第59話 「4.青春時代」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー金沢編➍

 


 


 


 「いらっしゃいませ。木村様ですね」


 タキシードの男性に案内される。なかなか広々とした店内とゆったりとしたソファ、何か高級クラブみたいな雰囲気である。


 「結子ゆうこさ〜ん」


 「はーい」

 黒髪で背の高い少しキリッとした顔立ちの美人が出てきた。

 「こんばんは」

 「あ、木村です。こいつ桃介。香さんに呼ばれて来ました。香さんは??」

 「香さんもうすぐ来ますよ。遅刻かなあ」

 イタズラっぽく笑う。落ち着いているようでどこかあどけなさが残る若い女性である。


 「おっまったっせえ〜!」

 透けた黒いレース柄のドレスを身体にビッタリ着こなした 香が登場する。


 「香さん、めっちゃカワイイでーす!チース」

 桃介はなぜか、たまにチャラい言葉遣いだ。


 プルルプルルプルルプルル。


 「あ、失礼。美幸からだ。出ます。はい、もしもし?あ。俺、俺、オレオレ詐欺じゃないよ。美幸からこんな夜に珍しいなあ。金沢行くと行ったよな。ど、どうした?」 


 「えー。だって男二人でしょう。桃介君と夜のキャバクラでも繰り出してんじゃないかと思ってさ」

 「あー。なるほどなあ。まさかあ……(勘が鋭いな)」


 「貸して」

 香が僕のスマホを奪った。


 「おーい!香だよ〜。み・ゆ・き!!」


 「ば。バカっ。こらっ。返しなさいよ。かおりさん、ダメよ!」


 「か、いや、美幸?美幸?大知さんのお姉様のお店なんだよな。誤解をするな。」


 「ツー、ツー、ツー」


 「ちょっと!切れちゃったじゃないか!」

 

 「なんか美幸が『誰??』って言ってたあ。ははははは」

 

 「お姉さん、冗談きつい人だな〜。俺、外でかけ直してくるよ、全く」



一一一一一一一一一



 

 暫くして店内に戻ると桃介と香が話し込んでいた。

 「何を話してたの?」


 「香さんの好きなタイプを聞いてたんすよ」


 「ふーん。桃介ではないだろな」


 「まあ、そっすね。僕も同じバスケやってんすけども残念(しょんぼり)」


 「あ、桃介はバスケ趣味だったな」


 「西勇吾郎にしゆうごろう君は、プロバスケの選手だもん。地元のスターよ。私からは後輩だったけど、中学生時代から憧れてたんだ」


 「へえ。その人、大知さんは知ってるの?」


 「あ〜。大知の同級生だけどね」


 「え?遊びに来たことある?」

 

 「あ〜。一緒にどっかの公園だったかな。行ったことあったかも。そんときは私も小さい頃だったから、意識してなかった。バスケは、してたのかな。私が知ったのわあ、勇吾郎ゆうごろう君があ、中学の時に全国大会に出たときだよ。ずっと、大学、社会人の有名人選手だよ」


 「ほう。あら?昼間にアルバムで見た背の高い子は勇吾郎さんなんでは?」


 「あっ。そうか。そうだわ。ハハハ」

  

 「彼と大知さんは仲良し?」


 「多分ね」


 「何処に住んでるの?」


 「文学館があるとこの床屋」


 「あ、ひがし茶屋街ちゃやがい?」


 「床屋さんは、主計町茶屋街かずえまちちゃやがいだよ。結婚して、プロバスケ引退して、実家にいるみたいよ」


 「えっ?地元居るの?じゃあ、行きますよ。香さんさ、それ早めにおしえてくれないんですかね。昼間にご実家に行った時とか?」


 「ごっめん。てへぺろ〜」




 「じゃあ、勇吾郎さんとの思い出がやはりあるんでしょうね、香さん。」桃介が嬉しそうに言った。




 「そうだね~。私が高校1年の時に彼が中学2年生で。私、追っかけしてたんだあ〜。カッコよくて可愛かったなあ。懐かしいね〜。いろんな事を思い出したよ。あの時は楽しかったんだよね〜。青春だよ〜」

 香は、懐かしげに、そして物憂げに、虚空を見つめるのである。


   





 まわ〜る、まわる〜よ、じだい〜はまわる。よろこび〜、悲しみ繰りかえ〜す。今日は〜わかれ〜た恋人たち〜も、生まれかわって巡りあ〜うよ〜♫

(店内には、懐かしい名曲が流れていた。僕らは一緒に自然と口ずさむのである)


 俺は何かしみじみと、今までの自分の歩いてきた道のりを振り返りながら感慨に耽り、なぜだか知らないが、涙が流れてくる。

 「なんか辛かったなあ、ここまで。(ボソリ)」


 

 「先生、あれ?なんか泣いてます?」

 桃介がニヤニヤする。

 

 「いや。」

 香を見ると香の目も潤っているのがわかった。お互いに、目が合い、笑う。


 「そうだ、勇吾郎さんに会いに行こう。」

 僕は決意を新たにしたのである。

 





 此処は金沢、俺は街の優しい探偵だ。 

 いや、泣き虫な探偵だな。






 …

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