第56話 「1.思い出の場所」

  優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー金沢編❶


 12月に入った。季節に耳を澄ますと、静かに連なる雨音が聞こえる。窓を叩く雫の音も重なる。大塚のネオンの灯りは静かに揺れる。街に暮らす人々のささやかな幸せや、小さな声をかき消すかのように、雨は降り続いていた。


 プルルプルルプルルプルル、ガチャ。

 

 「はい。木村探偵事務所です。」


 「……ご無沙汰しました。」


 「彩花さん、こんばんは。」

 時刻は、21時をさしている。

 「実は、思い出した事があるんです。」


 「…大知さんの事ですかね。どんな事でしょう。」


 「2年前の結婚式の日なんです。大知さんが言った言葉を思い出したんです。私、もっと早く思い出すべきでした。」


 「今からでも大丈夫ですよ。詳しく教えてください。」


 「改まって言われました。話があるって。実は、いつか思い出の場所に暮らしたいんだって。私の実家近くの祐天寺にマンション買ったけど、老後にでもそこに移り住めたらって。別荘とかでも良いって。」


 「ほう。かなりの思い入れですね。なんでそこまで?場所は、何処なんですか?」


 「理由までは解らなくて。詳しくは聞かなかったんですが、子供の時に行った場所みたいでした。」


 「う〜ん。とすると金沢近辺かなあ。」


 「子供の時、お父さんお母さんに、よく金沢周辺には家族旅行とかですかね、遊びに連れて行ってもらっていたみたいです。」


 「ははあ。石川県…。兼六園は近いんでしたよね。」


 「そうです、大知さんは、市内です。」


 「では、同じ金沢市内は、思い出の場所にはなりにくいですよね。とすると、同じ石川なら、能登半島とかかなあ。若しくは近辺なら富山県とか新潟県か、福井県とかかなあ。」


 「詳しくは、わかりません。」


 「他に何か言ってましたか?」


 「いつか詳しく話すからって。」


 「そうか!思い出の地に居るんではないか?!と?!」


 「そうなんです。移り住みたい位に言うんだから、今居ても、おかしくないですよね。しかも、私は場所を知らない訳ですし。」


 「なるほど!そうですよね。では、金沢行きましょうか?丁度こちらも1つ大塚の調査が片付いたところです。」

 

 「是非、お願いします。」


 「金沢は私達だけで行きますか?それとも一緒に行きたいですか?」


 「いえ。お父さん達に私は顔を合わせられません。息子さんを行方不明にしたのは、私なんですから。」


 「何を言ってるんですか。彩花さんのせいではありませんよ。自分を責めないで下さい。」


 「ええ。家の親にはお前がシッカリしてないからって言われます。」


 「う〜ん。あなたは若いのに、かなりシッカリしてますよ。ね、自分を責めたら可愛そう。自分を守ること考えましょう。できる限り力になりますよ。」


 僕は、そうなだめて彩花さんからの電話を切ったのである。


 雨は降り続けていた。誰かの叫びをかき消すように雨は続いていた。




 始りは、いつもシリアスなのである。




 はて、はじまりはいつも雨?どこかできいたような🙄





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