第52話「お似合い」
そこに現れたのは、同じクラスの矢田だった。
恐らく同じ中学だった友達と遊んでいるのだろう、学校では見ない顔の男子二人と一緒にいた。
矢田は、俺と有栖川さんが一緒にいる事に驚いている様子で、俺達の顔を交互に見てくる。
そして、他の二人は当然有栖川さんと初めて会うのだろう、有栖川さんの容姿に驚いて釘付けとなっているのが分かった。
この感じ、今日でもう二回目だなとゲンナリする反面、有栖川さんと一緒にいるところを矢田に見つかってしまった事に対してどうすべきか内心焦るが、答えなんてすぐには出てこなかった。
「え、何? この子矢田の知り合い?」
「ヤバくね?」
すると、そんな気まずい空気の中、事情を知らない矢田の友達が早速有栖川さんに興味を示す。
その顔には、完全に有栖川さんに対する異性としての興味が色濃く現れており、矢田の友達に対してこんな風に表現するのは良くないかもしれないが、なんて言うか嫌らしい感じがした。
矢田の友達だけあって二人とも容姿は整っており、同性の俺から見ても普通にモテるんだろうなぁというのは一目で分かる。
だからこそなのだろう、隣に俺がいるにもかかわらず、狙いを定めるような視線を有栖川さんに向けてくるのは。
それには矢田も気が付き、俺達の事より先にそっちを諫めようとするが、スイッチの入ったイケメン二人はそんな制止も適当にはぐらかしてこちらへ近づいてくる。
「君、矢田と同じ学校? すっごい可愛いねビックリしちゃったよ」
「本当本当、良かったら俺達とも仲良くしようよ」
まるで俺の存在など見えていないように、さも友達になりたいだけだというスタンスで、なれた感じで有栖川さんを早速口説こうとしてくる。
「お、おいお前ら」
そんな二人に、矢田は慌てて止めるため割って入ろうとするのだが、やはり聞く耳を持たない二人。
だが、そんな状況にも俺は不思議と安心感みたいなものを感じていた。
それは、今日一日有栖川さんと一緒に過ごしているのだという繋がりの安心感。
――そして、そもそも有栖川さんがうちの学校では何と呼ばれているのか知っているからだ。
「必要ありません」
有栖川さんは、先程まで浮かべていた笑みをすっと消し去ると、冷たい目つきで一言そう返事をする。
そのあまりの冷たい態度に、二人は思惑と大きく外れたのだろう。露骨に戸惑う表情を浮かべる。
「いや、そう言わずにさ!」
「そうそう、俺達はただ仲良く――」
「それが、必要ないと言っているんです」
慌てて取り繕おうとするも、やはり取り付く島など一切ない有栖川さんは、二人に向かってそう冷たくつけ放す。
そのやり取り、そして放つ雰囲気全てが、まさしく『難攻不落の美少女』そのものであった。
有栖川さんは、こうしてこれまで数多の近付いてくる異性を遠ざけ続けてきたのである。
そんな、ある意味はっきりとお断りされてしまった友達二人の肩を、だから言わんこっちゃないという表情でポンと叩く矢田。
「これはお前達が全面的に悪い。彼女は今、一色と遊んでるんだ。そこに割り込むのも、声をかけるのも違うだろ」
そして矢田は、全くもって正論を友達二人に諭すと、それから申し訳なさそうに手を合わせて俺に謝ってくる。
「悪いな一色。この二人も悪気が――まぁ今回は普通にあっただろうな。すまん」
「いや、もう良いっていうか、それは玲――じゃなくて、有栖川さんに言うべき言葉っていうか」
「――あはは、それもそうだよな。えっと、有栖川さん。この二人が申し訳なかった」
「いえ、もういいです」
「そうか、ありがとう。じゃあ俺達は行くとするよ」
そう言って一色は、有栖川さんの許しを得たところで落ち込む二人を連れて立ち去っていく。
しかし、ピタリと足を止めた矢田はくるりとこちらを振り返ると、最後に一言だけ俺達に告げる。
「正直最初はめちゃくちゃ驚いたけどさ、やっぱりお前達はお似合いだと思うよ」
それだけ告げると、「じゃな!」と笑って立ち去って行ってしまった。
しかし、突然矢田から「お似合い」と言われてしまった俺は、矢田がどういうつもりでそれを言ったのか流石に分かってしまっただけに、変に意識してしまう。
――矢田の目から見ても、俺と有栖川さんがお似合いだって意味だよ、な
隣を見ると、先程の矢田の言葉は聞き流したのか、有栖川さんは一仕事終えたようにフゥとため息をついていた。
そしてこちらを向くと、先程の冷徹な雰囲気から一変して、ニコッとまた微笑む。
「それじゃ、次行きましょうか」
「う、うん、そうだね」
「……でも、一つ良いでしょうか」
「な、何かな?」
これで一件落着かなと思っていたのだが、有栖川さんはそう言うとすっと一歩俺の隣に近付いてくる。
「……その、またさっきみたいな事があると、お互い困ってしまうと思いますので」
「う、うん、そうだね」
「だ、だからと申しますか、その、もう少し近くにいた方が良いと思いまして……」
恥ずかしそうに告げる有栖川さんに、俺もそうだねと答えるのがやっとだった――。
こうして、すぐに肩と肩が触れ合いそうになる距離に近付いた俺達は、来た時よりも互いの存在を強く感じつつ、それから漫画の流れの通り一緒に映画を観ていく事にしたのであった。
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