見栄を張る為に幼馴染に彼女役をお願いした話

月之影心

見栄を張る為に幼馴染に彼女役をお願いした話

 俺は池田いけだ正則まさのり

 田舎の高校に通う2年生。

 学校の成績は割と上位だけど、全国模試とかではぱっとしない事から、そんなに大したレベルの高校じゃない事は分かるだろう。

 容姿については超絶イケメン!……と言いたいところだが自己紹介で見栄を張っても仕方ない……正直あまり自信は無いので割愛する。


 実は今、非常に困った状況に陥っている。

 何かって?

 それは追々。


 ちょうど良いところにこの困った状況を打開出来る唯一の存在が居た。


「お~い!裕菜ひろな!」


 前を歩いていたのは、隣の家に住んでいる幼馴染の美馬みま裕菜。

 超可愛い……かと言うと人それぞれの好みが絡むけど、一般的に見れば可愛い部類に入ると思う。

 パッチリ二重の目にくりんと上を向いた長い睫毛、真っ直ぐ通った小振りな鼻に綺麗な歯並びが覗く口……と、可愛い要素は満載されている。

 本人は『ぽちゃってきた』とは言うがそれはよくある『モデルさんを基準にすれば』の話で、寧ろ俺的にはベストと言っても良い体付きをしている。

 ダサい制服の上からでも出る所と引っ込む所がはっきり分かる体型はかなりポイントが高い。

 性格は明るい方だし誰とでも気兼ねなく話が出来て、学校でも結構な人気者でもある。


「ん?あ~、まぁくん。どうしたの?」


 追い付いた裕菜の隣に並ぶ。


「いやぁ、どこのモデルさんが歩いているのかと思ってよく見たら裕菜だったんで声を掛けたんだ。」


 全く1ミリも表情を変えずに裕菜が俺の顔を見上げてきたかと思ったら、目を閉じて『はぁぁぁぁ……』っと大きな溜息を吐いた。


「何だよその溜息は?」

「今度は何?」

「まだ何も言ってない。」

「まぁくんが私を褒める時は何か頼みごとがあるんでしょ?」

「さすが俺の幼馴染。俺の事をよく分かってくれてるな。」

「ふん。もうまぁくんに褒められても全然嬉しくなくなっちゃったわよ。」


 確かに、いつも裕菜に何かを頼む時は必ず裕菜の何かを褒めている。

 そりゃ裕菜でなくても毎度毎度同じ事を繰り返していればそうなるか。


「まぁそう言うなよ。今度のは裕菜じゃないと頼めないんだ。」

「それも毎回言ってるよね。」

「今度駅前に新しく出来たカフェに連れてってやるから。」


 裕菜が今度は『ふぅっ』っと小さく溜息を吐く。


「はいはい。で?何なの?」

「俺とデートしてくれ。」

「は……デ……ぇっ?」

「俺とデーt……」

「そ、それは分かったから……なな、何で私がまぁくんとデートするの?」


 妙に動揺を見せる裕菜に、俺はデートを申し込んだ理由を話した。




《説明中……説明中……説明中……》




 説明が一通り終わると、裕菜は本日三度目の溜息を吐いた。


「つまり、友達に彼女が出来て自慢されて悔しかった……と。」

「うん。」

「それで自分にも彼女くらい居るって言ったら勝ち誇った顔でダブルデートしようって言われて更に悔しくなってOKした……と。」

「うん。」

「OKしたけど彼女なんか居ないから私に彼女の代役をやってくれ……と。」

「That's right!」

「お断りよ。」

「何でっ!?」

「それはこっちの台詞。何で私がまぁくんのプライドの尻拭いをしなきゃいけないのよ。しかもその報酬が駅前に新しく出来たカフェのAランク和牛100%使用カツサンドと摘みたてイチゴたっぷり特大パフェだけって割に合わないでしょ。」

「カツサンドとも特大パフェとも言ってないんだけど……」


 裕菜は腕を組んで俺に背を向けてしまった。

 言ってはいないけどパフェとカツサンドでも足りないとなると……これは今月の小遣いピンチどころの騒ぎじゃなくなるな。

 今度は俺が溜息を吐いて肩を落としていた。


 ふと顔を上げると裕菜が本日四度目の溜息を吐きながら俺の方を見ていた。


「それで?そのダブルデートとやらはいつなの?」

「明日だ。」

「あしたぁ?何でそんなに急な話なのよ?」

「仕方ないだろ。そういう流れになっちまったんだから。」

「そういう流れで張り合おうとしたのは誰よ?張り合わなければこんな事になってないでしょ?」

「むぅぅ……」


 裕菜の言う事、至極ごもっともである。

 しかし、『彼女くらい居るわぃ!』『おぅ!連れて来てやらぁ!』と豪語した手前、今更連れて行けないとは言えない。


「仕方ないわね……どっちか選んで。」

「え?」


 裕菜はニヤリと口角を上げて俺の顔を見て言った。




「『産地直送産みたて卵のオムライス秘伝のデミグラスソース掛け』を追加するか……」


「も、もう一つは……?」












「私を本当の彼女にするか。」












「は?」




 今なんと?




「え……いや……それって……」

「何よ?選べないの?」

「あ~……そういうわけじゃ……なくもない……けど……」


 オムライスを奢るか裕菜を彼女にするか選ぶって?

 そんなの考えるまでもない……

 比較検討する事がそもそも間違ってるだろ。


「どうするの?」

「いや……裕菜はいいのかよ?」

「何がよ?」

「そんな選択肢……裕菜を選ぶに決まってるじゃないか。」


 裕菜は少し頬を紅く染めてにっこりと微笑んだ。


「じゃあちゃんと言ってよ。」

「……っ!」


 一瞬言葉を詰まらせてしまう。


「早く決めないとどうなっても知らないよ?」

「わ……分かったよ……」


 俺は大きく深呼吸をして裕菜を見た。


「裕菜を本当の彼女にする。」


 裕菜は大きな目を三日月のようにして微笑んだ。


「うん。分かった。まぁくんの彼女になってあげる。」


 本当に……これでいいのだろうか?

 俺は複雑な気持ちだったが、心なしか嬉しそうにしている裕菜を見て、こういうのもありかと頭を切り替えた。


「それじゃあ……」


 裕菜は俺の腕を取って家から逸れる方への道へ俺を引っ張った。


「え?何処行くんだ?」


 裕菜が振り返って言った。








「カツサンドとパフェとオムライスを食べに行くに決まってるでしょ。」


「結局奢らされるんかい!」


 俺は裕菜に腕を引かれながら叫びつつ、友人とのダブルデートの事なんかどうでもよくなっていた。

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