第62話 「13.僕・吉田と、哲さん」


 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー京都編・再開⑬


 僕と波奈ちゃんは、15時ちょうどに京都駅に着いた。(主語は、吉田桃介)


 波奈ちゃんは、ルンルンでついてきてくれた。僕は嬉しかったのである。

 波奈ちゃんの話をする。松下波奈まつしたはなちゃんは、都内4大卒の26歳の看護師である。北海道生まれのボーイッシュで、一見クールそうに見えて、うちに秘めたる正義感が強い、熱いハートの美人さんなのです。

 

 出会ったきっかけは、僕の客としてついていた、酒のめっぽう強い春山君子先生が、ある日、同じ病院で働く女性スタッフを大量に引き連れてホストクラブにやってきたことに始まる。

 その中に彼女がいたんすね。春山先生には、まだ波奈ちゃんと僕が付き合い始めたことを教えていない。話すと怒り狂いそうな予感がするから。

 しかし、最近、春山先生は僕より塾講師兼ホストの正和君がお気に入りになりつつあり、僕の心配は、杞憂きゆうかもしれない。


 哲さんとの約束は、19時00分に、駅前の喫茶店である。


 僕らは、空いた時間で、京都タワー展望台に登り、京都の街を眺めてから、タワー内の、おばんざい屋に入った。

 なんとなくチョイスしたのは次の料理です。筑前煮、生湯葉、万願寺唐辛子とじゃこの炊いたん、大根とカニ餡かけ。

 

 「湯葉ってお豆腐ですよね?」


 「僕も余り知りません。う〜ん、不思議な食感。表面がツルってしてるけど、味はお豆腐なんだなあ。」


 「私、筑前煮、大好きです!煮物、普段作らないから、外で食べれて嬉しいぃ〜。」


 「煮物は簡単だけどなあ。この炊いたんってなんだろ。炊くっていう意味ですかね。」


 「ググッてみますね……。炊いたんって煮るって意味みたいですよ。」


 「ははあ、煮物かあ。波奈ちゃんは、餡かけすきなんだよね。」

 

 「うん!美味しい。」




 19時に駅前の「茶の湯カフェ銀河」で、僕らは、本条哲さんに会った。 

 本条哲さんは、現在、京都市内の小料理店で働く45歳。妻と1男1女。髪は、スポーツ刈りみたいなツンツンヘアー、落ち着いた雰囲気の男性だった。

 テーブルには珈琲が3っつ置かれている。

 「はじめまして、東京の大塚にある探偵事務所の吉田桃介です。こちらは助手の松下です。」

 僕は静かに話しだす。


 「本来、約束していた木村が来れず申し訳ありません。代表の木村が熱発ねっぱつしたので、私が代理で東京から来ました。私は、木村の私立高校時代の教え子で、病棟看護師を4年した経験があります。探偵は、3年目です。」


 「なるほど。」


 「経験は、浅いけれど、命を扱う医療従事者のはしくれです。探偵もまた、命は扱わないまでも、人の人生にかかわる重要な仕事だと思うんです。」 

 

 「確かに。」

 

 「木村から、電話で説明させて頂いた通り、哲さんもご存知の豊彦さんの、幼なじみだった高木大知さんという方が、行方不明なんです。」 

 

 「豊彦の友達…。」   


 「私はなんとしても、高木大知さんを見つけて、奥様にまたあわせてあげたいんです。多分もし、豊彦さんが生きていたなら、同じ思いではないでしょうか。」


 「……。」


 「お願いです。ぼくらを信頼して、本条さんの知る限りの事を、お話いただけないでしょうか?疑問点など何でもご質間ください。」


 「……はははは。」


 「はい??」


 「いや、笑ってすみませんでした。あなたは実に、誠実だね。人柄の良さが滲みでているよ。わかりました。京都まではるばるお疲れ様。何でも聞いてください。僕もね、若い頃に料理人を一度やめて仕事を転々としたんだよ。サラリーマンをやったし、実は少しだけ探偵業もしていたことがあるんだよ。探偵業の気持ちだって少しは、わかるよ。結局は料理の道に戻ったけどね。」

 

 「探偵ですか?先輩だったんですね、ありがとうございます!では、遠慮なく。そうだなあ。中村一家が居なくなった時はどんな風に?」


 「あの日はねえ、出勤したら、誰も居なくて。夜のうちにたたんで逃げたんですね。給与は律儀に2ヶ月分ぴったり調理台に置いてありました。うすうす感じていたし特には驚きませんでした。しかし、重彦さんも大変だったでしょうね。」


 「……ですか……そしたら重彦さんの息子の豊彦とよひこさんとは、生前は、どんな関わりでしたか?」


 「彼とは、みっつ違いですからね。すぐに仲良くなりました。面白い子でしたね。本をよく読んでましたね。」


 「本の話をしましたか?」


 「本っていうかね、『日本の集団心理は良くない。日本人はみんな同じじゃなきゃいけないと思っているからオカシイ』とかよく怒ってましたね。」


 「なるほどお。お父さんの重彦さんは金沢で精神疾患になったとか、豊彦さんもデリケートな性格だったと聞いています。人間関係で悩まれたからなのでしょうね。」

 

 「あんまり京都に来るまでの話は深く聞いたことなかったですけどね。」


 「プライベートでお付き合いは、ありましたか?」


 「はいはい。もちろんです。あいつは兎に角、魚が好きでした。焼き魚、刺し身、そう、にしん蕎麦が大好物でした。」


 「はあ。」 


 「京都では年越しソバに、にしん蕎麦を食べますよ。」


 「へー。初めて聞きました。」

 

 「私も蕎麦大好きです。」

 波奈ちゃんが、いきなり口をひらいた。


 「あの~、本条さん、豊彦さんが、豊彦さんのお友達と行った『思い出に残るような場所』ってわかりませんか?」 

 波奈ちゃんが突如、核心を突いた。


 「あ、僕も、それをいま聞くとこだったんだよ〜、波奈ちゃん。」

 僕はなかなか聞きたい事をストレートに聞けないタイプなんだが、今回もそうだった。


 「えっ、はっ。な。いや。聞いたことあるな。」僕らは固唾かたずをのみ見つめる。


 「豊彦は、金沢に居たときに、友達と行った富山県の水族館が楽しかったって。なんでも友人家族と歩いていたら、海岸で、蜃気楼しんきろうを見たとかって。」


 「大知さんだ!」

 僕らは、飛び跳ねた。波奈ちゃんナイスぅ〜。


 は熟した。僕は遂に、高木大知さんの中村豊彦さんとの思い出の場所を突き止めたのである。多分。

 僕らは興奮していた。


 


 此処は京都、僕は探偵助手であり、看護師である。

 僕だって、優しいし、やるときはやる探偵だ。

 

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