第54話 「9・起死回生の桃介」
桃介の猫探し(家出猫を探せ)ーーー❾
僕らは、猫探しという、一見ありきたりな平和な日常から、いきなり急転直下に死に直面していた。
「殺す」その言葉が頭の中で響いていた。
何をされてもおかしくはない。僕の命がもしここで終わりなら、運命のイタズラは、なんて残酷なんだろう。
美幸を思った。僕は君を幸せにするつもりだったんだ。君のためなら、何でもできる、頑張れる、そう思って過ごしていた。
しかし、やはり、どんな形でも、生きたい、生きて、あなたと居れたらそれだけで、いいじゃないか。
やっと掴みかけた幸せはスルリと無情に消えてしまうのか?
(長い心の会話である)
「君がため惜しからざりし命さえ長くもがなと思いけるかな。」
(君の為なら捨てても良いと思った命だが、恋が成就した今は、あなたと過ごす命が長く続いて欲しいと願うのである。)
こういう時の心情かな……。
「あの木村さん、百人一首、詠んでる場合じゃないです。(ボソッ)」
「あ。すまん。しかし捕まったの桃介のせいだからな。どうするのよ。」
周りを見ると狭い倉庫といわれた物置には、小さな小窓が1つあるだけで、身体が通り抜けられる訳もない。また、手足は縛られている。何も出来る状態ではない。助けも呼べない。絶体絶命である。
男たちが去ってしばらくの沈默。
僕は絶望に貧していたその時である。
「はははは。先生。僕には奥の手があります。」
「えっ?!」
桃介が俺にスニーカーの自分の左足を向けている。トントン。
桃介は冬なのに、膝下までの短いパンツ、ソックス、スニーカーだった。
向けられた足をじっと見た。白いソックスの上には、何故か黒い腕時計みたいな物が装着され、巻かれている。
「なによこれ?」
「電話。」
「えっ。お前さっきスマホ、俺と一緒に取られて無かった?」
「僕ホストだもん。スマホ2台持ちです。万が一の時のために、用意してたんす。うぇーい!」
「なんかチャラいな桃介。まあいいや、助かったよ。命拾いだ。お前はここぞという時に役に立つ。持つべきものはワトスン君と教え子だな。しかし、それ、かけられるのか?」
「これ、アキバで買ったんす。改造された格安便利スマホなんです。喋りかけてください。かかりますよ。話すだけでタッチなし。」
「マジで?じゃ、たかちゃんに。いや、待てよ、警察が早いか。」
「すいません。これなぜだが、改造スマホだから、公共電話と、フリーダイヤルは、かけられないんですよ。前にかからなくて。」
「ま、いいやいいや。じゃあ、たかちゃんにかけよう。いや、正和君にする?」
「2人にかけましょう。先生、足のスマホに口が届きますよね。僕は届かない。」
「わかった。まさかずに電話して。」
プルルプルルプルルプルル。
「留守番電話に連絡します(アナウンス)」
「あ、だめだ。たかちゃんに電話して。」
プルルプル、ガチャ。
「あ……桃介さん?(ムニャムニャ)………。………。」
「寝てたか。たかちゃん、すまん。今日夜勤かな。たかちゃん。落ち着いて聞いてほしい。ね。ゆっくり言うから。」
「はっ?き、木村さんですか?」
「桃介もいるけど、俺が話すから。
よく聞いて。
オレオレ詐欺集団に監禁されてる。
警察に直ぐに電話してくれないか。
このままなら殺される。
緊急事態だ。」
「はい?!詐欺?
殺される?
大変じゃないですかあああ(大声)」
「落ち着いて。ここはね、東雲さん宅の周辺だよ。南大塚○丁目には間違いない。しかし目印無い。あとは80坪、瓦屋根のお屋敷、木の塀、庭に縁側……。あ、庭に黄色い子供の長靴ある。」
「あれ?黄色い長靴?
そこ行ったことあります。
猫の声がしたから聞き込みして、訪問した家です。
庭に黄色い長靴が転がっていて、子供さんがいるんだなと思って。」
「そこ!そこだよ黄色い長靴の!!
ありがとう。
直ぐに連絡頼む。
待ってる。」
ガチャリ
ピーポ、ピーポ、ピーポ、ピーポ、ピーポ、ウウウウウウウウウウーーー。
パトカー4台がかけつけたのは、それからわずか20分の出来事だった。
警官がたちまちに僕らのロープを解いてくれた。
後から聞いたが、詐欺集団の確保も呆気なかったようだ。
外に出ると人だかりで溢れていた。住宅街にどこから人がこんなに集まっ
て来たんだろう。僕らは、喧騒の中に居た。
それから、警察官の石井さんに促されて、パトカーに乗りこむ。
「たかちゃん。」(涙目の俺)
車内にたかちゃんが居た。
「木村さん、良かった無事で。ごめんなさい、昨日大吾で僕、お金払ってないですよね、忘れました。」
「な、何を言ってんのよ!昨日は協力のお礼なんだから。弁当と同じでタダなんだよ。たかちゃんありがとう。ありがとう。君は僕らの命の恩人だよ。本当にありがとう。」
「たかちゃんナーイス!」
桃介は、ニコニコとノリが軽い。
「桃介さんご無事で。ニッコリ。」
たかちゃんが優しく微笑んだ。
此処は、大塚。俺は街の優しい探偵だ。
そして、最高の大塚の仲間が僕らにはついている!
熱く優しい仲間と共に生きる、俺はそんな街の探偵だ。
ーーーー桃介の猫探し編 完結(?)
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