第30話 「4.灼熱のホットケーキ」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

 ーーー京都編❹



 真夏の様な日差しの灼熱地獄を歩いた。美幸と僕は、汗だくである。

 美幸は、羽織っていたジャケットセーターを脱ぎ、脇に畳んで、抱えていた。

 

 流石に疲れた12時10分。僕らは、河原町のある商店街の店で、ランチ休憩にした。

美幸は帰らないとだし、余り選り好みして、選んでもいられない。そこにたまたま、道すがらにあった喫茶店である。


 店の前に行列があり店員が一人立っている。


 「待ちますか?」


 「ランチメニューは混みあってますが、軽食と甘味なら直ぐですよ」

 にこやかにすすめられた。モダンな服装である。


 何か行列があるから美味しいんだろうし、早いならオッケーかな…。


 「美幸、ここ洒落てるし、いいよね?」


 「そうだね。雰囲気いいね」


 中に入ると、やはり何かメルヘンチックな店の作りなのである。


 「純喫茶ワイズ」と茶色い装丁の厚紙表紙のメニューには、店名が書いてあった。ホットケーキが名物らしい。サンドイッチが沢山、種類がある。


 店員さんを呼ぶ。


 「すいませ〜ん」

 素早く、さっきと同じ制服の若いおねえさんがきた。


 「何がいい?」


 「私、卵好きだからね。卵のサンドイッチにする」


 「シンプルなのでいいの?」


 「うん」 


 「じゃ僕は、トマトと卵のサンドイッチで」


 「あと、ホットケーキは2人で食べよっか?じゃホットケーキ1つ」



 「あと、コーヒー2つで。いいよね?」


 「いや、紅茶」


 「あっ、はいはい。じゃ1つずつ」


 サンドイッチがくる。

 ムシャムシャ


 「ん?」

 2人で目を合わせる。


 「これなんか違う!」


 サンドイッチの中の卵が「茹で卵」では無く、卵焼きだったのである。


 「トロッとしていいね」


 「そうなあ。たしかにまた違って旨いよ。ただ、俺はテカテカツルツルの茹で卵の方がいいかなあ。まあトマトは旨い」


 「そういえば、夕焼けのママがまかないに、わたしに作ってくれたサンドイッチ、こんなんだよ」


 「あ!ママは出身が京都だよね。京都は焼くのかなあ」


 「かもねえ。帰ったら聞いてみよう」

辛味がある。マスタード&マネーズがアクセントになっていた。


 次にホットケーキだ。(パンケーキ食べたい!パンケーキ食べたい!ってフレーズが浮かぶ)


 「表面がパリパリだね!」


 「中はふわふわだな。ほのかな甘み。これは薄味好きの俺にはストライクだよ!」


 「えっ、ほのかな?シロップが甘いよ」


 「あ。俺、シロップかけてないし」


 「昔ながらの?なんだろうなあ。作れそうでつくれないんじゃない?」


 コンコン(咳き込む)


 「美幸だいじょうぶか?焦って食べるなよ」


 「なんか、く、くるしい…」


 「たしかに。サンドイッチにホットケーキでは、乾燥したパンばかりで消化できんよな」

 一一一しばし、ゆったりと僕らは過ごす。


 「そういやね、バスに乗るときに思ったけどな、京都の人ってなんか、あまり急いでいなくないか?なぜあんなに空気がゆったりしているんだ?」

 行きのバスは、実は繁華街に行くとあって、めちゃくちゃに混雜していて、ひいひい言いながら、僕らは、並んで乗ったのだ。


 「あっ。そう言われて見たらね」


 「東京並みに人はいるし、混雑してる。なのに焦らないでマイペースに、笑いながら話しながら待っていたり、何か余裕だよな」


 「そうだね。押す人もいないしね」


 「しかし秋なのに暑いよな、京都って」


 「山梨とか京都は盆地だからでしょう」

 僕らは京都の印象をしゃべり続けた。


  少し会話が途切れた所で、美幸がスッと席を立ちあがる。

 「じゃ私、東京帰るね」


 「わかった。気をつけてね、駅まで見送り出来無いんだけど、すまない」   


 「大丈夫だよ」

 「次は仕事じゃ無く必ず来よう」

 「そうだね」 

 美幸が微笑んだ。

 

 僕らは、会計を済ませると、路上でそれぞれの行き先に別れる。

 「がまだすばい!」

 「オッケ!」

 パシーン、片手で僕らはハイタッチした。



 一一一そして、当然に僕は一人になるのである。

 孤独な戦いのはじまりなのである、かもしれないのであった。


 続く

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