第51話 「6・朝まで焼き鳥大吾」

 桃介の猫探し(家出猫を探せ)ーーー➏


 翌日、美幸のアパートの窓から外を眺めると朝から雨が静かに降っていた。灰色の雲と空。何か不安げな空気が充満するような朝だった。朝晩の寒暖差が近頃さらに激しく寒々しいのである。

 昨日、2週間の捜索調査を終えた僕は、東雲さんのガラホに朝の7時30分に電話した。高齢者は早起きである。

 

 「さいですか。脈があるなら、じゃあ、あと1週間だけお願いします。すいませんね。本当に木村さん、吉田さんには感謝しますよ。ありがとねえ。確かに誰かのとこに居るかもしれないわねえ。」

 ガチャリ、ツー、ツー、ツー。



 昨日の僕らの焼き鳥大吾での論議はこうだ。集まったのは、たかちゃん、たかちゃんの働くコンビニの新人店員の瞳ちゃん、俺、桃介、桃介のホスト仲間の正和くんの5人である。吉田ヒカルは来なかった。

 キイチは、相変わらずうるさかった。

 

 「れ〜い!美幸どうした?」


 「キイチ、お前が呼び捨てにするな!呼び捨てするのは俺だけなのな。」


 「お前さ、友達意外と多いよな。大学時代は大人しかったのにな。木村が東京ドームでサークルの後輩とデートしてて、練習のホームランボールがお前に直撃した話は、チョー笑えたよなあ。」

 

 「う〜ん。谷繁だ。懐かしい話を。」


 「へ〜。ホームランボールが当たるなんて木村さん、レアですね。ラッキー。谷繁はパワーヒッターですよね。」

 桃介がニヤニヤしながら言う。


 「どこがよ。まあなあ。あの後に、痛みをこらえて俺は、有名S投手にサイン色紙を外野席から紐を吊るしてグランドに下ろして書いて貰ったんだよ。昔はありの作戦だった。彼女にサイン色紙をあげたら喜んでたよ。」


 


 本題である。酔いが回ってきた時に正和君が言った。

 「桃介さん、猫が迷い込んで帰って来ないなんて、普通はないんですよね。」


 「おい、正和君、どういう意味?」


 「いや、木村さん、ボカあ猫を飼ってましたから。いつも居なくなるけど、必ず翌日には戻りましたよ、帰巣本能があるから。」


 「さすがホスト兼、塾講師だね。」

 桃介が正和君を褒め称えた。


 「だからですよ、詰まりは、誰かが捕まえて拉致しちゃったんですよ!それしかないですって。」鼻息荒く正和君が、ビールジョッキ6杯目を飲み干して言った。


 「正和君、飲みすぎじゃないか?ビール3杯以上は自己負担してくれよな。ホストは稼いでるんだろうし。」


 「そうなんですかねえ。僕は難しい話はわからないです。」

 たかちゃんが生搾りグレープフルーツサワーのコップの氷をカラカラ言わせながら呟いた。

 

 「木村さん、やっぱりね、それだと思うわ!うん。私、わかるわ!わたし、わかるの!」

 何故か、同僚たかちゃんの隣ではなく、僕の右隣に座っていた小麦色肌の健康美人の瞳ちゃんが至近距離から、ハーハー息を荒らげながら、何故にそんな自信満々なのか謎でしかないが、いきなり言い放った。

 

 「そ。そうなの?つうか、瞳ちゃん近くない?普通は、そんな近くからレディは話さないぞ。距離感ね、ね。」


 「瞳さんが言うとそんな気に思えてきますよね。」たかちゃんが言う。


 「そっすね、そしたら、連れ去った人をどうやって探すかですよ!!」

 ガチャン。烏龍茶のコップを強く置いてから、桃介がいつになくやる気を出す発言をする。なにしろ話を持ってきた桃介が最初から実は、何故かやる気ゼロだったのである。

 

 「桃介さん、でも聞き込みは、意味なかったじゃないですか?」

 正和君がもっともな事を言う。


 「そうなんだよ、ビラも反応ないし。困ったなあ。俺はもう疲れたよ、わからん。」俺は頭を抱える。

 

 「諦めちゃ駄目ですよ先生。直ぐに諦めるんだから。」

 桃介がじんわりと俺を責めてくる。


 「バカ!お前なんて最初から、やる気がないだろ。俺は全力一生懸命だから、消耗が激しいのだよ、他者理解ないなあ、全く。」


「木村さんね、私思うんだけど(瞳ちゃんが小声になりながら言う)私ね、最近に猫を飼い始めた人が怪しいと思うの。ペットショップに餌を買いに来るようになった人とか。」

 また、瞳ちゃんが俺を見つめながら、さらに至近距離で言うのである。

 (さっき近いと言ったのになあ、瞳ちゃんの口と、俺の口が5センチくらいしか距離が無い。美幸が見たら俺は引っ叩かれるだろう。しかし素直な僕は、無理には拒まないのである。謎な美人だな。)

 

 「ほ、ほう。ペットショップねえ…。」

 

 「先生、南口の郵便局の大通り沿いに大きなペットショップありますよね?」


 「あ、あそこの店長知ってるか。あと店員でみかんちゃんって居たよね。」


「北口にもありますよ。」正和君が言った。


 こんな風に話をしながら、方向性が少し変わり、脈もあるかもしれない話を東雲さんにしたわけである。

 

 


一一翌朝の美幸のアパートである。


 「ねえ美幸〜!ご飯食べよう。目玉焼きと

トースト焼けたよ。おきなさいよ。」


 「れいさん、あと5分。」


 


 俺は街の優しい探偵だ。そして美幸に恋する探偵である。

 チャラらららーん🙄






 

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