3.「悦ばしき入城」

 そのようなわけで、私はほとんど家の外に出ることすらなかったのですが、ランス市内の慌ただしい様子は十分に感じとることができました。そして、いよいよ「悦ばしきジョワユーズ・入城アントレ」の日取りが七月二十五日に決まったことを知らされたのです。


 私はようやく十五歳になったところで、「よろこばしき入城」とは何かすらわかりませんでした。先王フランソワ様のご戴冠は、私の生まれるよりずっと前でしたから、そのような言い回しがあることも知らずにいたのですね。


 戴冠式に向かう国王陛下が、ランスの市門から入城される日のことをそのように呼ぶことは、すぐわかりましたが、何がそれほど「悦ばしい」ことなのか、私には想像がつきませんでした。それに、異教徒や異端から祖国を守るのに尽力された先王陛下を悼むより、なにやら賑々にぎにぎしい祝賀の用意に人々がいそしむ様子を見て、とまどいを覚えずにはいられなかったのです。


 ええ、もちろん。そのとおりです。私自身も、その祝賀のなかで、とても大きな役目を与えられることになりました。この取り決めには、町の名士の方々がこぞって賛意を示されたそうです。父は、そのことをたいそう誇らしく思っていました。


 信じていただけないかもしれませんが、私はそのころ、町で一番美しい娘と言われていたのですよ。輝くブロンドの髪と、透きとおるように白く柔らかい肌。背も、年のわりには伸びておりました。どちらかというと華奢な体つきでしたが、生涯病弱だった母とちがい、私は病気らしい病気もしません。屈託なく、よく笑う娘でした。


「私の可愛いマリー」


 ある晩、父はまた私を呼びつけました。


「聞いているね? 国王陛下がおいでになる日、お前には、とても重要な役目を果たしてもらう」

「はい、お父さま。でも、どのようなお役目なのでしょう?」

「陛下と高貴な方々の一行を、城門の手前でお迎えするのだよ。これからその準備でいろいろ忙しくなる。あとのことは、お母さまが詳しく話してくださるから、よく聞いておきなさい」


 父から聞いた説明はそれだけでした。とても重要なお役目となれば、いろいろ細かく言いつけられるものとばかり思っていたので、拍子ぬけしたと申してもよいでしょう。詳しいことは、その晩のうちに、母から聞かされることになります。

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