第38話 「10.中村旅館の痕跡」

  優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

  ーーー京都編❿



 



 「ガチリ」ドアノブが回った。。。


 「えっ!?」

 僕は、恐る恐る中へ侵入した。不味い気はする。俺はもちろんに今までに探偵業で、犯罪に手を染めたことはないのである。


 「待て待て、こじ開けて、不法に入った訳ではないのだ。開いていたから、つい出来心で、入ってしまったただけなのである。過失かしつ錯誤さくご心裡留保しんりりゅうほ。(デタラメの法律用語の意味なので真に受けないで下さい。)僕は、万が一、つかまった時のための言い訳をとりあえず必死で考えていた。」


 中は、もちろんに真っ暗闇である。


 「そうだ!スマホ。」


 僕は、古川さんから購入した紺色の牛革のリュックサック(京都にきた時からこれである。)の前ポケットから、スマホを取り出すと、ライトを点灯させ、周りを照らして見る。進めそうである。靴を脱いで上がる。 


 

 入ってすぐ、廊下になっていた。廊下の両脇には、旅館の客室らしき扉が規則的に並んでいる。さらにライトで照らす。扉は、旅館の看板にも似た、細木の格子が扉を囲むようなデザインである。扉の上半分は、曇ガラスのようになっている。1枚の横開きの扉だ。

右側へスライドさせる。


 「ガラ、ガラ、ガラ、ガラ」


 右側へドアが滑る。客室の玄関があった。

そのまま上がる。中は、もちろん空室で、畳の匂いがした。家具は何もない。

そんな、7〜8畳ほどの部屋が、廊下の両脇に左右対称に、全部で8部屋くらいあった。目が段々と慣れて暗順応してくる。



 1階を見終えて、上に上がる階段を見つけて登った。ギシギシと音が響いた。


 2階に上がると、そこは、ほぼほぼ1階と同じ作りだった。違うのは、奥に歩いて行くと、洋式のドアノブの扉の部屋が4部屋あったことである。廊下を挟み、両脇に2部屋ずつある。


 その中の1つの部屋に適当に入ってみた。

 「ガチャリ。」

 ドアノブを回して、中に入ると、そこには、古びた本棚がポツンとある。どう見てもこの部屋は「プライベート空間」に見える。そんな生活感が漂っていた。

 

 本棚の本をライトで照らす。背表紙が、かすかに見える。薄い何かの雑誌類がある。百科事典、文芸誌が何冊かある。漫画の単行本や、小説みたいな小さな文庫本も何冊かある。


 「おっ?」


 1番下の段に、「アルバム」があるではないか。大きなハードカバーの厚いアルバムが3冊。色が白、緑、赤、そんなカラフルな背表紙だった。


 片っ端から開いてみる。白いアルバムには、男の子の赤ちゃんの写真がたくさんあった。たぶん豊彦なんじゃなかろうか。想像はできる。全てライトで照らして目を通す。


 「豊彦と一緒に、大知の面影がある少年が一緒に写っているのか、いないのか、そこが気になる。」


 3冊目の赤いアルバムは、小学生くらいの少年達の集合写真がたくさんあった。何人かの男子学生と一緒に写る少年。またその少年と、母親、父親とのスリーショットが度々にある。これが豊彦だろうな。


 「ほっそりした小柄な少年であった。何か弱々しくて、ドングリの帽子みたいな髪型である。」


 色んな場所での写真が赤いアルバムにはたくさん綴られていた。


 「う〜ん。」


 僕は、思い切って、赤いアルバムを外に持ち出すことにした。階段を静かに降りて、裏口を静かに出ると、いきなり明るい場所に出る。


 いいオッサンが商店街の道端で、大きな厚い裸の赤いアルバムを抱えているのである。完全にヤバい人ではないか。


 僕はすかさず、斜め道向こうにある、灯りが明るめの喫茶店に飛び込んだ。


 「コーヒー1つ。」


 若い店員が直ぐに出てきて「は~い。」と返事をして、奥に引っ込んだ。


 僕は四人がけのテーブルを陣取り、アルバムをよく吟味した。持って帰りたいのは山々である。

 そもそも、どう言い訳をしても「住居侵入罪」だ。さらに「占有離脱物横領罪」というのになるのかなあ。いや、単なる「窃盗」である。

 

 僕は、盗むのはまずいから「パチリパチリ」とスマホに写真を1枚ずつ手当たり次第に、撮影した。

 一通り撮影し終えると、コーヒーをそそくさと飲み、しかし少し心を落ち着けてから、また旅館の裏口から2階に上がり、本棚の所定の位置に、赤いアルバムを戻した。



 そして、早々に、立ち去ろうとした時に「カサッ」何かが足に触れて倒れた。



 足元に目をやると「お〜いおっちゃん」と書かれた最近にコマーシャルでも見るような新しい銘柄の緑茶のペットボトルにつまずいていたのがわかった。

 

 「う〜ん。旅館潰れたの数年前だしなあ。」

 高木大知が、来ていたのだろうか。。。


 しかし、僕は、ペットボトルを拾い上げると、逃げるように部屋を飛び出したのである。



 盗んだバ○クで走り出す。行く先もわからぬまま〜、くらい夜のとばりのおお、なかあ〜え〜、ええ〜えええ♫


 かなり悪いことはしたが、バイクは盗んではいないのである。





 ※この作品はフィクションです。あらゆる登場する人物、団体、すべては、架空であり、またあらゆる犯罪、非道徳な行いを勧めるものではありません。また、コンプライアンスにも常々、重々、配慮しています。空想のお話です












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