第19話 「鰆の切り身と大展開」

 「おはようございま〜す。」


 10時過ぎにパーテーションの奥から、桃介は起きてくる。


 僕はホームページの定期的な更新中。仕事は、なかなか来ない。


 桃介は、ホストを午前3時過ぎまでやり、10時〜11時に起床。また、僕は毎日7時に起きて朝食を食べて、9時には仕事につくサラリーマンスタイルを貫いている。


 事務所の間取りを説明をしよう。事務所は、オフィス兼、生活スペースだ。


 部屋は一つしかなく特には広くない。


 オフィスはソファが4つ。テーブルが一つ。まさにワンパターンな小さな探偵事務所を絵に書いたような作りである。


 パーテーションで区切られた生活スペースには、貧相だが、ツルツルの床に、ゴザをひいて布団を敷いて寝ている。ぼくも桃介も布団派でベッドではないからだ。


 桃介は起きるなり「スーパーに買い物行ってきま〜す。」と言った。 


 桃介は料理が好きでかなり助かる。やはり外食ばかりしていたら経済的苦しい。


 桃介が出て間もなくスマホが鳴る。プルルル、プルルル。


 「はい。木村探偵事務所!ご要件は?」


 「きむらさん?家賃が引き落とし出来てないんだけど、だいじょうぶなの?」


 ビルの家主の「荒井さん」だ。大学の友人の荒井博文あらいひろふみくんのお母さんだ。荒井博文くんは、ちなみに大学時代に有名なマラソン選手である。箱根の勇姿を僕は忘れないだろう。


 「あれ?すみません。口座に現金入れ忘れましたかね。はい。はい。入れます。すぐさま入れます。至急入れます。入れ忘れました。ごめんなさい。申し訳ない!」


 「木村さ〜ん、家賃、息子のお友達だからかなりオマケしてんだからね、しっかりお願いだわよ。倍にしちゃうよ。トイチで利子取るわよ。」


 「またまた御冗談を。マジメに、本当に、申し訳ありません。は。はい。博文君にも宜しくお伝え下さい。」

 

 「あなた、たまに、抜けたとこあるからね。おばさん、心配なのよ。」


 「いつもご心配おかけしてすみません。あ、博文君は、元気にしてますか?」


 「あの子、彼女と仲良くやってるみたいよ。早く孫の顔が見たいわね。」

 

 「そうですか。まだお子さん居なかったですよね。」

 

 「まあ、あの子の人生だからね。」


 「ええ、ええ。うちの母親もやはり孫が見たいのかなあ。」


 「まあ、それはわかんないわよ。」


 「じゃあ、まあ、取り敢えず、トイチは無しでお願いします。」


 「きむらさん、じょーだん、よおおお〜〜。じゃあ、家賃よろしく。」

 ガチャ。ツー。ツー。ツー。



 うーん。嵐のような電話だな。そして荒井さんは実にズバリとストレートに話す。とても奥ゆかしいところもあるが、なかなかに手厳しいので頭があがらないのである。





 暫くして、桃介がスーパーから帰る。


 「しのちゃんに会いましたよ。」


 しのちゃんは、駅近くにある「南部ストア」の店員さんだ。大塚に自宅があり両親と住む、30歳手前だったかな。


 しのちゃんもまた、昨日会った「キイチ」、「ヒカルちゃん」、「白木さん」、「古川さん」、「たかちゃん」らと共に「焼き鳥大吾」に集う仲間なのだ。

 何かどこかボーイッシュな、笑顔の眩しい女の子である。


 「あっ、そう。元気だった?」


 「なんか忙しそうでしたよ。」


 「そうか。正社員になれたらいいのになあ。確か準社員とかだったっけか?」


 「そうでしたよね。フルタイムなのにね。」


 「な。」


 「さわらの切り身、豆腐、じゃがいも、人参、ほうれん草、オクラ、大根、あとは木村さんの好きな冷凍グラタン3個セットに、デザート2つ。あとは保存のきく、乾麺蕎麦、冷凍讃岐うどん、ミートソース、カルボナーラソース、カップ麺、カップ焼きそば、格安ビール3つ、あと避妊具と…。」


 「バカ!小説なんだから、そんなリアルなもの出したらいかんよ!確かに美幸が買っとかないから、頼んだけどもさ。」


 「まあまあ、明るい家庭は、計画的に、ですよ。」


 「全く。医療従事者は、そういうデリケートなことを、しれっと言うなあ。」


 「やっぱり、命を守る医療従事者ですからね。」


 「うーん、なんだかな。」



 

 桃介は料理に手早く取り掛かる。手際が良い。料理が上手いというか好きだ。桃介に彼女は居ないが、良いイクメン?になるだろうな。


 「ではおまたせしました〜。さわらのムニエルに、オクラに鰹節かつおぶし、豆腐とワカメの味噌汁です。」


 僕らは仲良くご飯を向かい合い食べた。


 「やっぱ、炊きたてご飯は旨いな。」


 「そっすね。」


 「うん、鰆はバターが効いていて良いな。」


 「そっすね。」


 「オクラのシャキシャキ歯ごたえな。」


 「そっすね。」


 「お前さ!そっすね!しか言わないな、さっきからさ。感動を表現しようよ。そもそも桃介が作ってんだしな。」


 「はあ。まあ、旨いっすね、我ながら。」


 「あら?味噌汁は味は薄めで出汁だしが効いてよし。しかし、またきぬ豆腐なの?」


 「僕は絹派です。」


 「いやなあ、やっば豆腐は木綿もめんだなあ。絹は食感がツルツル過ぎて情緒がない。」


 「木村さんは目玉焼きもソースですよね?ちょっと変わってますよ。」


 「いやいや、目玉焼きはソースは確かに百歩譲って変わっていると認めよう。しかし、豆腐が絹か木綿か?は゛関口宏のクイズ100人に聞きました゛でも、たぶん半々だぞ、おい!」,


 「なんすか?その100人なんちゃらって。関口さんはサンデーモーニングしか知りません。」


 「時代だなあ…。」





 その時に、俺のスマホが鳴った。

 プルルル。プルルル。


 「はっ、はい。木村探偵事務所です。ご要件は?」


 「あっ、あ、彩花です。」


 「あっ、久しぶりです。その後はどうですか?」


 「いや、それが、主人が3日もう帰って来ないんです。仕事に出たっきり…。」


 「何があったんですか?」


 「勇気出して話したんです。朝に仕事に家を出るタイミングで。」


 「なぜ凛さんと会っていたのか?って。」


 「大知さんは、なんと?」


 「すまない。そう言ったまま……。」


 「言ったまま?」


 「そのまま出たきり、戻りません。」


 「わかりました。凛さんのとこにいるかもしれないですね。私が連絡取ります。」





 大展開します。

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