第60話「5.勇悟郎君はリーダー」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー金沢編❺




 香と別れた僕らは、金沢駅前の格安のビジネスホテルのツインで泊まり、朝を迎えた。

 朝、窓を開けると澄んだ冷たい空気が部屋に入ってくる。快晴だ。少し風が吹いていた。

 僕は、香に聞いた勇悟郎さんの自宅の床屋に朝一番で電話をした。お母さんが電話に出て、勇悟郎さんは父親と漁に出るから、夜の19時くらいに来てほしいとのことだった。僕は軽く一通りお母さんに趣旨を説明したのである。


 夜、主計町茶屋街にバスで向かった。主計町茶屋街は、明治時代から続く歴史ある情緒的な町並みで景観に圧倒される。

 少し路地を入ったところの目的の床屋に着くと「西美容室」の看板あり。独特のうねうね回る機械が店先にあり、しかし灯りは消えていた。小綺麗で、こじんまりした美容院だった。(正確には美容院)カット3500 円、パーマ8000円から、そんな色とりどりの文字が貼られている。

 

 勇悟郎さんとお母様がすぐ出迎えてくれた。

お母さんの話では、小学生時代まで高木大知の小学校と同じ学区に、美容院を構えていたそうで、その時代に大知と豊彦と接点があったようである。勇吾郎さんが中学進学と同時に主計町茶屋街に転居したとか。


 勇悟郎さんは、中学からバスケの実力が開花、全国レベルになり、高校、大学と活躍して大手プロチームに所属。結婚。順風満帆に選手生活を送り、38歳で引退。現在は、都内から実家に移り住み、父親の漁業を手伝っているとの話だった。 


 「お疲れのところ、お時間とらせてすみません。漁は今くらいの時間に終わるんですか?」


 「漁は朝6時〜夕方16時くらいですかねえ。それから片付けてまた明日の準備して。」


 「ははあ。(俺)」


 「今は何がとれるんすか?(桃介)」


 「今はひらめ、あかむつとか。」


 「へー。漁業ってどんなとこが1番大変なんすか?(桃介)」


 「漁が無い時期かなあ。1年で、取れる時期が決まってますからね、シケが来るととれないとかいろんな条件がある。捕れない。漁が無い。それが辛い。それは親父もいいますよねえ。」


 「う〜ん。なるほど。《シケってなんだろ。全然意味がよくわからない。専門分野わからん。》」


 「パパ、ご飯できたよ〜♪」

 奥から、にっこり笑顔、少し丸顔の綺麗な女性が顔を出した。奥様のようである。


 「あ、今日は何?先に食べてて。」


 「オムライスだよ。あっ、こんばんわ〜。」

               (奥様)

 「あ、すいませんお邪魔してます。」

  

 「僕、オムライスが好きなんですよねえ。」

 照れくさそうに悟吾郎さんが言う。

 

 「そうですか。私も卵大好きです。」


一一一一一一


 「で、ですね、大知さんの行方を突き止めるためにですね、大知君と豊彦君について、知っていることを何でも教えて欲しいんです。」


 「大知はねえ。イジメられてましたね。4年生の時。新学期。6年生で当時に札付きの不良が2人居たんですよ。石橋いしばし森山もりやま。石橋は、目が鋭くて今にも切れそうに殺気立っていたし、森山はすぐに手が出るタイプでした。」


 「大知さんは、どんな事をされてたんですか?」


 「使い走りとか、金を持ってこいとか命令されたりとか、付きまとわれてました。」


 「えっと、大知、豊彦、勇悟郎さんの関係は?」


 「僕と大知と豊彦と3人は同じクラスメイトで、僕は学級委員でした。」


 「豊彦さんはどんな風にいじめを見ていたんですか?」


 「一度、休憩時間に僕らのクラスに石橋と森山が、大知にちょっかいだしに入ってきた来たことがありました。」


 「ほう。」


 「そしたら豊彦が『お前ら俺の友達に手を出したら承知しねえぞ』って酷い剣幕で追い返したんです。豊彦はそんな子です。」


 「はあ。豊彦さんはおとなしいタイプかと思ってましたが。」


 「豊彦は一匹オオカミタイプで、静かだけど、ここぞという時には頑として意思を通すような少年でした。」


 「えっと、大知さんは、優等生タイプっぽいのに、なんで、いじめられるんだろう。」桃介が素朴な疑問を挟む。


 「そうそう、逆に優等生だから、目立つんじゃないかなあ。大知は友達が多くて明るくて、みんなに好かれるタイプですよ。豊彦はある意味は難しい子かなあ。」


 「大知と豊彦と旅行に行かれたことはないですか?」


 「う〜ん。大知とはあるけど、豊彦はないかな。3人はないなあ。豊彦は大知以外とはあまり話さなかったしね。3人なら行かないんじゃないかな。」


「そうかあ。大知の奥さんの彩花さんが、『大知さんは思い出の場所にいるかもしれない』って言うんですよ。大知に思い出の場所ありませんかね?」


「うーん。そういえば!確かね、豊彦と行った場所が楽しかったって話は聞いたことありますよ!富山だったかなあ。」


「先生、情報、情報!」(桃介)


 失踪調査は、牛歩のごとく終わりに近づいているのだろうか。しかし決定的な場所がわからない。富山県の観光地を調べたりしようか、そんな事に頭を巡らせていた。

 しかし勇悟郎さんは、何か優しくて人懐っこい、初対面と思いにくいそんな印象の人だった。僕は連絡先を交換した。またいつか、ありがとう。



 此処は金沢、僕は街の優しい探偵だ。


 


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