第29話 「3.美幸が怒る河原町」

 優しい探偵〜街の仲間と純愛と〜

 ーーー京都編❸



 暑い暑い1日が始まった。もう10月にとっくに入っているのに、京都は炎天下だった。ギラギラ照りつける太陽に辟易とした美幸と僕が居る。

 美幸は黒いほっそりした水玉のワンピースに素朴な白いセーターを羽織っていた。僕はカジュアルシャツにチノパン。ふたりとも汗ばむ。朝から東京より暑いのである。


 朝早い7時に2人で駅前のチェーン定食店で朝食を食べる。


「暑いし、眠いね」


「私、用事あるんだよ。ランチしたら早めに帰るばい」


「ばい、お。そうだよな。わざわざ1日居ないのに来てもらって、ありがとう」


 僕らは、とりあえず凛の話していた「河原町かわらまち」を探した。


 そして、「河原町のつぶれた旅館」を見つけないと。


 凛が「お父さんが亡くなり廃業した」みたいに話していたからな。


 河原町で聞き込みしながら、今日は美幸とプチ観光だ。幸いに河原町は繁華街みたいで京都の中心らしい。



 しかし、いきなり京都らしさに気づく。


 「カワラチョウってどうやっていきますか?」

 街の人に聞くと「カワラマチ!」何人にも強く訂正される。


 「う〜ん。だいたい、地名の漢字がみんな京都はむずかしくて、だいたいが読み方わからない」


 バスに乗ると、


 「かわらまちはね、三条か、四条で降りて下さい」と運転手さん。


 「は?河原町っていうバス停は、ないんですか?」

 「……」

 聞こえてないか、まあいいや。


 三条のバス停で、とりあえず降り、僕らは昼まで彷徨った。


 とりあえずは「本能寺」が近かったから、観光する。


 「はあ。あれが本能寺かあ」


 「織田信長は、本能寺の変で裏切りに会ったんだよね?」


 「そうだよね、僕、先生してたでしょう。でも、実は昔は、日本史が大嫌いだったんだよ。高校時代は、西澤先生に、赤点をつけられてさ、『木村君なあ、社会科教員になりたいなら、世界史だけでなく日本史学ばないと』って、当たり前なことを真面目に諭されたよ。先生どうしてるかな…」


 「へえー。意外だね〜。私は日本的なもの好きだけどなあ。歴史は対して知らないけどね。でも、れいさんは先生の事よく覚えてるよね。私、高校の時、グレてたし、あんまり好きな先生とかいなかったかも…」


 「うむ…美幸のグレ方が俺よく想像できんのだけどなあ。ど、どういうアレなのかな」


 「いいよ。知らなくて」


 「はあ…」

(美幸は、清楚系美人だけど、たまに謎めいているんだよな)


 本能寺の案内ガイドの女性に、なんとなく話しかけたら親切に何かと教えてくれた。


 「本能寺は消失移転したのは……かくかくしかじか……本能寺の住職はもともとは……なんですね〜!」


 「おねえさんは、しかし、しっかり、爽やか丁寧に解説するね!素晴らしい!」


 「ありがとうございます。(ニコッ)」


  そうなのだ。僕は、このような直ぐに思った「感想」を素直に述べてしまう癖がある。悪口ではないからいいのだけれど、たまに必要ない事を述べて失敗することがある。


 おねえさんから離れて境内に向かう。




 「オイ!」

 バシッ(蹴り)


 「は?!なんだよ?」


 「綺麗な女性に直ぐに優しくするよね」


 「は?!素晴らしいって言ったのが優しいになるのか?」


 「女性といる時は、他の女性をフツーは、褒めないんだよ」


 「そんなことないでしょ…いや、わかったよ。怖いなあ(グレてたってヤンチャな感じなのかな、なるほどね)」




 本堂の中にはいると天井が高く、様々な黄金に装飾された物体が幾つも無数にぶら下っていた。どこか不思議で荘厳な空間美が、広がるのである。


 「ふう〜。寺ってなんか、神々しいよなあ」


 「うん。仏閣とか神社とかって、独特な空気感があって私も好きだよ、今度来る時は、沢山いろんなとこ回りたいよね〜」


 「そうだよなあ。今度は、誰と来るかなあ」

 「私じゃないんかい!」

  バシッ(蹴り)

 「じょ、冗談だよ、冗談。も、もちろん美幸と来たいよ、マジ怖いんですけど」



 本能寺を後にして、河原町と思われる商店街の店をバラバラと適当に聞き込みする。


 カバン屋、洋服屋、靴屋、小物屋、きしめん屋、本屋、名札屋、お土産屋、歩いて、訪ねて、聞きこみしたのである。

 

 とある、扇など美しい和的な雑貨が並ぶお土産屋さんに入り、60代と思われる女性の店員さんに話しかけた時である。

 

 「河原町の潰れた旅館?」  


 「すいませんね、変な事を尋ねて」


 「旅館は、あるんでしょうけどねえ。旅館が有りそうな所って言ったら、そこの道を行った先のN町とかね、そこにあるわよ。あとK町辺りにもあるわよねえ。で、あなた達ね、河原町の大通りがあるでしょう。この辺り全部が河原町って言うのよ」

 一一一親切に教えて頂く。


 「美幸、おばちゃんの話し、聞いていたか?河原町って地名がないんじゃないか!河原町地域が正解な意味なんだろな」


 「そうなんだ。京都は、何か、何でも、難しいんだね〜」


 

 確かに、河原町通りに面した町、すべて河原町とはない。しかし皆が口を揃えて「河原町」と総称しているの事が、その後によく理解できた。不思議な京都である。


 僕らはかなり彷徨う。

 「しかし…京都は、暑いなあ〜」

 「そうだね〜、おおごつね〜。甘く考えとったばい」

 美幸は、汗ばんで、辛そうにしている。


 「うん。熊本弁出してきたね。ごめんなあ。俺もこんな大変かと思ってなかったよ。つき合わせてすまないな」


 僕らは、ボソボソと呟きながら、道を2人歩いたのである。

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