第50話 「5・黄昏の南大塚」
◆桃介の猫探し(家出猫を探せ)ーーー❺
夕焼けに染まる黄昏の時刻、真っ暗くなる一歩手前、喫茶店近くの空き地に僕は到着する。
猫の集まる場所をもう5箇所は、見つけていて、これが6つ目だった。
草が程よく生い茂り、何層も鉄材が積まれている。灰色のコンクリート土管が4つある。土管は四角い形の土管が3列で、2段ずつに積まれていた。何に使うのだろうなあ。
野良猫が4匹いた。
「にゃー、にゃー、にゃー。」
何匹かが、僕に気づいて静かに鳴く。
《鐘は鳴くなり法隆寺、あ、猫が鳴くなり大塚空き地か。》
特には、アメリカンショートヘアらしき猫はいないように見える。黒、白、三毛、灰色かな。
「あっ。」
3匹は、ササッと逃げてしまう。
「だよなあ…。」
僕は、残った黒い猫を見つめながら、鮭カンを開けると、指で、缶の横を「カンカン」と音を出して叩きながら、しゃがんだ。
すると、積まれた鉄材の前に寝そべっていた、黒い猫が近づいてくる。
「ニャ~ン。ニャ~ン。」
「よしよし。食べていいよ。黒猫ちゃん。」
「………ニャー、ニャー………。」
ややややや。何処からか、今度は、高い猫の鳴き声である。
高めの猫の鳴き声が聞こえるやいなや、3列ある真ん中の土管の影から、スルスルっとアメリカンショートヘアが、飛び出して来た。
僕は、驚いた。だいたい、そもそも野良猫の中に、アメリカンショートヘアは未だ見かけたことがない。だからアメリカンショートヘア発見は、多分初めてなのである。
目の前には、鮭缶を泣きながら、食べる黒い猫と、アメリカンショートヘアである。忙しい。アメリカンショートヘアを見る。
首輪ないな。尻尾はきれいだな。傷はない。
「だよね、違うかあ。」
悲しく呟いた。
僕は諦めて、缶をおいたまま、その場を去る。
黄昏の空は、いつの間にか、日が落ちて暗くなっていた。とぼとぼと事務所まで、遠い道のりを歩く。
「おっと。小学校に自転車取りにいかないと。」
そうだ、僕は事務所から自転車で来たのである。自転車を忘れて帰る所ではないか、バカである。こういう事は、しょっちゅうある。俺は忘れ物や、落とし物が多い人間なのである。
例えば、考えたら、財布は人生で3回落とした。2回は帰ってきたが、1回は渋谷の繁華街で落としたからさすがに戻らず。しかし1回は野球場で落としたが案内所に届けられたし、1回は自宅アパート前に落としたら、近所の人が部屋に届けてくれた。そう考えたら、日本は実に、真面目な国だ。
詰まらない話だが、落とし物をネコババすると「占有離脱物横領罪」になるのだ。
そんな事は誰も知らなくても、皆、しっかり届ける。
「占有」とは身体にくっついていたら、占有である。占有しているものを奪うから横領罪になるが、離脱したものを取っても、横領罪になるのが「占有離脱物横領罪」である、多分。
兎に角、俺は忘れ物がやたら多い探偵である。
注意力散漫で、集中していなくて、スイッチ切れると駄目なのだ。ビニール傘なんて持つと、必ず何処かに忘れる自信があるのである。こんな詰まらない説明を23行もした、失礼。
「プルルルルルルル。プルルルルルル。」
「はい。木村で、は、はい、もしもし、たかちゃん?」
「木村さん、だめっす。木村さんに言われた地図の猫の広場を5箇所見ましたけど、居ませんでした。聞き込みもゼロです。」
「すまんなあ。ありがとう。もう2週間経ったからな。東雲さんに継続するか、聞いてみてだな、後は、ちょっと反省会をしよう。報告書を作らないと。」
「今日、たかちゃんこれから、空いてる?」
「はあ。」
「じゃあ、桃介、正和君は来るし、確かヒカルも別のバイトを昼にして、今日は休みだ。皆で焼き鳥大吾に集まって軽く反省会と、意見交換だな。じゃあ、何時にする?」
「もうお腹空きましたね。」
「じゃあ、ソッコー行こう。僕が、桃介と、正和と、ヒカルに電話しとくよ。じゃあ18時に店で。あ、でも、僕は、余り遅くは飲まないよ。美幸の家に行くから。」
そう言って電話を切った。
なんだか、締りのない展開であるが、「優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜」も、もはや、終わりの始まりに、実は近づいているのである。がんばって着いてきて欲しい。
グッドラック。
此処は大塚、俺は、街の優しい探偵だ。
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