第8話 「がまだすばい」
眩しい。あと何か雑音で起きた。
「あれ。ここどこだっけ…」
目をこする。(あっ、美幸の家に泊まったのか)何か信じられないような気持ちになる。しかし僕の身体に美幸のシャンプーの匂い?ぬくもりが残っていた。
目の前には、ちゃぶ台みたいな小さなテーブルが置いてある。昨日は無かった。
美幸の横顔がある。テーブルに向かい美幸が正座している。
えんじ色の、ややハイネックのセーターを着て、ベージュのジーンズ。すっかり身支度が出来ていた。
美幸は、トーストをかじりながら朝のニュースを見ていた。
「今日は暖かくなりますよ!」お天気おねえさんの声が聞こえる。
「あ、ごめん。寝坊した。おはよう」
「れいさん、私、今日土曜出勤だから、もう、出るよ。どうする?一緒に出れる?」
「あ。はい、はい、はい。ごめんなさい。ちょっと待って。ちょまてよ」
木村だが、キ○タクさんではないのだ、キムレイだ。
スマホを見ると7時15分を指していた。慌ててパンツいっちょから、チノパンを履き、淡い縦ラインのカジュアルワイシャツの上から、焦げ茶色のジャケットを羽織った。
「
「あ、合鍵?おう、ま、まあ、いつでも……えっと駅は近いの?」
「10分くらいだよ」
「それなら、またすぐ来やすいな。いや、そんな、図々しくしょっちゅう押しかけないから」
「来る時はラインして」
僕と美幸は、バタバタと家を出た。
美幸はスニーカーだった。僕は合皮のなんちゃって革靴だ。
並んでスタスタと歩くから、手を繋ぐ雰囲気ではない。美幸は事務員の顔になっている。
今みたいに忙しい時は、少し話は違うかなあ。しかし、それを差し引いても、美幸は基本的にクールで、誰にでも愛想が良いタイプではない。気分屋のツンデレ少女である。そんなところも複雑な気持ちだが、僕は、嫌いではないのである。
朝の空気は澄んでいた。日差しが眩しい。少し雲は漂うが、快晴である。
歩きながら話す。
街ゆく人達の足取りは速い。
正直はこういう混雑する時間帯が、僕は大嫌いで、教師時代も朝のラッシュが大嫌いだったし、今も苦手である。
「歩くの速いね。美幸は、寝起きはいいの?」
「あんま得意じゃないよ。今日休みなら良かったんだけどなぁ。得意じゃないけど慣れだよ。れいさんは何時にいつも起きてる?」
「俺はさ、バラバラだよ。まあ規則正しい生活はしたいんだけどね。なかなか会社員みたいな決まった時間はないからね。夜の調査も多いからなあ」
「病院は、築地駅だよな?」
「そう、そう」
「そしたら、俺は反対かな」
その時、スマホにライン通知が入った。歩きながら確認する。早速、
『今日は、遅くなるからご飯はいらない。』と
「お、動くな。今日は桃介は協力頼めるかな。連絡しないと」
呟く。
「ラインきたの?」
「あ。仕事だよ。仕事」
「そっか」
「依頼人の旦那が今日動きそうなんだよ。今日の夜は、忙しくなりそうかなあ。今回の依頼者は、しっかりしてる人だから、収入はまあまあ、確保だよ。うん」
「そうなの?じゃあ、がまだすばい!」
「は?!なんて言った?!今。がまだす?」
「熊本弁で、頑張ってって意味だよ。(笑)」
「おおっ。そっか熊本だよね。ケ○カ・ラーメンのなあ。熊本出身だったよね。がま・だす・ばい?」
「そうそう。くまモンも言ってるよ。がまだすばい。(ニッコリ)」
僕と美幸は、日比谷線の改札を通り、それぞれのホームに向った。
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