第9話 「桃介とカツ丼」

 駅を乗り換え日比谷線から「御徒町おかちまち駅」に移動する。やはり今日は秋晴れだ。9月半ばなのに暖かい。よくわからない天気である。

 桃介に電話した。

 「プルルルル。プルルルル。プルルルル。ガチャ」

 電話口の奥にざわめきが聞こえてきた。うるさい。


 「おい桃介、外か?今日は何してる?」


 「木村さん、おはようございます。昨日どこに行ってたんですか?連絡くらいしてくださいよ。警察のお世話にでもなっちゃったのか、と思いましたよ。カツ丼は出てきたんすか?」


 「カツ丼。お前なあ、面白い事言うよな、昔から」


 「ツッコミありがとうございます」


 「まあな、ほっとけないボケな」


 「で、先生だいじょうぶですか?」


 「あ、すまん。それはすまんかった。しかし、俺なんか善良な都民だろうよ。そんな簡単におなわにならないよ」


 「そうでしょうね」


 「俺みたいな都民をいちいち捕まえて居たら、おまわりさんは忙しくてたまらないし、首都の財政は破綻するよ」


 「はいはい」


 「昨日はなあ、連絡タイミングがなくてだなあ。急遽、宿泊決定だったんだよな。ほら、スナック夕焼けに行ったんだ。でさ、みゆ、いや。なんでもない…」


 「…あら?なんかにごしてますね。僕は、今日はワクチンバイトなんですよ」


 「ああ○○区のコロナワクチンか」


 「そっす。説明案内係みたいな」


 「何時に終わる?」


 「場所は、大手町でしたっけ?」


 「そう。丸の内線だよ」


 「17時に終わるんでソッコーで行けば17時40分には駅に着きます」


 「わかった。駅から歩いて15分もあれば着くよ。旦那は、一流企業だし、そんな早くは仕事終わんないだろう。たぶん動くなら19時くらいじゃないかな」


 「ラインに住所送るから、山坂ビルエントランスに集合だ。なるべく早く来てくれ。俺は探偵セットと軍資金、持参だ。桃介もペン型カメラ持ってたよな」


 「はい。僕のは安売りの6000円のですけども」


 「うん、だいじょうぶ。じゃあ、交代で張り込みだ。まあ、待機場所は、近くに目立たない場所あるかはわからんから、早めに行って見とくよ」


 僕は大手町に、14時には着けるように考える。俺はいつも石橋を叩いて渡るタイプである。駅周辺の道順や立地をしっかり見る。また、張り込みは長い可能性もある。だから桃介と交代しながらやる。

 会社のビル横でもいい。交代で張るし、一目につかず、身を隠して近くで休憩できる場所を探す必要がある。


 「桃介、まさか派手な服装ではないよな?赤いTシャツとかアウトだかんな?」


 「あ、今日は、仕事だし、白衣?」


 「おい。ふざけんなよ!めっちゃ目立つわ!直ぐに拘束されるっちゅうねん」


 「いや(笑)冗談です」


 「今日はカジュアルなスーツスタイルです。自然ですよ」


 「ホスト用のギラギラしたやつでなく?」


 「ええ。僕は夜もキャラ上、ホストホストした服は、着ませんから。シンプルイズベストです」


 「良かったよ」

 電話を切る。14時までに準備だ。頭を練ろう。

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