、何回も来とるからね。このひとね、2回は見たっちゃあ。」

 

 「えっ!?この写真の人を見ましたか?」


 「嘘やないっちゃ。ほんとやちが。水槽すいそうみて、ちんとしとったっちゃ。気になる雰囲気だったろー。」


 「えっと…チンとするってどういう意味ですか?」


 「あ。ちんとするはちんとするだよお。」


 「はは。なるほど(電子レンジをチンとしたわけではないよなあ。後で調べたところによると、じっとするの意味だった。)」




 それからまた、三日目だ。朝方に雨が降ったがやんだ。風はあるものの快晴だった。雲が流れる土曜の昼過ぎである。

 

 プルル、プルル、プルル、プルル、ガチャ


 「桃介どうした?」


 「ウミガメ水槽前!!大知さんです。」


 「わ、わかった…。住まいに戻るまで尾行だ。近くだろう。見失うなよ。し、慎重に。」

 大知は、じっくりとその後、館内を回った。それから出口付近のお土産屋で、水族館の色とりどりの缶バッチを眺めていた。

 そしてようやく、外にでた。ゆっくりと歩き出す。


 15分ほど歩くと広い河原にでた。海の匂い。塩の香りがする。早月川の河口である。川は、魚津港につながる海でもある。 


 大知は立ち尽くして、遠い海の向こうを静かに見つめている。


 少し離れた所で大知さんを僕らは見ている。桃介と二人で会話をしているように見せて視線を合わせないようにしていた。


 大知の視線の先を見ると、遠くに発電所らしきタワーのようなものが見えた。


 何かタワーがブルブルと歪んで見える。絵で書いたみたいにタワーの輪郭が何かゲジゲジと歪んでいた。


 「あらっ。これって、蜃気楼かな?!」

 

 「○○○ですよ。」

  大知さんが振り返って、僕らを見つめ何かを言ったのが分かった。完全にこちらを見て何か言っている。僕らは、近づいていく。 

 大知さんは逃げなかった。目の前の大知さんとついに僕らは初の対面になる。

 

 「蜃気楼ですよ。探偵さん。」

 肌は色白い。少し上気を帯び頬が紅潮していた。

 

 「そうなんですね、あれが小学生の時にあなたが見た蜃気楼なんですよね。」僕が返す。


 「そう。豊ちゃんと見た蜃気楼です。そして思い出の水族館なんです。」


 「つけて居たのわかってたんですね。」

 桃介が言う。

 

 「はじめまして。高木大知です。私が彩花の夫です。」

 ついに僕らは会えたのだ。身体が震えていた。


 「…やはり、いつかは突き止められるだろうって思っては、いたんですよ。」




 会話続く。



  



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