第53話 「8・絶体絶命の監禁」

 桃介の猫探し(家出猫を探せ)ーーー➑


 それから10日と3日が過ぎた2週間目の金曜日。天候は曇り。時刻は16時30分を過ぎて、当たりは暗くなり始めていた。


 風雲急を告げる、その瞬間は突然にやってきた。始まりはいつも急だ。


 みちよさんの話していた黒い革ジャンの黄色のシャツの中年が現れたのである。下は黒いジーンズだった。


 僕らは、店の買い物袋を抱える男を確認すると慌てて尾行をする。


 「おい、桃介、店に電話して、今の男で間違いないか聞いて。」


 「木村さんやはりあの男でした!(コソコソ)」


 「よし、じゃあ、並んで歩こう(コソコソ)」

 「はい、ドキドキしますね(コソ)」


 15分程必死に追った、曲がり曲がった道の先の先、三業通りにやはり合流しさらに曲がりくねった道の先、いつもの小学校から然程遠くないだろう位置に、その男の向かう屋敷はあった。人目にあまりつかない場所だ。


 立派な木の塀に囲まれた木造建築の瓦屋根の家である。80坪程だろう。木の塀のつなぎ目の隙間から庭と家が見えた。

 大層な、お屋敷まではいかないが、縁側に面した庭は広く、松の木やモコモコ丸い茂みがある。木陰に隠れられそうで、庭に忍びこめそうに思える。暗くなり好都合である。


 「先生、どうしますかねえ?」


 「そうさなあ。とりあえず、誰も見てないうちに庭に忍びこんで見ようか。」


 キィー。ドアを開ける。


 ササッと2人続けて庭に忍びこんだ。

 庭に入ると縁側の前の茂みに潜り込む。

 庭は、入ってみてわかったが、手入れされている様子がなく荒れていた。何時からか放置されたのだろう。

 また、子供用の小さな黄色の長靴がちょこんと1つだけ無造作に転がっていた。

 しばらく何をするわけもなく待った。様子を伺って、二人でじっとしていた。


 「あ、桃介、静かに!開くぞ。」

 カラカラカラカラ。


 「空気でも入れ替えっかい。」アイツだ。

 縁側のガラス戸が開き、カーテンの向こうの室内が見えた。畳の部屋だ。中には電話のコールが複数に鳴っている。

 なんだろうか。

 「俺だよ。オレオレ!オレだって!」

 そんな声が聞こえた。


 (オレオレ詐欺!?!?)

  僕らは、顔を見合わせた。

 (これは、やばい……。)


  ニャ~ン。ゴロゴロゴロゴロ。


 「あっ………。」僕らはさらに言葉を止める。

 居たのだ。チャコちゃんだ、間違いない。緑の首輪だ。その時だった。

 「ブーー。あっ。」


 (?!?!)


 「誰だ?誰かおるんか!!」


 凄まじい勢いで男が叫んだ。

 ニャー、ニャー、ニャー、ニャー。

 「バカバカバカバカバカ。お前、今、おならした?(小声)」


 「ごめんなさ。」


 「そこに居るのか?オイ、誰や?」


 観念して僕らは逃げようと、門に向かい駆け出そうとしたその時である。

 キィー、バタン。

 入ってくる男性。

 「おい。トオル!そいつら捕まえろ!!」


 入口、そこには、巨人が居た。


 「あっ?!なんだ?!」巨人が狼狽うろたえる。

 僕らは、思いっきり、体当たりした。


 「おおう。」

 ガシッ、ドン。バタッ。


 ガシッが僕の体当たりの音、簡単に手で止められる。ドンは桃介が跳ね返った音。桃介は、突き飛ばされて倒れた。

 

 僕らは、捕まってしまった。

 


 「おいおい〜〜!!何故捕まえるんだよ。住居侵入罪か?警察呼べよ。大丈夫だぞ、僕らは。」


 「おい、お前ら。一体、何をしてたんだ?」


  僕らは顔を見合わせた。


 「桃介、正直に言うか。」

 「はあ。」

 「僕らは、飼い主さんに依頼されて迷い猫を探して居ただけですよ。」桃介が先に言う。

 「そうなんだ。素直に尋ねて理由を話して、猫を返して貰えば良かったんだ。すみませんでした。猫を返してくれないか。それだけでいいんだ。」


 「は?猫?お前ら見たよな?おおう、どうなんだよ。正直に言わないと殺す。」

 

 「ハイハイ見ましたよ。大丈夫っすよ。猫には関係ないっすから。」桃介が開き直り、認めてしまった。

 

 「吉田君?君は馬鹿なのか?なぜ『見た』と言う必要がある?バカバカバカ。」僕は涙声で小さく言う。


 「だって。」


 「だって?だってだって、だってだってなんだもん、キューティーハニーか、バカタレ〜!!」

 僕は、桃介に呆れた。


 「コイツは馬鹿なんですみません。僕らはですね、全く持って、なんにも見てません。今入ったばっかりだもん〜。何も知らんよ、知るわけがないのよ、僕らは。」


 「ふふっ。やっぱりな……。」

 黒ジャケットの中年男は呟くと僕らを交互に見ながら、静かに考えているようだった。

 

 「トオル、コイツら倉庫入れとけや。親父に相談してからだ。まだ何もするなよ。こっちは足が着いたらオシマイなんだからな。」


 「押忍。」

 トオルと呼ばれた巨人は、律儀に小さく頷くと、僕らを1人1人、手足をロープで縛り付けた。そうこうするうちに、ぞろぞろと男たちが庭に集まり出してきた。


 みんな合わせて1、2、3、4人、5人。懐中電灯を手にしている男もいる。顔を照らされた。眩しい。

 桃介も、僕もぐったりしていた。


 彼らのうちの4人が、2人1組になり協力して、僕と桃介の、頭と足をそれぞれ持ち上げて、重要な荷物を持つように、僕らはお屋敷の奥の1室に、運ばれたのである。


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