第2話 「始まりはいつも秋」

 9月初旬、空を見上げると雲ひとつなく真っ白い空、快晴である。そう、都会にも季節感はある。キンモクセイの香りがする。

 一一一また1年経ったのか…。探偵業もはや3年目になる。


 しかしここ数日、残暑が残ったかと思いきや寒くなり、ジャケットを着ていたら今日はまた真夏日だとか。


 僕ら2人はJR大塚駅近くの吹きっさらしのラーメン屋のカウンターにいた。吹きっさらしでも暑い。ラーメンの湯気が立ち込めていて、なお暑いのである。


 「おばさん、麺硬めって言ったよね?」


 「はあ?硬めだよ」


 「どこが!柔わ柔わじゃん!」


 「木村きむらさん、まあまあ」

 桃介ももすけが止める。まあ確かに650円にしては、だいぶうまい東京豚骨ラーメン。俺は、大好きではある。おばちゃんが作るといつも大体は、茹で過ぎなのである。


 「僕はやっぱ二○系だなあ」

 ボソリと桃介がいう。


 「おいふざけんなよ。あんなコテコテした、富士山みたいなラーメンが食えるか!」

 俺は以前、桃介により二○系ラーメンに連れていかれ、そのボリュームに圧倒され辟易としたのだ。


 「そうですか?僕は大好き。ニンニクマシマシ」


 「いや好みの問題だがな。クセが強い、クセ」

 その時だった。


 「プルルルル。プルルルル。プルルルル」 僕のスマホの呼び出し音が鳴る。


 「はい。木村探偵事務所です」


 「あの……友人に紹介されたんですが…お願いしたいことがありまして…」


 「桃介っ、仕事だ、仕事!」

 桃介は頷き、ニコリと笑顔になる。

 

 「ではお名前は伺って宜しいですか?」


 「わたしは、高木彩花たかぎあやかと申します。申し遅れました」


 「それで、どんなご相談になりますか?」


 「はい。とても、言いにくいのですけれど、夫が浮気してるかもしれなくて…」


 「あ〜、はい、はい。えっと、そしたら、ゆっくり、お話しをしないとですよね。お時間頂けます?もしかして、今日なんかは事務所に来れたりしますかね?料金のご説明も丁寧に致しますけれども」


 高木彩花は、直ぐに話したいと言い、15時ぴったりに事務所に来てもらうことになり、電話を切る。


 何気ないこんな一つの電話が、長い長い壮大なストーリーの、実は始まりだったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る