第64話 「2.高速道路と魚津水族館」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー富山県魚津編❷


 駐車場は、大塚の探偵事務所から少し離れた辺鄙な場所にある。地域の民家が何となく安い賃料で貸してくれているような、忘れられたような空き地である。


 僕らは、朝一番に、事務所を出発した。新幹線は高くつくし、地方では車が無いと利便性が悪い。移動手段を、僕の白い軽自動車に変えて、富山県魚津市に向かったのである。


 首都高池袋線から関越自動車道に入り、さらに上信越自動車道に入る。真っ直ぐな道をひたすらアクセルを踏む。周りの景色はガードレールに囲まれあまり見えない。退屈であるが、しかしスピードで軽自動車は危うげにブルブルと震えていた。


 見えるのはどこまでも続く道、両脇に見え隠れする森、そして高い高い空である。希望に向かって、僕らは走り続けた。音楽は名曲「希望の轍」をかける。気分は高揚するのである。「go nna run for today(今日も頑張るぞ)oh〜♪oh〜♪」



 「桃介、運転かわろうか?」


 「いや、いいっすよ。木村さんは運転やばいっすからね。」


 「うむ。全く否定しない。自己紹介ならぬ、事故紹介に事欠かないからな。桃介頼むよ。休憩しながら、行こう。」


 「はい。しかし腹減りましたね。」


 「あ。そう言えば、事務所出る時に、隣のビルの眞弓さんが人形焼をくれたんだよ。」


 「へー。浅草の方でしたっけ。」


 「うーん。知らん。観光じゃないの。いつも頂いてばかりで申し訳ないから富山県のお土産を買わないとな。桃介も覚えといて。」


 「はい。モグモグ。うまい。やはり、こし餡美味いっすね。」


 「ふむふむ、カステラとこし餡か。実にシンプルでいさぎよい…。僕はしかし粒派だなあ。」 





 魚津ICを降り、魚津水族館に到着したのは、昼過ぎだった。

 「〜北アルプスの渓流から日本海の深海まで〜魚津うおづ水族館」パンフレットには、このように記載されていた。富山県には水族館が一つしかない。また魚津水族館は大正2年から100年以上続く「日本で最古の水族館」なのである。

 水族館2階が受付になっていた。僕らは、連日張り込みで通うのを覚悟して「年間パスポート」を受付で2枚買ったのである。


 僕らは、それから5日、水族館を毎日、巡回した。実に素晴らしい水族館である。歴史を重ねて存在してきた理由がわかる。バラエティに富んでいるし、展示に創意工夫が見える。

 春は、富山湾でのホタルイカの収穫時期だが、その時期には発光するホタルイカと触れ合う体験イベントがあり、名物のようである。

 

 僕は2階の入口すぐにある「富山の河川コーナー」が大好きになった。イワナなどの川魚が非常に美しい。スイスイと水槽を泳ぐ魚は実に清々しかった。またアザラシが実に癒やしである。目を閉じて可愛らしく静かに浮かんでいる。飽きないのである。


 また、コロナで制限はあるもののショータイムも充実していて、昼過ぎに行われる「富山湾大水槽御食事タイム」は、桃介が気に入って見入っていた。

 カツオなどは実にまるまるとしていて存在感があるし、エイは優雅にかわいい顔を見せながら泳いでいた。ウミガメも大迫力である。


 海、川、実に自然は、神秘でありロマンであり魅惑的である。このような海や川の自然、生物に思いを寄せる人々が集まっている。

 高木大知が憧れるのも良く理解できるような気がする日々だったのである。



 





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