第3話 「優しい探偵だ」

 改めて僕の紹介になる。木村玲きむられい38歳、七夕生まれ、新潟県上越市出身、雪国育ちの寒がりである。


 4大卒業後、私立高校社会科教諭として勤務。35歳まで12年働いた。仕事はソツなくこなした。

 しかし出会いに恵まれず、ことごとく成就しない。良き伴侶も見つからないまま13年目に入ったそんな時だった。

 小学生時代の恩師・中山先生が亡くなった知らせがあった。そして、僕はようやく思い出した。


 中山先生が低学年の頃に読み聞かせてくれた江戸川乱歩の「時計塔の秘密」である。


 当時、僕は、江戸川乱歩えどがわらんぽに夢中だった。怪人20面相、少年探偵団、手当り次第に乱読する僕を見て、クラス内で江戸川乱歩ブームが起きた。

 そんな中、みんなの声に応えた中山先生が、わかり易い児童文学ではなく、ややもするとおどろおどろしい探偵小説を優しく噛み砕きながら、読み聞かせをしてくれたのである。懐かしい想い出だ。


 当時の僕は、「何か謎や事件はないか?」なんて不謹慎な事を夢想しているような、ヘンテコリンな少年だった。小学生に事件など起きるわけもない。


 いや1つだけあった。同級生に差出人不明のラブレターが届いたのである。さっそく僕をリーダーに数人が徒党を組み、告白を受けた友人の承諾は得て調査に乗り出す。今思えば、全くデリカシーの無いバカタレである。

 さらに僕は、中学高校と「シャーロックホームズ」や「三毛猫ホームズシリーズ」も大好きになる。さらに探偵や推理に夢中になっていったのである。


 そんな思い出が次々と思い起こされた時、僕は自分の何か運命を感じ、探偵になる夢を実現してみることにしたのである。


 考えてみたら、蓄えもまあまあ、ある。また塾講師なら直ぐに復帰もできるだろう。一念発起して、探偵業を開業した。


 教員時3〜4年目くらいの時に受けもった1年生の生徒が、吉田桃介よしだももすけになる。彼は高校卒業後に看護専門学校に行き、看護師になっていた。


 ずっとなぜか師弟関係があり、悩みは度々聞いていた。彼は民間病院で4年ほど働き、本来なら中堅になり、やり甲斐が出る頃だったはず。しかし、雇われナースに嫌気をさしていた。

 そこに乗じて誘った。年はちょうど10年離れているが、彼とはなぜかソリが合う。



 まあ、全く先の見通しなく、とりあえず俺は蓄えを切り崩した。まずは住まいだ。


 住居兼、事務所は、たまたま大学の親友の荒井あらい君のお母さんが東京の大塚に物件を持っており、ビルの一室を格安に借りた。男2人のむさ苦しい部屋である。


 桃介は、誠実さが売りのなかなかのイケメンで探偵業の助手をやりながら、週に3日程は、ホストをやっている。


 広告宣伝費がバカにかかった。ビラ配りもした。ホームページも作った。


 しかし桃介がホスト業で、お金を入れてくれて何とか経営できているのである。いつまで続くのやら。

 確かこんな言葉あったよね。

 「俺は街のプラ○ベートアイ探偵だ」

いうなら、「僕は街のプライベート愛?」

ってホストかよっ。いやいや、自分で言うのも何だけど、僕は単なる街の「やさしい探偵」だ。

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