第18話 「大塚・焼き鳥と仲間達」

 美幸みゆきとまた〜。どこへゆく〜。幸せを探しに行こ〜よ〜♫

 こんばんは。お馴染みのメロディから替歌で始まりました、始まりました!ワイワイガヤガヤ。うるさくてごめんなさい。



 朝比奈美幸あさひなみゆきと付きあって、1ヶ月が経とうとしていた。日々、幸せを共に探す旅である。


 美幸がある時、「俺の同級生の居酒屋に行きたい。」と言い出したのである。


 「焼き鳥大吾やきとりだいご」、俺の大学法学部の同級生「キイチ」が店長をする大塚にある街の大衆居酒屋だ。


 キイチは大学時代に新聞奨学生をしながら、大学に通う勤労青年だった。


 野球サークルで一緒になり仲良くなった。大塚に実家の焼き鳥居酒屋があり、たまたま連絡が取れて居酒屋で再会を果たし、常連になったわけである。


 キイチとは「大塚健康ブレーブス」という軟式野球チームに現在に揃って在席しており、カープファン、いつも赤い服の「粟原君こと、あわちゃん」も一緒に野球している。



 土曜日、夜の19時に美幸と待ちあわせして「焼き鳥大吾」を訪れた。店内から煙がモヤモヤと、たちこめていた。


 ガラガラガラガラ。


 「れーい!!いぇーい!」

 入るなり、キイチが叫んで奇声をあげた。


 「う、うるせ〜よ。アホか!キイチ。入るなり叫ぶクセ治してくんないかなあ。びっくりする。美幸が驚くわ。クセが強い!クセ。」


 「クスッ」美幸が笑う。


 「やっぱ、キイチ君、聞いてたとおりだったよ。」


 「誰だよ、れ〜い!その?」


 「美幸。なんとなくはおまえだけにはあわせたくなかったよ。美幸が来たい言うからしゃあないもんな。」


 「テーブル席いいか?」


 「おう。空いてるとこ座って。」


 テーブルは、8テーブル。カウンターは10席くらいあり、なかなかに広い。コロナ禍とあって客はやはり、まばらだ。


 カウンター寄りのテーブルに座る。


 「美幸は、焼き鳥好きなんだっけ?」


 「そうだね。なんでも好き嫌いないよ。」



 「じゃあ、ヒカルちゃん!注文、お願いします。」


 吉田ヒカル。吉田桃介と紛らわしいから、ヒカルと呼ぶ。店員さんだ。キイチ、俺、僕らより2つくらい年上だ。なかなかの竹を割ったような男前キャラ。


 「木村さん、あっ。女性!珍しいね。」


 「美幸、ヒカルちゃんね。」


 お互いに恥ずかしそうに会釈を交わす。ヒカルちゃんも実はシャイ。



 「じゃあ、注文しちゃうか。ねぎま4本?皮?」


 「あぶらは食べないかも〜。」


 「あ、じゃあ皮を2本、レバー、2本。」


 「私、アスパラトマトがいい!」


 「あっ、トマト旨いんだよね。ナイス。じゃあそれ4つ。」


 「生ビールでいいよね?生2つ。」


 「はいはい。」


 店内を見渡したら、カウンターに、少し大柄の優しい笑顔のオジサンと目が合う。


 「こんばんは~!白木さん。」


 「おお、木村くん。元気〜?」


 「常連ですよね〜、白木さんも。毎日きてます?働いて下さいよ。」


 「ははは。安いし、うまいしね。落ち着くよ〜、ここはね。」顔が赤らんでいた。皿には鶏皮が5本並んでいた。


 「白木さんは皮好きですよね〜。」


 「おっ!なんで知ってんの?鶏皮は塩だよなあ、やっば塩!」


 「わかりますよ、ぼくもこの年になるとタレは食べないかなあ。タレはしょっぱいしね。」


 白木さんは、キャラクターショップで働く店長。50歳くらいかなあ。こういった、かわいい趣味の同性は珍しくて直ぐに仲良くなった。今日も愛用のスヌーピーのワンポイントが入った黒のショルダーバッグを傍らに置いていた。

 実はシラフでは言葉少ないキャラの白木さんであるが、今日はよいもまわり饒舌のようだ。なんとも言えなく大好きである。


 「あっ!古川さんも居らしてるじゃないですか。」


 古川さん、70代かな。また常連だ。優しいオジサン、オジイサンかな。


 古川さんは(鶏皮ではない)本当の皮(皮革)から手作りの素晴らしいバッグを作る職人さんだ。実直で腰が低い。いつもレバーを好んで食べている。


 「すいませんね、いやいや。木村さん、いつも声かけてくれてすみませんね。探偵さんは忙しいですか?」


 「いやいやボチボチですよ。古川さん、バッグ売れてますか?」


 「これが厳しい……なかなかデパートに出してもコロナでデパートが客が減ってんですよ。」


 「コロナで、商売はみんな影響ありますよね。やはり探偵業も、問い合わせ自体が減ってますからね。なんとも世知辛い世の中ですよね。」


 「そうですね…木村さん。確かに、世知辛い世の中だけど、だけどね、良いこともあります。だから嬉しくてね。だから働けていますね。」


 「古川さん、深いです。嫌な事があるからこそ、良いことを嬉しく感じられる、そんなとこもありますね。良いお話をありがとうございます。」


 「いえ、いえ。そんな。いつも声をかけて頂いて、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。。。」 

 

 やはり、古川さんの人の良さと、腰の低さは尋常じんじょうではない。いつもお礼を3回連続に言う、そんな優しい人生の大先輩なのである。


 「なんか、れいさんって、友達多いよね。」

 美幸がポカンとした顔で言った。


 「確かに多いかも…ただ誰とでも仲良くならないけどね。美幸もみんなと友達になればいいじゃん。」



 「朝比奈美幸です。熊本出身です。宜しくお願いします。ニコッ。」

 美幸が白木さん、古川さんに挨拶した。


 「我が彼女ながら、殺人的スマイルだな。」


 「美幸ちゃん、熊本かあ。くまモンかわいいよね。よろしくね。」白木さんは、明るく返し、古川さんは優しく「うんうん。」と頷いた。


 大塚の街はこんなに温かく、優しさにあふれているのだ。


「東京砂漠」なんて誰が言ったんだ?






 人生の本質はで出会いである。人は人に出会うために生きている。(木村れい)






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